第28話 進化
「一樹、お疲れ〜。今日はみんなで集まってまた勉強会をしようか?」
ようやく学校も終わり、終了の優しい夕日が差し込む教室で僕の机の周りにみんなが集まって、そして美春が僕に言った。
その美春の言葉に、しかし僕は否定のうなり声で応えた。
「う〜ん。今日はTSUTAYAで借りていた物を返さなくちゃならないから残念ながらパスをするわ。じゃあ、みんなお疲れさん。そしてさよなら」
『さよなら〜』
僕達は別れの挨拶を交わしてTSUTAYAに向かった。
10月のうだるような熱さが去って、冬の足音が聞こえているとき、この瀬野の隣(となり)の市赤磐(あかいわ)市でもTSUTAYAが建ったのだ。
僕自身はこういうレンタルものは郊外に建てず、県の中心地に建てるべきだと思うが、しかし、今はこれを利用している。
こう言う物は必要な物だし、僕自身よく利用するが、しかし歴史ある町並みにこんな物は必要ないだろう。
ここでいう歴史とは京都とかの古来の日本を伝えている場所ではなくて、今までの歴史を受け継いできた日本の歴史を受け継いできた町並みのことをいっている。
それを思いつつ、しかし、今の日本ではそれは無理めなきもする。日本人が自分たちの歴史に、生きている街の風土に無関心なままでは難しいだろうと思う。
街作りは政治家達の力では無理だからな。街の一人一人がそれについて考えないと事態が悪化するばかりなのだ。
こういうTSUTAYAなどの大型商店は剣の中央付近に配置して、中心部ではない所は昔の商店街などを存続させる方向ではできない物か。
そんなことを考えつつ、僕はガラスの家に入り、そして適当にシリーズ物の一巻目を二つ借りてでた。
まず、これからみるか。
銀玉のなかで僕は無気力に借りたDVDをとって、パソコンに入れていく。
さっきようやくこなしたノルマを終わったので一気にアニメを見ようと思ったのだ。
さっき借りたものだ。全く、なにも期待をせずに見るか。
そのDVDは『コノハナサクヤ』というアニメだった。巫女さんの衣装を着ている美少女が表に乗っていたので、適当なラブコメだと思ったのだ。
まず、政策関係者のロゴが入り、そしてまず銃を構えた軍隊と誰かが戦っている姿が映った。当然、アニメの上席にあるように正規の軍よりも、戦っている一人の女性の方が強い。それがアバンとしてあり、次第に物語が展開していく。
…………………。
見た感想。別にあまり期待していなかったけど、しかし、あまりに期待の範疇内(はんちゅうない)だったので逆に安心した。
冴えない男子が、いきなり超能力者達とのバトルゲームに巻き込まれて、それでその超能力者達が全員女子という設定だ。
しかも、その女子達は一般人と契約をしないとその力を伸ばすことができないんだと。それでやっぱり、お約束を外さず、そのさえない男子が表紙の女子と契約を果たして、1話で出てきた超能力者達を退けるのだ。
そして、その子だけ契約をするという話しでもなさそうだ。何か、仲間になりそうなツンデレ女子とか、2話で何か窮地にたされている幼女もでているし、そっち系と行ったら、そうとしか言えないのだが、そういうストーリーだった。
何をしようか?アニメも終わったし、あまり続けてもう一つのものも見るというのもなんだし、ここは寝るか。
そうして、僕はベッドに寝そべりそのまま闇に落ちた。
さて、これを見るか。
着替えたあと僕は、一つのDVDをとる。これもラブコメのアニメだ。タイトルは、『lovely confusion』だな。
最近勉強づくめで日曜の朝でも正直言って気力がわかない。
なので、朝の一番にアニメを見てから思いっきり集中しようと思ったのだ。
まあ、でも女子がたくさんでているので、どうせハーレム系のアニメだろう。
そんなに期待をせずに僕はさっと、それをパソコンに入れた。
最近勉強をし続けているせいか、何となく物が白黒のように見える。
疲れがたまりにたまっているのだろう。ちょっとうまい休息方法も考えないとな。
そんなことを考えてえると、アニメが始まった。最初は黒髪のロングヘアの女の子がアバンとして登場した。
なんか変わっているな。演出の仕方がコメディっぽいし、コメディ重視なのか。
そして、僕はそれを見た。ストーリーは最初の話しだと篠田深空(しのだみそら)という女の子がある男子生徒六条綴(ろくじょうつづり)に恋をして、その恋をしているらしい。このまま、正統派のラブコメとして物語が始まるのか?あの甘ったるいリアリティのない話しが始まるのか。
と思っていたら、その少女から変わって、いきなり不良の男の視点になった。彼の名は平信太。どうやら不良であるらしい。
しかも、彼は前に登場した篠田深空に恋をしているのだ。
これは三角関係か。ラブコメの定番だがそれで思うにならない恋のストーリーが始まるのか。
平信太がクラス替えの掲示板の前に立つ。篠田深空がいる組はD組。彼は自分がそこへ入れるように念を込めて気力をためていた。
念てなんだ。劇画のような迫力のある顔がアップにされているけど、これで笑うのか?しかし、よくわからないぞ。
そういうスポ根の根性シーンのような迫力が極限に高まったときに、一人のモブキャラがが水を差すように突然ぽんと現れていった。
「平さんはC組ですよ」
いきなりそのモブキャラに食らわす必殺の一撃。平曰く、念を込めていたからパワーが強えだろ、と言う話しだ。
悪態をついて、平は自分のクラスを見る。思わず、見ずにはいられない魂の行動だ。そこに書かれてあったものは………………。
シンター・イラ。
唸る拳。第2の鉄拳がそのモブキャラに振り下ろされる。結局、平がC組だったというのは勘違いだったのだ。
平はまた気を取り直して、D組を(今度は普通に)見る。だが、その掲示板に彼の名はなかった。
彼は天に発する激情で憤慨(ふんがい)し、また自分がどの組であるかをA組から探した。
Aにはない、Bも。彼は奮起(ふんき)の足取りで組を見ているが、最後の方になるにつれその足取りは重くなった。
そして、全ての組を見終わった彼は言う。
「あれ、俺の名前がない」
そこへその学校の先生がやってきて彼に一言言った。
「何をやっておるんだ、平。お前は留年だろうが」
それで正気に返る平。そのままとぼとぼそこへ離れていった。
そして、その場面の続きから篠田深空は自分が思っている相手、六条令が同じ組でいるので有頂天になっていた。ついに、彼女は彼が自分と同じ組であることに気づくが、彼は明日アメリカに転校をしてしまう事を聞いてしまう!
衝撃の事実を知った彼女は落ち込む。妹は短い夢だったね、というが彼女はこの状況を打開する意志を持っていた。そして、具体的になをするかというと…………………。
「掃除をしてから考えよう」それが終わったこの局面をどう打開するのか?篠田深空。
「洗濯物を取り込んでから考えよう」また、新たな家事が終わったぞ。今度こそ六条に対してのアプローチを考える思考をたぐるときだ。
さあ、いけ深空。それで深空は何を考えたかというと……………。
「皿洗いをしてから考えよう」
最後の場所だ。もう、夜遅く時間が残されていない。今こそ、真剣に考える最後の機会だ。このまま放っておいてそれで良いのか深空!?
そして、深空は決心をした。今自分が何をすべきか。彼女はそれはわかりきったことだ。そして、その行動とは………………。
「寝てから考えよう」
そして、彼女は就寝をしたのだ。寝なければ人体の健康に悪影響を残すからな。
潜り込んでいたのだが、すぱっとベッドから上体を起こす美空。
彼女は言う。「このままで終わって良いの?篠田深空?このまま思いを告げずにわかれるの?ううん、だめだ。それじゃあいけない。思いを、六条君に思いを告げよう」
そうして彼女は冬にすっと凛(りん)と立つららのように座って筆を持った。
決めれば早い物で、彼のことを好きですと言えば良いだけの話しだ。なにも難しいことはない。
そう思って彼女は「私はあなたのことが好きです」と書こうとしたとき、しかしその時好きのすで顔が恥ずかしさのあまり紅潮(こうちょう)をする。「スキーをしている所を見てみたい」、に誤って書いてしまった。
憤慨(ふんがい)する彼女。自分が書こうとしているのはそこではない!
しかし、「好きです」と書こうとしてはまた別なことを書いてしまって、失敗を重ねる彼女。そんなことを叫びながら彼女は手紙を完成させようとする。もう、夜は明けていた。
結局、彼女はクラスの下駄箱にやってきた。思いあまって巻物になってしまった、ラブレター。その巻物のラブレターを六条の下駄箱に入れて、しかし彼女は微笑む。
「でも、良いの。頑張ったんだもん」
その一言、後々にこのアニメの根本をつく台詞だった。だが、今のぼくは知らずにそのことを見て、ばかばかしいストーリーとこのシーンの落差に戸惑っていた。
果たして、六条は巻物を見た。放課後一心に読む彼。それを影でこっそり見ていた深空は驚き(おどろき)の気持ちでじっと彼を見ていた。
「読んでる、読んでる」
巻物であることは伊達ではない。1時間ぐらいでは読み切れず、あたりに巻物を散らかりつつランタンを片手に彼は読んでいく。
しかし、どれだけ長いものでも終わりがある物で夜になってから、彼は巻物を読み終えた。
深空はついに読んでくれたかと思ってほっとしたが、彼は巻物を掃除機のケーブルのように巻き戻してまた最初から読み始め、固まった彼女。まだ、彼の返事を聞くのは遠い。
そして、2度目の完読をした彼。彼は巻物を戻し、頭を上げた。
深空はついに何かのリアクションがあるのかと期待に胸が膨らんだ(ふくらんだ)。それに彼が一言言う。
「やっぱり名前書いていない」
「しまったあああああ!!!!!!!!名前書くの忘れたああああああ!!!!!!!!!」
その一言で奈落の底に落ちる彼女。彼女のラブレター計画はここに果てた。
翌日。彼女はもうアメリカに行ってしまった彼のことを思いながら、教室のドアを開けた。このクラスに入っても彼はもういない。
そのことを理解していたが故に余計落ち込む、彼女。だが、休むわけにはいかないので渋々(しぶしぶ)教室を見るとそこにいないはずの人がいた。
六条だ。彼はアメリカに行ったのではなかったのか?それにひょこっ里彼女のそばに来た友人達がなぜ、彼がここにいるのかを説明する。
なんでも、誰かに頼まれたから、この日本にとどまったらしい。
しかし、誰に?
それは画面に大きく書かれた巨大な巻物の中に、「行かないでください、行かないください、お願いします」と全てその言葉で巻物は書かれてあったのだ。
それで、このアニメのの一節は終わった。まだ、3節の中の一節だけが終わったにすぎない。それを見た僕はこう思った。
「なんじゃ、こりゃああああ!!!!!!!!!!」
この展開、あまりに強引であり、しかもそれがコメディとして破格におもしろい展開見たことがない!なんなんだこれは?あのただ、キャラメルのようにしたにいつまでも残る甘ったるいラブコメではないではないか?
確かに少女が恋をして、少年が振り回されるという設定があるのだが、二人の男子、平は思われるではなくて逆に追う方だし、六条は一応、深空のラブレターに振り回されたと見えなくもないが、実は思いっきり深空を振り回す方だし。これはあのラブコメと言われるものか?
このタイトルを確認してみる。『lovely confusing』それがこのアニメのタイトルか。これはいったい何なんだ?圧倒的な衝撃とおもしろさを含んだ、この作品に僕はあまりのショックに感覚がしびれ、そして、ふらふらしたまま、また再生ボタン押した。
これはなんなんだ。とにかく見るか。勉強?そんなもん知った物か!
こんなおもしろい物をみれずに死ねるかっていうもんだ!
そして、僕はアニメに集中した。パソコンから衝(笑)撃の洪水があふれ出し、僕は流され続けていた。
度重なる平の妄想。そしてその平の思いにちっとも気づかない、深空の鈍感な明るさ。平に自分を重ねつつ、その一方で僕は深空の方を見始めた。
深空はこれまで書かれているアニメの美少女とは次元が違った。
深空はバカで鈍感で、その欠点を上回る明るさを持っている。バカで明るい美少女はアニメのなかで何人もの登場するが、深空はその美少女達とは根本に違う。
バカで明るい、そして、ドジやら純真な女の子は掃いて捨てるほどいる。深空には六条の恋に振り回される純真な目はある、あるが、しかし恋の中以外にも違う自分を持っている。
そして、その自由の自分には、他の美少女はどこかかわいさを強調する様式があるが、しかし深空にはない。自由に自分の欲することを行っている。そして平と六条の二人の男子で彼女のスタンスが変わってくる。
これまでのアニメは美少女達がけなげで、相手に思われたいという様式にがんじがらめになって、そのようなかわいさがあった。
そして六条と美空の関係の場合、そのような様式も残っているように見える。
しかし、平の場合は違う。平には普通の男子と同じように、フランクでぞんざいな関わりかたをしていた。正直言って、普通に男子からの目から見れば、平に接する深空はかわいくないと移るかも知れない。
男子が見る女子のかわいさはけなげに自分を思ってくれる女子だ。
僕はそういう女子が好きなわけではないが、しかしちょっとした気品のある女子のほうが好きだった。例えば、『lovely confusing』のなかででてくる深空の妹の藍(あい)のような女性が好きだった。だが…………………。
深空はいつも自由だった。六条の時を除いて、自由に発言しているし、間違うときも全力で間違える。料理もできない、スポーツもだめ、勉強もだめ、そしてセクシーな体型ではない。こんな女子を好きになるわけではない。だが………………。
平は深空に恋を告げれず、ぐるぐると思い悩んでいる。最初はどっぷり平に感情移入をしてみていた。ついさっきまで恋をしていたので、平の気持ちはよくわかる。
だが、勉強をしているかたわら、美春達の勉強会の誘いを全部断り、一回一期と二期を見終わり、2回目を見て、3回目に突入したとき、何かが僕の中で変化をしてきた。
それは深空だ。1回目と2回目は平重視で見ていたのだが、見るごとに深空の仕草を重点的に見るようになってきた。
深空はバカだ。六条に渡そうとラブレターを屋文で行おうとしたり、倉庫に閉じ込められ、それをサバイバルしようとした結果転がっていたカレーパンを食べるし、平と長門ができていると思い、今度は平は三河とできていると思ったり、結果果平は見境なく女子を誘惑する男子と誤解したり、六条の誕生日プレゼントに人がのれる大きさのカレー皿を作ったり、発想がめちゃくちゃ。そしてバカ。
前にも言ったとおり、深空も恋する女子として書かれているし、それはわかるが、しかし、考えがバカであり、勉強もできず、セクシーでもなく、純真さも、六条の時には見せるが、平の時にはおばさんのようなお節介を焼くか、とにかく雑に扱うかの二つになる。
男子から見れば平から深空の視線では深空は男にとって墓場のような態度だ。こんな対応を取られたら夢がない。全く、夢がないのだ。
この『lovely confusing』ほぼ主人公は平なので、そのまったく夢を見れない女子として深空は書かれている。そしても僕自身もまるで深空には興味はなかった。『lovely confusing』は平を中心に書かれている少年のストーリーだからそれでいいと思っていた。だが……………。
変わってきた。ストーリーを追って、それを見続けている内に深空のバカな行動の数々に何故か胸がざわめき、彼女の行動を自然に耳で追い、岩田さんの声が芥子色のノイズから、卵色のパンケーキに変わってきた。
これは…………目が離せない……………皮がむける…………新たな羽が生えてくる………………勝手に体が変わっていく…………しかし、僕は……………気分は悪くない。
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