第22話美春と文化祭 2

 たっ。

 ダーツが刺さったときに僕達の間に暗い森の中の泥沼のような不穏な空気が漂った。僕はちらっと左後方にいる美春を見る。

 ………………………。

 そう見るとやはり美春は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せて僕が刺した的をじっと見つめていた。やはり、こうなるのか。

 僕はそっと嘆息して、残ったダーツを取りに美春から見て反対側の方向に振り返った。そうしたらそこに美春の顔があった。

「うわあ!」

 僕は一気に後ずさると、美春は僕にじりじり寄ってくる。そして、僕を剣呑(けんのん)ではないしかめ面の表情をして言ってきた。

「一樹。私たちにとって必要な物が何か、わかる?」

「いや、わからん。わかるのはこれがただのゲームと言うことでなんもマジになる必要がないと言うことだ」

 しかし、僕の言葉を全く聞いた祖堀を見せずに、美春は無表情で言った。

「今の私たちに必要な物。それは相手を思いやる友情。そうに違いないわ!今は思いやりの心が大切なのよ!わかる!?一樹!この格差社会のなかで相手を思いやる心が大切で、そして真に意味のあることなのよ!だから、一樹も思いやりの気持ちを持って、ここは空気を読んで、ほんとに友達の思う気持ちを実行する必要があるわ。今一樹は4点持っているけどね、しかし!最後は友達に羽を持たせてもバッチオーケーよ……………って、聞いてる!?一樹!?この私が教科書に載せても良いような名言を言ったんだよ!?なんで無視して、ダーツを取るの!?私のいいたいことわかってくれた!?」

それに僕はダーツを取った、美春に向かって手で制していった。

「危ないから下がれ、美春。危険だからとにかく下がるんだ」

 それに美春は強烈に何か言いたそうな黄色い気を背中にあふれさせていたが、それを押し込んで下がった。

 さてと、じゃさっさとやりますか。

 僕はどうしようか迷った。ここはわざと外すか、それとも本気でいくか。

 ………………適当に的を絞って投げよう。勝敗は神次第にするか。

 そう結論を出して、僕は構えた。適当に的の方へ、投げる。

 ひゅ。

「あ!」

「…………………まあ、これも運だよ。それにゲームだし。こんなことにマジになるのはばからしいだろ、美春?だからここは忘れて………………」

「ちょっとおおお!!!!!なに、3点の所にダーツがささってんのよおおおおおお!!!!!!ちょっと、一樹、私の台詞聞いてた!?教科書に載せても良いような、名言を聞いてた!?全ての友情に必須な空気を読む力。これこそ子どもたちに伝えて良い名言よ!!!ねえ?それちゃんと聞いてたの?聞いてたのならなんであんな点数を出したの?ひどいよ、一樹。一樹のこと信じてたのに、あなたは私を裏切ったのね!?私の初めて(ダーツの勝敗)をこんなに汚して!!信じてたのに!!!私の初めてを返してよ!」

 それに僕は早急な状態で慌てて(あわてて)いった。

「待った、待った!!!!途中から話が変わってるし、誤解を人に感じさせることを言うなよ!!!!……………皆さーん!これは初めてのダーツという意味ですから、私たちはなにもやましいことを一切行っていませんよ〜。私たちは正真正銘(しょうしんしょうめい)のただの友達ですから!!!それ以上の進展は決して、決してありませんから!!!!………………さ、行くぞ、美春。ここにいては迷惑になるから、場所を移そう」

 僕はポップコーンの怒りをぽんぽん飛ばしているひよこの手を引いてその場から離れた。ひよこは最初は渋々引かれていたが、かんしゃくを起こすように僕の手をほどく。

「もう!自分で歩けるよ!子どものように扱わないで!」

 陸上に上げられたばかりの海老が動くようなぷりぷりとした怒りの表情を出して美春は言った。

「悪い、悪い。でも、あそこでけんかしてたんじゃあ、周りに迷惑がかかると思っていたんだ。悪かった」

 僕は手を合わせて拝むように美春に頭を下げた。

 美春は腕を組み僕から顔を背けてぷりぷりと怒っていたが、ちょっと薄目で僕を見たのをちらっと見れた。

 美春は大きく息を吸って、はいて、妥協するような仕方なさげに振り向く動作をしていたが、その動作にちらちらと幼児の羽を出した。

「仕方ないなあ。確かにあそこで言い争っても迷惑をかけるし、仕方ないなあ。わかったよ、水に流すよ、一樹。確かに私も大人げなかったし、許すからこれで良いでしょう?」

「ありがとう、恩に着る」

 そのまま、美春が歩き出そうとしたときに僕はそれを止めた。

「待ってくれ、美春」

「ん?なに、一樹?」

 不思議そうな顔をして振り向く美春に、僕はある物を渡した。

「ほれ、さっきダーツでとった景品。美春にやるよ」

 美春はそれを見たとたん、驚き(おどろき)の色と黄色い感情を出した。

「これくれるの!?わあ、カラフル〜」

「ああ、やるやる。つけてみ」

「うん、つけるよ〜」

 それは一番最下位の景品で、黄色いリストバンドだ。2本の黄色い綿が螺旋状にまいてあるやつで、あまりに雑な作りをしていたものだ。だが、それを美春は右腕に通した。

「わあ。これ、似合う?似合う?」

「ああ、似合ってるよ。黄色は美春にぴったりの色だ」

 美春はくるくる僕に見せつけるように回っていた。僕も軽く答えた。

「それだとあれに見えるね。美少女が変身ヒロイン物になるやつ。そのリストバンドが変身するときに発動させるキーなんだ」

 それに美春は僕が起こした火できちんと燃える木だった。その木が順序よく燃え上がり、安定とした熱として美春の感情を暖めた。

「うん、そうそう。私もそう思った所!なんか戦闘ヒロインのように見えるよね!?………………ねえねえ、じゃあさ、その美少女はどんな設定で戦っているんだろうね?ある日突然力に目責め立ってやつかな?それとも幼少の頃から戦うことを宿命づけられていたのかな?」

 それに僕はえさを横取りするようについばむようにくちばしを出した。

「いや、それはあれだ、美春。戦うために生まれた美少女で、いつも妖魔達に向かって戦っている事を職業としている美少女なんだ!それで性格がクールビューティーでいつも涼しい顔で敵を倒していくんだ!これがまたかっこいい美少女なんだ!そういう設定で行こう!」

 それに美春は口をへの字に曲げて、針金の吐息を出した。

「え〜?そうなの?私は突然何かのきっかけで力が目覚めた美少女にしたいな。そして、自分がその力を持つことに戸惑うの!それで悩みながら敵と戦っていくのよ!ちなみに性格はまじめでおしとやかな娘なの!」

「ふ〜ん、なんかぼくらの完成が微妙にずれているな。美春が想像しているのは例えばブレスの花道卓(すぐる)みたいな人で、僕が想像しているのは魔導少年マグヌスのセリーヌか。しかし!やっぱりクールビューティーは捨てられない!美春は身長が高いから、クールビューティーの方が似合うって!やはりクールビューティーの方がいいと思うな」

 それに美春は楠(くすのき)の花のようにクスクス笑った。

「へ〜、一樹はクール美少女が好きだったんだ。知らなかったよ。意外〜。てっきりおとなしめの娘の方が好きだとばかりだと思っていたよ」

 それに僕は鼻をポリポリ掻いて言う。

「いや、実際にあまりにつっけんどんな態度をとられると何を言っていいのかわからないからあんまりつっけんどんな対応を現実に取られてもな。クールであり、しかしちゃんとしたコミュニケーションが取れる女子が理想は理想だ。でも、僕には美学がある。つまり、背が高い女性はクールビューティーの方が似合うという美学があるんだ!美春は163だろ?ならクール系にしなくちゃな。それで主人公をちょっとよそよそしく接するんだ。距離を少し置かれた方が燃える!いや、萌える設定なんだよ!わかるか!?この男のロマンが!」

 それに美春はおかしそうにケラケラ笑った。

「はっはっは。わかんな〜い。だって、私女の子だも〜ん(爆笑)はっは、でもあれか。男でてくるんだ。私の頭のなかではもう完全に女子オンリーだったけど、男がでてくるんだ?ふ〜ん、そうなんだ。一樹のなかではその少年と少女がラブラブし合う関係になるんだ?」

「まあ、そうだな。基本的に戦闘美少女とはラブラブになるな!僕のなかでは!なんだろ、現実にいる女性より異性的魅力を感じるというか、かなり萌えるというか。小さい頃からゲームをしていたためにそういうのがあると心にぐっと来るね!

 ……………美春はなんで戦闘美少女が好きなんだ?前から美少女も好きだって言っていたけど、あれはなんだったか?かわいいから好きだって言っていたのか?なんでなんだ?」

 僕がそう言うと、美春は唇をつぼみの形にして、どこまでもループの輪を作った。

「う〜ん。そんなこと考えたこと無かったなぁ。まず、一番に言っておくけど、私が一番大事なのは美少年だからね!そこは変わらない!でも、戦闘美少女とかもなんか知らないけどみるって感じ。

 ああいう、美少女をみることは私的に抵抗がない。前にも言ったと思うけど美少女もかわいいしね!それでさ、話しは戻るけど、こういう戦闘美少女ってかっこいいじゃない?他の女子とアニメの話しをしないからわからないけど、個人的にかっこいいのよ!

 だから、この手の話をみてるの。かっこいい美少女は好きだしね。この前、見た『魔導少年マグヌス』もよかったしね。ああいう戦闘美少女は過剰に色気がなければ私は大丈夫だわ」

 それに僕は肯いた。

「なるほどね。確かにアニメの色気は時にウザイ時もあるよな。シリアスな物語になるときに的外れなお色気ははしごを下ろされるようでかなりむかつくよな」

 一つの川がもう一つの川と合流をしてその水の勢いがますます大きくなる。

「うんうん、そうだよね!私もさ、あんなお色気をぽんぽん出すこと何てないと思うんだよね。かなりさ、見る方が(女子からの目線で)いらっと来るよね。今の時代は女子の層を取り込むことも大事だから、お色気は慎むべきだね!あんまり出すと物語に入り込めなくなるよ」

 美春は石像のまじめな石灰が顔を移行していた。

「そうそう、僕もそう思う。あんなにお色気を出す意味がないだろ。シリアスなシーンで出されても邪魔させられる。お色気の話しとシリアスな話しを完全に区切ってするだけでもかなりストーリーが良くなると思うな。そうは思わないか?」

 僕が出した薪に、しかしオレンジがさらにその温度を上昇させてバチバチはじけた。

「思う思う!それだけでもかなり変わってくるよね!もっとアニメの発展のためにさ、声を上げていこうよ!一樹!ほんと妙に色気を出すのはやめて欲しいって声をさ、大きくすれば社会は変えれるよ!世界は平和になるよ!だから、我々は権利を口にすべきだね!」

「はは、なんだよ、世界が平和になるって。まあ、でもそういうことを言うことは大事だよな。だいたい今売れている作品てほとんどが男女ともに受けられている作品が全てだしな。女性層を取り込む作品はお色気はほとんどいらないだろ。まずは、男子層、女性層、一つの性を取り込む物か、二つの性の人達を取り込むことかどっちかを重視して、二つの性ならお色気要素は全く排するか、特別にお色気会とかを作って配慮するべきだろう。お?たこ焼き店発見。食べに行くか?」

「ビバ!もちろんさ!祭りにたこ焼きは絶対はずせないっしょ!?」

 そう貪欲の炎を出しながら美春はたこ焼き天に一直線に向かった。

 はは、ほんと美春は単純だなー。まあ、でもこっちの方がわかりやすくていいか。

 そう、僕は思ってふと窓を見た。校庭に豊かな黄色い紅葉が渋み(しぶみ)のある深みをしみこませていた。


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