第23話恋の終わり
かたこと。アブラムシの群れが穴蔵をぞろぞろと生気がないが、しかし丁寧な動作をしつつ、教室から出たり入ったりしている。
「それは調理室に戻してくれ。そのヘラは下田に返してくれ。残った箸と皿は委員長が片付けてくれる。ボンベは化学室に置いていって、明日店長に返そう。とにかく屋台を片付けるんだ。早くな」
がやがやと行うクラスのみんなの先頭に立って、てきぱきと光は指示を続けていた。それを横で聞いていた僕はさすがだ、と思った。こう言うときは本当にリーダーシップを発揮するな、光は。
それよりも、屋台の骨組みを解体するか。
僕は屋台の柱を解体して、数名の男子と一緒に体育館にそれを運んだ。
柱を体育館に運んでいるときに完全に夕闇の時にになった秋の夜が手触りがないように涼しかった。そして、それを運び終え、教室に戻ったときには教室の物はいつもの状態に近づいていた。
屋台は片付けられ、机を元に戻して全ての物が終わったときに東堂院さんが手を叩いてクラスの人を呼び寄せた。クラスの人はまばらな意欲で東堂院さんの下へ集まる。
「で、なんだよ。東堂院。もう片付けも終わったし、俺ら帰りたいんだけど」
細い眼をして茶髪でロン毛の一見、不良に近い様式をしている早見君がぼそっと言う。だが、その声には覇気が無く、本当にだるそうに言ってるように見えた。
東堂院さんは早見君の言葉に顔色を変えずに果汁がしたたり落ちる切られたレモンのような新鮮さで言う。
「みんな、聞いて。みんなが頑張ってくれたおかげで全ての焼きそばを売り切ることができました!それはすごいことです。みんな今まで働いてくれてありがとう。そしてお疲れ様!。これはほんとにすごいことで私はみんなと同じクラスになれたことに誇りに思っています!」
それにクラスの人は焼かれたたばこの灰のようなまばらな拍手をした。
そんなくすんだ空気に全く東堂院さんは体の表面石のこわばりと、スサノオのような力強さを纏い言った。
「それで、焼きそばを完売した結果、売り上げがでたのです!なんと金額は5万円!それで今からみんなで焼き肉を一緒に行こうと思うんだけど、どうかな!?わたしはみんなと一緒に楽しみたいの。だから一緒に来ない?みんな」
その東堂院さんの言葉にクラスの人はくすんだ緑色の水たまりになった。
その水たまりがくすんでいて、不活発で、それ故濁っていた。
その水たまりが波紋を注視している。誰かが波紋を出さないかどうかを周りを監視するように見ていた。
仕方ない。やるか。
誰かがやらなけばならない。このようなことを誰かがやらないと回らないからな。それなら僕がその誰かになろう。
「あ。僕は行きます。是非行かせてください、東堂院さん」
僕はクラスの人より先んじて宣言を出した。クラスの人は僕の言葉に驚き(おどろき)の波紋を出し続けていた。だが、その水の色はくすんだ緑で、決して澄んだ青色にはならなかった。
「あ、私も」
「俺も」
「僕も」
それで、僕が出した波紋がどんどん周りに影響を出して、それにクラスの人も巻き込まれるようにずるずると賛成の声を出した。
その賛成の声を聞くたびに東堂院さんはミントのような清潔感のある笑顔が顔に表れていった。
「みんな、ありがとう!みんなの心遣い、私はうれしく思います。みんなで盛り上がりましょう」
そんな賛成の声がクラスで蛙(かえる)の鳴き声を上げている中、一つの錆びた(さびた)声が上がった。
「俺はいかね」
それは早見君だった。早見君は鞄(かばん)を持って、無言ですさすさと立ち去った。
「あ。僕も」
「俺も」
早見君に続くように数名の男子が東堂院さんにお辞儀(おじぎ)をしてでていった。
周りの水たまりも影響を受けて、暗い黄色色の波紋を出し合った。
だが、それを制し、闇を追い払うように真夏の光をたくさん受けたトマトのような笑顔をして東堂院さんは言った。
「みんな!早見君達は残念だったけど、無理強いはできないわ。みんなとだけでも行きましょう!さて、そうと決まったら出発よ。焼き肉店はここの近くの牛太だから、ここにいるみんなとだけでも行こう。あまりに遅いと親に怒られるしね。さ、みんな荷物を持って行こう!」
そして、クラスの人は急いで鞄(かばん)を持って出発した。高校生だけで夜遅くまで行動するというのもなんなんで、担任の先生が引率についてきた。個人的には焼き肉はあまり好きではなかったが東堂院さんがいたから、それでよかった。
寂れた繁華街(はんかがい)に燦めく(きらめく)一つの玉虫が自意識のある、きらびやかな踊りをしていた。
僕達は今瀬野にある唯一の焼き肉店、牛太の前に来ている。
それで東堂院さんは先生と一緒に一人牛太の店内に入って交渉をしていった。ここは焼き肉店牛太の前。僕達は牛他の近くにあるスーパーに自転車を置いて、またぞろぞろと歩いて見せ店の前まで来た。牛太は狭くも広くもない焼き肉店で、広いとは言えないがビルの3階まで営業をしているここら辺では一番質の良い焼き肉店だ。ほんと、よくこんな不便な場所にここまで大型店を営業したものだ。
待つことしばし、ひょっこりと東堂院さんが戻ってきた。
「みんな、大丈夫だって。3階まで全員はいれば何とか大丈夫って行ってた。さ、みんな行きましょう」
その東堂院さんの言葉にみんなは特に喜びを表出せずに、ただ影のように東堂院さんに、店員について言った。
僕は店員に先導してもらい、3階まで上ることになった。
そして、僕は男子だけの、あまり仲が良くない男子達と一緒に焼き肉を食べる予定だった。
そろいにそろって暗そうな、活発ではない男子だが、自分もそんなに明るくないのでそんなに不満はない、一人黙って食べるだけだった。だが、そこで通路側の席に座っていたら向かいのテーブルにいた美春にちょいちょい手招きされた。
美春は東堂院さんとよく知らないが、東堂院さんの友達の女の子と同じグループに入ってる。
僕はいったい美春が何かろくでもないことをするのではないのか?と思って不安だったが、しかし無下(むげ)にすることはできずそばに寄った。
「なんだ、美春。何の用だ?ここはクラスの人たちがいるんだから、あんまりわがままを言うなよ」
それに美春はちっちと指をふって言う。
「違う、違うよ。一樹、私は大事な用があって呼び出したんだから違うよ」
そう言って美春は蛍(ほたる)光灯のクリーム色の空気を作り出した。僕はまたこいつは何かバカなことを考えているのか?と思って、内心怯懦(きょうだ)の気持ちになっていたのだが、その予言は的中した。すぐに耳をつんざく金切り声がドストライクで聞こえた。
「ああああああああ!!!!!!!!そういえば、私高所恐怖症だったああああああ!!!!!!!こんな高い所に来たら。怖くて足がすくんじゃうよ!!!!!!と言うわけでカスミン!私おいとまするね。代わりに!この一樹を私の代わりとして接してくれて良いから!!じゃあ、バイバイリーン!!!!!!!!」
「あ、おい!」
しかし、僕の台詞を聞かずに超特急の速さで、美春は去っていった。
アホか。高所恐怖症の人があんなに元気に走れるわけ無いだろう。それにたかが3階で高所恐怖症なんて聞いたことがない。うう、バカ美春の大声で店内にいる人たちがこっちを見ている。とにかく、恥ずかし。何より、東堂院さんが困った顔をしているのはさらに恥ずかしい。
「あの、笹原君」
僕は場の空気に耐えきれずに東堂院さんが言う前に機転を制していった。
「あ、すみません、東堂院さん!ずいぶん困らせてしまったようですね!僕はこれでおいとまします。それではまた!」
そう僕が急いでこの場を離れようとしたら、右手に自分を引っ張る力を感じた。
見ると東堂院さんが僕の右手を掴んで(つかんで)いたのだ。
「ね、笹原君話を聞いて」
東堂院さんはトパーズの強い光をたたえた視線を僕に向かってまっすぐに投げかけた。僕もその光に逃げる気持ちが自然にその勢いが少なくなった。
「あ、はい」
それでおとなしくすると東堂院さんは僕の手を握って、苔(こけ)と苔の間のしんなりとした優しさと静けさで言った。
「笹原君も一緒に食べよ?寺島さんは残念だったけど、せっかくだから一緒に食べよ?」
東堂院さんは優しさの水をたたえながら言ったが、その瞳には僕を強引に引き寄せる磁石(じしゃく)の強い光を見せていた。
「あ…………うん」
それに僕は流された。こういう場面に逆らえない。人にあんまりさからえないし、今の東堂院さんはしんなりとした空気を出しているが、その奥で何か自分には逆らえない力と輝きがあるように感じた。
ともかく、僕は東堂院さんの言葉に従って、座布団に着いた。美春を入れて男3人と女3人だったが、今美春がぬけて、僕が入ったことで男が4人になり、ちょっとバランスがいびつになったが、それを東堂院さんが友達と言うこともあり、女子を説得し、何とか納得させた。
「さ、食べよう、みんな」
席に着いた僕達に東堂院さんはみかんのような暖かさで明るく言った。僕の向かい側に男子が3人座っていて、こちら側に東堂院さん達女子が座っていた。僕はホールに一番近い席に座っており、その隣に東堂院さんがいる。
そして僕達は店員が持ってきた肉をつまみ、電磁(でんじ)調理器の板に肉を焼いていく。
「さ、ほら、笹原君もこれを焼こ」
「あ、はい」
天上の姫君が僕にほほえみかけた。僕もすぐさまに肉を焼く。
焼くときにちょっと前のみになると清潔なあじさいの香りが鼻に少し香った。
じゅ、じゅ。
僕が入れたダンサー達が火にあぶられ、その体熱を帯び、さらに踊るべく身動きをする。
「ほら、笹原君、肉焼けたよ」
「あ、ありがとうございます」
東堂院さんは焼けたロースを僕の取り皿によせってくれた。
「いただきます」
僕はなにも考えずに、ロースをたれに漬けて食べた。
「!うま!」
「どう?美味しかった?」
僕がこくこく肯いたら東堂院さんは花梨(かりん)のど飴のような笑顔を見せた。花梨(かりん)の甘さにクスリとしての苦さが後を引きながらも口は香料の後味の用意すっきりとした感覚になった。
じゅ、じゅ。
彼女のそばで肉を焼いていく。そのうちの一つのカルビをひっくり返そうとして前に体を動かしたときに、別の肉をとろうとした東堂院さんの体に近づいた。
「!」
「あ」
僕達は肉をひっくり返し、とって、そして自分の穴に引っ込んだ。
「あ、ごめんね、笹原君」
「いえ、こっちこそ」
僕は彼女のそばに行きたかった。だが、恥ずかしさの針が僕らの体から映えていたので、触れれば血が出てしまう。
そんな近づくことができない結界に僕は心がこのもどかしさに筋肉がけいれんした。
そんな僕の心の動揺を知らぬように肉がどんどん焼けていく。
あ、食べなければ、しかし………………。
ちらりと僕は東堂院さんを見る。東堂院さんもネズミの目をして僕の目を合わせ、また引っ込んだ。
………………どうしようか、動くに動けない。
僕はちらちらと東堂院さんの方を見て、動かないと踏んでそっと肉をとった。東堂院さんもちらちらと僕を見ながら僕がとったあとに楚々(そそ)とした行動で肉をとった。
そして、僕らは一言も話さないままに黙々と肉を食べた。
…………………これが恋という物なのか?もっと恋は明るくて楽しいものだとばかり思っていたが、こんなに不自由でもどかしい重いものだとは知らなかった。もどかしくて身動きが取れない。
僕らは黙ったまま、交互にそっと肉をひっくり返したりとったりしていた。
そうやって僕らが黙っていると、いきなり上のテレビが軽快な音がけたたましく鳴った。
「あ。パズルキングダム!」
そのテレビにまず、東堂院さんが反応した。店内の隅(すみ)っこの上の方にテレビがあって、放映されているのだが、その中で僕らがいる席が一番それをよく見ることが可能なのだ。
番組はいきなりアテナのパルテノン神殿を模作したような神殿を宇宙をバックに出したあと、スタジオにカメラが切り替わり、二人のお笑い芸人出身の視界を出して番組が始まった。
「東堂院さん、知っているんですか?」
僕がそういったらこくりと東堂院さんが肯いた。
「うん。知ってるよ。これ超有名だよ?これ知らないの?笹原君」
「ええ、あんまりこう言うのには疎くて……………」
そう僕がためらいがちに言ったら、東堂院さんは追い風を受けている鳥のように力強く肯いた。
「そうか、知らないのか。なら、今見ると良いよ。これは超おもしろいからおすすめだよ」
東堂院さんは料理人が包丁で魚をさばくようにてきぱきいったあと、すぐさま食い入るようにテレビに集中した。
僕も東堂院さんがいると鉄板に肉を取れず食べれないので仕方なく、テレビに集中することにした。
パズルキングダムでは何かの問題に3組に整理された芸能人が答えていって、その勝敗を競うというものだった。
一つの問題形式ごとに組ごとに得点を与え、その多数の形式に一組の何人かの人がチャレンジをすると言うものだ。その問題形式で得点を積み重ね、組の仲からチームを作り、そのチーム同士で一位、二位になったときに一位なら一位の得点が二位なら二位の得点が組に与えられる。
それで最終的に得点の高い組が優勝を果たす。それで、一つの問題形式でビリになったチームがそのたびに罰ゲームを食らうという番組なのだ。
それで番組が始まったときに手始めに組みごとの勝ち抜き戦が出てきた。これは3組の全員学見事に列を作って1番目の人から問題を答えていき正解したらぬけて組の2番目の人にバトンを渡すのだ。これで最後に組が全員答えられたら、その組が一位の得点が与えられ。そして、一番最後まで残ったら罰ゲームを食らうというものだ。
そして、これが始まった。まず順々に答えていって、中盤まではだいたいの人がテンポよく行きだしたが組が真ん中あたりになると段々歯切れが悪くなってきた。どうやら、頭がいい人が前の方に行ってるらしい。
それで歯切れが悪い答えやとんちんかんな答えだと司会が汚くアンサーをののしっていた、そのたびに東堂院さんは……………。
「あは☆」
東堂院さんは喜色満面の感情を開花させていた。その目には生命の木が生い茂り、口からはピション川の喜びの奔流(ほんりゅう)があふれていた。
そして、最後に残った組の人が罰ゲームを受けることになった。全員が罰ゲームを受けるわけではなく、最後まで答えられない人が罰ゲームを受けるは目になった。ステージの一室にいたが置かれている階段を上り、その板の上につく。そして、その板の下には小麦粉がつきしめられた小麦粉の海があるのだが、その板を外しその小麦粉へダイブするのがこの罰ゲームだ。
この罰ゲームのミソは芸能人がその板にたどり着いたあと、すぐに落下させないのがミソなのだ。いつ落下させるか教えず、そのため芸能人が臆病心に駆られて妙な言動をとるのだが、それを司会や他の芸能人があざ笑って番組を盛り上げるのがこの番組の見せ所と心得ている部分だ。かくいう東堂院さんも………………。
「おーちーろ、おーちーろ、おーちーろ」
手拍子をしながらそれにのってきた。果たして、本当に芸能人は落ちて、真っ白になったところをステージにいる人たちは全員爆笑していた。
「ははは、おもしろいね、笹原君」
「……………そうだね…………」
真っ白な芸能人を司会の人めがけて罵詈雑言(ばりぞうごん)を吐いていく。それを見てまた笑い出すステージの人と東堂院さん達。
じゅ、じゅ。
とんちんかんな答えに罵詈雑言(ばりぞうごん)を吐き続ける司会の言動に笑い出している東堂院さんの横で僕は新たな肉を鉄板に置いていった。
「ははは、この人バカだな〜」
そしてひっくり返す。隣にすごくうれしそうな花火が待っているのに、僕の心の中はそれと反比例して冷たく静かさだった。
そして、肉をとって食べる。
「あははは!おーちーろ。おーちーろ、おーちーろ!」
全部の肉を食べたときにまた、新しい肉をどんどん追加して、それこそ鉄板に敷き詰めるほどの肉を投入した。
「…………………」
「あははは」
じゅう、じゅう。
だいたい焼けたと思われる肉を順番にひっくり返していく。肉は脂身がのったくすんだ灰色となって諦めた表情をしていた。。
そして、しばらく待って、焼けた頃を見計らって肉をとっていく。
「お、おい、笹原。ちょっと取りすぎじゃないか?」
僕の真向かいにいた、後藤君が表面をなぞる心配さで言ったときに僕は自分の皿に肉が積まれているのに気づいた。
「………………いや、大丈夫だよ」
「……………そうか?」
僕の薄い言葉に後藤さんの心配も軽くあまり深く異議を唱えてなかった。僕は山積みになった肉をどんどん食べていく。
もぐもぐ、あははは、お前バカとちゃうか!そんなこともわからんのか!もぐもぐ。
「ねえ」
僕が黙々と全部の肉を食べたときに、突然東堂院さんが話しかけてきた。
「なんですか?」
「いや」
そう僕が問い返すと東堂院さんは指をもじもじさせながら僕をのぞき込むように話してきた。
「これ、おもしろくなかったかな?」
「……………………いえ」
そう僕が言ったきり、二人の間に苔がちらほら生えている重い石が置かれた。
ぼくはどう言うべきか真っ白なヌーの沈黙に支配されている状態になっていると、僕の腸が緊急信号を出した。
「あ!ごめん。ちょっとトイレに行ってくるわ」
「あ、うん、いっておいで」
ぼくは早足でトイレに行き用を足した。ふと下を見るとそこに蛾(が)の死体がぽつんとあった。
おそらく、どういうわけかトイレの明かりに誘われ入ってきたのだろう。僕はそのがをティッシュで掬っていっしょに流した。
最初の明かりはあんなにきれいだったのに、中に入り込むとこうか。あんなきれいな光は幻想だったのか?
僕はトイレを去り、また元の場所に座った。隣にいるサファイヤは火にあぶられてもう花崗岩(かこうがん)になっていた。
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