第20話完璧美少女
ジャージャー!ジャージャー!
麺(めん)と具材をませ、ありったけのおたふくソースをかけ、ある程度火を等した所でできあがり。それを皿に移す。そして、僕は大きな声を張り上げた。
「焼きそば、2つできました!」
それに、人を活発に集中力させる緊張の糸をはった東堂院さんがそれを受け取る。
「はーい、焼きそば二つ!これは5番テーブルのぶんね…………………はい、お客様、焼きそばお待たせしました。ごゆっくり」
しかし僕は東堂院さんの言葉を全く聞かず、新たな肉と野菜を入れ痛め、そしてまた麺(めん)を入れて焼きそばを完成させようとする。
そしてまたすぐに焼きそばを完成した。
「はい!焼きそば二つ!」
「あ、はい。焼きそば二つですね」
僕ができあがった焼きそばを手早くウェイトレスに渡した。渡すとき小さな手がちらりと見えた。
次の焼きそばを作ろうとするために肉に手を伸ばすと、ある声がかかった。
「待った、笹原。もう打ち止めだ。さっきのでひとまず、注文は終わりだ」
僕は町村の顔をまじまじと見て言った。
「そうか、注文は終わりか。あれだけ忙しかったのに、もう終わりか。なんか終わるのは一瞬(いっしゅん)だったような気がする」
「確かにそれはわかる気がするな。作ってる間すぐまでの時だったからな」
それに僕は肯いた。本当に一瞬(いっしゅん)で時が過ぎ去った感じだ。
それはともかく、僕はテーブルの方をみた。まだ、焼きそばがあったけど、これもすぐに運び終わるだ、ろ?
僕がそう思っていると、しかし、テーブルが設置された教室の方をみたら、一人の同級生、藤尾(ふじお)さんと東堂院さんが話し込んでいる姿を認めた。藤尾さんは小柄でやせている体型をした女子で、そしてその体型のようにおしとやかな性格をしており、一部の男子から特別の人気があったが、あまり僕自身は知らない女子だった。藤尾さんが戸惑っていて、東堂院さんが何かを話している。
「それで、どの順で注文を受けたの?」
「え、え〜と」
どうやら注文を受けた人の順番がわからなくなったらしい。しかし、東堂院さんはすぐにシャープに自信があるように肯いた。
「わかったわ。どれも同じ注文だから手当たり次第、運びましょう。早く、迅速(じんそく)にね」
「あ、はい!」
それで二人はさっさと焼きそばを運び始めた。おそらく藤尾さんのオーダーがわからなくなって、それで困っていたのだろう。だが、別に待つ人はそんなにいなかったので、それはすぐに終わるはずで、実際にそれは終わった。
だが、最後に藤尾さんが運んだところはひとりの長身の男子のもとだった。だが、その男子は藤尾さんが運んだとき、目を鋭く気を短くさせるように眉毛をぴくぴくさせて、藤尾さんに暗く、けんかを始めるように突っかかってきた。
「おい。あっちの男子より、俺が先に注文したんだけど、なんで俺が最後なんだよ」
「え?え?」
それに藤尾さんはひよこのように敵に対して打ち負かすような自信をもたなさで戸惑った。
その藤尾さんの慌て方に、いらっとしたのか、男子生徒はさらなる時を放出するように大きく息を吸い込んだとき、颯爽(さっそう)と清風が割り込んできた。
「まあまあ、お客様。順番を間違え、前に注文を受けたのにあとにしてしまったことは誠に申し訳ありません。だが、決してお客様をないがしろにしていたわけではないのです。一人一人のお客様を大切に接客をしたので、藤尾さんも間違えたのです。どうかここは私たちの一生懸命さに免じてここは矛を収めて下さい、お客様」
その東堂院さんの丁寧な口使いに彼はぴくぴくと唇を動かしたが、顔を東堂院さんからそらした。
「まあ、ええよ。さっさと食べないと冷めてしまうから、もうええよ。失せろよ」
「はい。本当に申し訳ありません、お客様」
そうして、ぺこりと頭を下げて、東堂院さんと藤尾さんは下がった。
二人が僕達の調理場に下がったときに藤尾さんは涙を浮かべつつ、か細い声でぼそぼそ東堂院さんに愚痴を言うのが耳の表面をなぞるように聞こえた。
「どうしてこんな事になったんだろ。私っていつもこんな風なドジばっかして、一つもだめのことをしてしまうんだろ?」
その藤尾さんの言葉に東堂院さんはみかんのような暖かさで彼女の背中をなでながら言った。
「まあまあ、そんなだめなことなんてないよ。藤尾さんは良い所がたくさんあるし、一回の失敗でそんなに落ち込まないで。きっと、他に良いことがあるから」
そういう会話を自然に耳が入りながら、しかし、彼女たちの方向を見ずに具のかすが焦げているフライパンをまんじりと見ながら、僕の心は睡蓮(はす)の花が一輪そっと咲いた。
さすが、東堂院さん。同級生の失敗もフォローできるとはしっかりとした女子だ。もう、何も言うことがないパーフェクト同級生だな。
睡蓮(はす)の花は赤紫の色を咲かせ、暗い湖(みずうみ)のなかでその輝きを深めていった。
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