第14話告白………
さぁぁぁ、さぁぁぁ。
雨小僧が僕の足下に人なつっこそうに寄って気ながらじんわり膝頭に止まった。
僕はその雨小僧が膝頭に来るのを正させるがままにしつつ、そのかたわら英語の教科書を開いてしばらく問題を解いていた。
だが、それを破る一つの金切り音が雨小僧を打ち破った。
りりりりりんんん!!!!「一樹く〜ん、ご飯よ〜」
もう、こんな時間か。さっさと食べて、また勉強をするかな。
僕は部屋を出て一回の食卓に降りていった。そこで肌の風が僕を包んでくれた。
「一樹く〜ん。今日はキムチ鍋よ」
いつもの黄色い七変化の笑顔を浮かべて康子おばさんは向かえてくれた。おばさんは僕に当たって叔母に当たる人だ。おかめのような丸い顔立ちをしていていつもニコニコしているおばさんだ。そのひとが僕を迎えてくれた。
「今日はキムチですか?いや〜、楽しみだな〜。僕はキムチ鍋が大好きなんですよ」
「それは良かった。美味しいものを食べると生きる気力がでるから、とんと食べると言い。ほら豚肉がにてきているぞ」
もう一人の人が僕に話しかけた。その人は康子おばさんの夫で僕のおじさんに当たる人。小城和也さんだ。
彼は白髪の生えた髪と皺(しわ)が多数寄った顔立ちをしているが彼の皺(しわ)は枯れたような生気のなさを感じるのではなく、ある種の温情を感じさせる皺(しわ)をしていた。そしてこの人もいつもニコニコしているというか、叔母さんが七変化だったら、彼はレンコンのような暖かみのある人だ。
「はい、いただきます。豚肉もたくさん食べます」
「はは、どうぞ、どんどん食べてくれ」
赤い湖(みずうみ)に、まずオタマで一気にVIPを掬う。一つ目は適当に掬い。2番目は豚肉が見える所を掬って、次に豆腐の箇所(かしょ)を掬った。それで、もうお皿はいっぱいになる。
僕が掬っていた所を見ていた康子さんがふふと笑う。
「たくさん、食べてね。……………そうそう、お父さん、聞きました?花田さんの息子さんが結婚したそうだって!」
それに和也さんがゴボウの表面についた土のような、分散していて、生活のする笑い方をした。
「お前、それは本当か?はは、これは縁起がいいな。あの口べたの満くんが結婚したのか!?」
「ええ、そうよ。なんでも会社の同僚で空いてはかなりの美人さんらしかったですって。満くんはあの通り口べたな性格をしていて、最初は全く告白する気はなかったけど、ある日思い切って告白したんだって。そしたら了承をもらえて、交際。その末に結婚したそうよ。ほんとにあの満くんがね。なんか信じられない気持ちよ」
それにこくりと和也さんは肯いた。
「確かにそれは意外だね。あの満くんが。いや〜、人の縁はわからんもんだな」
「ええ、そうよ。全くよね」
告白。告白か。
僕は夕食を食べて、風呂はすませて自室に戻った。
そこでじっと英語の教科書を開きながら机に向かって椅子に座っていた。だが、その頭には全く入ってこなかった。
入っていくるのは一つだけ。
………………。
東堂院さんの顔を浮かべるだけで、僕の心は馬に乗って草原にかけだしていた。
それは自由に心を解放していた。自分の思うままに羽ばたいて、しかもそれがある人に自然に舞い降りる、自分と他人が無理なくつながれる幸せな列車だった。
そうだ、僕は彼女のことが好き。なら、どうするか。どのような行動をとるのか?彼女に自分の良さをアピールするのか?いや、でも!自分の良い所何てあるのか?自分の良い所何て全然わからない。
なら、僕は彼女を諦めるのか?
………………………………。
それが一番妥当かな。彼女とのことは遠くで見てるのが一番のように思える。好きだけど、しかし全く自分の良い所がわからないし、どうすればいいのかわからない。諦めた方が良さそうだ。
「諦めよう。僕と彼女では釣り合いが取れない」
だって、そうだろ?なにも特徴が無くぱっとしない男子と、成績優秀、容姿端麗(ようしたんれい)で、しかもヴァイオリンまで弾ける学園のアイドルでは釣り合いが取れないだろ?だから、これは仕方ないことなんだ。
そう、僕は結論を下して英語の学習に向かった。向かったけど、ちっとも集中できずにぼーっとして無為に時間が過ぎていった。
「はぁ〜あ」
6月も終わり7月のじわじわと気温が上がる夏の朝日を感じながら通学している最中に僕は眠たそうにあくびをした。昨日はよく寝たはずだが、眠たくて仕方ない。
まるで眠りの世界のなかで曖昧(あいまい)になっている自分に指示を与えるような、あやふやな感覚だ。
そんな僕が土色の臭いが感じさせるプラスチックの裏庭を通って校舎に向かうと、一つの黒い影が見えた。
?
その黒い蜻蛉(かげろう)の霞(かすみ)が形を形成させて、つややかな黒の稚姫(わかひめ)が立っていた。
「あ、おはよう、美春」
「おはよう」
美春にばったりあった。美春は無表情で剣呑(けんのん)さんがかすかに香るような蜂(はち)の表情をしていた。
「よ。美春。そんな無表情でどうした……………………」
だが、僕は最後まで言い切れなかった。美春が僕の話の途中でむんずと掴んで(つかんで)、全速力で僕を引っ張って校舎裏から離れたのだ。
そして、すぐにグラウンドの隅(すみ)の僕は移動させられた。ぼくはどうして美春がこんな場所に移動したのかだいたいわかっていた。美春もずいぶんせっかちな性分をしているな。こんなことを聞きたいなんて。
ききっと美春は4メートルぐらいの樹木のそばで立ち止まった。そして、僕は美春の手をほどく。美春は動きにムダがないような少ない動作で、だからこそゆっくり振り向くようだったが、印象としてはやけに早く、その二つの矛盾した状態だったのが印象深かった。
「それで、一樹。彼女との関係をどうするの?」
朝のやけに白い沈黙の光が降り注ぐ中、美春はまっすぐな電流を僕の瞳には鳴った。僕は内心のその強い光に戸惑いながら、美春に対面するのを少し斜めに僕の体を傾けて、砂を後ろで踏みつけた。
「別に。彼女とはなにも関係づけない。恋人同士になろうとしない。このままでいい。それが僕が下した結論だよ」
美春は唇を曲げ、雨に何度も打たれて歯を食いしばってるような意志の表情をした。だが、それでも苦心の表情を口に出さずにあくまで低い声で冷静に言う。
「一樹、それで、あなたはそれで良いの?このまま彼女との関係になにも変化を起こさずに、今のまま知人同士で良いの?一樹はそれで幸せなの?」
じゃりじゃり。
砂が乾いた音を立てながら弾きあってる。
「いや、別に幸せではないよ。でも、僕は彼女になにもアプローチをするつもりはない。だって、どうアプローチして良いのかわからないから、なにも行動を起こさない」
美春は石につないだひもを柱に通しゆっくり上下させるような、表情の力を動かすような表情でいった。
「うん。そうかも知れない。確かにアタックするのはかなり恥ずかしいことだしパワーがやっぱりいるね。でも、それで良いの?一樹。こんな生き方ばかりしてると本当に彼女が全くできなくなるよ?こっちからアタックしないと何も得られないよ。そんな人生ばかりで良いの!?
一樹!ここはつらいけど、けど!ここで頑張らなきゃどこで頑張るの!いつも頑張るときなんだよ。ここでも!未来でも!頑張らなきゃならないときがいくらでもあるのよ!だから、一樹ここは攻めよう。攻めて告白しよう。
大丈夫!私が見た所だと、脈(みゃく)があると思うから。嫌いだったら、あそこまで関わらないよ!だから勇気を出して」
美春は僕を優しく穏やかに僕を包みながら励ましつつ、時には烈火のごとく熱く勇気づけるように励ましてくれた。
だが、僕はある単語が気になった。それはゴキブリのようにぞわぞわと僕の背中を這うような嫌悪感に包まれた。
「いや!無理無理!告白なんて無理だ!そんな、それはあり得ない!告白なんて、そんなことはあり得ない!僕は絶対しない。とにかく、それは絶対しないから」
そう個人の遺品を家族に引き取らせるような静けさと有無をいわない力で僕は美春に渡した。
美春は口をへの字に曲げて、雨に打たれながらも不屈の意志を示す石のようにゆっくりとした気迫をうちに閉じ込めた。
「でもさ、一樹。同義反復になると思うけど、告白をしなきゃ彼女を作れないよ?女の子はさ正式に付き合うんだったらそういう告白をしなきゃ付き合って良いかわからなくなるし、そういう正式な物がないと踏ん切りがつかないの。だから、これから一樹に好意を寄せる女の子が現れて、その子を一樹も好きだったとしたら、ちゃんと告白しないとその女の子はどうすればいいかわからなくなるよ。だから、告白はとても重要なの。それはわかる?一樹」
僕は蠅(はえ)を追い払うように手を振った。
「ああ、わかってるよ。そんなこと。そんなことはとっくにわかってる………………」
僕は美春の視線を閉ざして小さく発音するように言い、三春にたいして背を向けた。7月の熱い気温が僕達の汗をじわりとにじませていた。
……………………。
木の上に止まっている蝉が足を伸ばして羽を広げようとしている。
くるっと美春は僕の背を向ける。細い柳(やなぎ)の背中を見せながら美春はいった。
「……………それなら私は何も言うことはないよ。本当に一人が良いというなら私には何も言えない。ただ、その選択で後悔しないでね」
そういって美春は去っていった。淡く錆びた(さびた)ステレンスの銀色の自転車の背中を見せながら小さくなっていった。
……………………。
そして、僕はじっとそこに立ちすくんでいた。何故立ち止まる?これは自分が通ることを決めた道。それなのに何故そこに立ち止まる?
確かにそれはその通りだった。蛇は脱皮しないと病気になる。だが、僕は今の皮がとても大事で、一生それをしないと決めたのに、自然的に皮から自分の体が押される力を感じた。
……………………。
キーンコーンカーンコーン。
「しまったあああああ!!!!!!!!!!授業が始まってしまう!!!!早く行かないとおおおおおお!!!!!!!!!!!」
僕は思い過ごすのをやめて全速力で教室に向かった。だが、間に合わず、先生に平謝りをさせられた。
クラスのみんなも笑い、しかも東堂院さんも笑っていたのが堪えた(こたえた)。
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