第47話 閃光

『なんだこれは!!!!!!』


ラミアの死体を見て、様子を見に来たジャッカルが驚いた。

頭をパワードスーツに潰されたラミアが座っていたのだ、

驚くのも当然だろう。

そのちょっと先で、天を仰いで動かないシンゴがいたのだ。

ジャッカルはシンゴとの戦闘で同士討ちになったと考えた。


『くそっ!俺一人でどうすりゃいいんだ!』


焦るジャッカルは、兄の死よりも

この先どうしたらいいかしか頭にはない

典型的なろくでなしだった。


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タタン!タタタタン!


早朝、街中に銃声が鳴り響いた。

『え?なになに?』

驚いたカノンが飛び出してきた。

窓からこっそり覗いていたロキが振り向く。

『静かに・・・ゼウスのハリボテ兵士が出てきたんだよ。』


『ハリボテ?』


『あぁ、訓練も何もしていない数だけの兵士さ・・・

こんなもん出てきたって感染者の餌になって、増やすだけだろ…』


『恐らく私を追っているのだと思います、トラップが発動して、

本来の目的である恐怖支配放送が出来ないわけですから。』


『ラビット争奪戦ってやつか、ちょっとスタジアムに

行きにくくなったけど・・・まぁ何とかなるか・・・』


『上官・・・作戦はあるんですか?』


『心配するな神楽・・・気合いだ。』


『いあ心配だわ!心配だらけでございますわ!』


ドン!


隠れていた家のドアに傷ついた兵士がもたれかかった。

その兵士を喰おうと感染者が集まってくる。

助けようと銃を撃つ兵士!しかし掴まり、噛まれる。

隠れ家の前で大規模な戦いが起きてしまっている。


『おいおいおい、呼び寄せてる形になってんじゃん!

ここに居たら巻き添え喰っちまうぜ』


『このままじゃ入ってくるかもしれないし、

流れ弾とかも危険ですわよ』


『上官、神楽さん!どうするんですか!』


『上から出るぞ!屋根伝いに脱出する!』


タタタタタ!ぎゃぁあああああああああああああああ!


タタ!


タタタタ!


助けてくれ!


うわぁああああああああああああああああああ!


隠れ家の前が激しさを増す。


ドン!!!!ドン!!!


車や、灯油の残っているタンクが

あちこちで爆発しているようだった。

大量の感染者が集まっているらしく、隠れ家がミシミシ音を立てる。

3人と1つは屋上に出た、屋上と言うよりは屋根の上にあるテラス

と言ったところだ、こんな状況じゃなければ休日の午後を

ここで過ごすのは至福の時間だったに違いない。

隣の家の屋根に飛び移るロキ。


『ヨッ!』


ダン!


『余裕だ!3mくらいしかない!』


『長さ言わないで下さい、余計に怖気づいてしまいますわ。』


『いいから跳べ!大丈夫だ!俺が手を掴む!』


タタタッ『えい!』

軽く助走をつけて跳んだのは神楽だった。

屋根に乗っかったがバランスを崩しかける。

そこをロキがしっかり掴んで事なきを得る。


『次はカノン達だ!まずはラビットの頭をこっちへ!カノン!』


『はい!』


頭を放り投げようとした時、下からゼウス兵士の銃撃があった。

タタン!!!!


『キャァ!』


屋根の上で尻もちをついたカノン。


『上だ!上にいるぞ!』『撃て!撃て撃て!』

感染者と戦いながらも兵士は上にいるターゲットへの攻撃をしてきた。


ガシャン!ガシャン!


窓を叩き割って兵士が入り込んできたようだ。

後を付いて感染者も来るだろう。

この騒ぎで感染者が集まり、家が倒されそうな程に揺れ始めた。

人ではないが人の力で家が揺れるものなんだとカノンは感じ、

恐怖を感じてしまった。


『カノン!早く!こっちだ!』


ガガガガガガガガ!

叫ぶロキの足元に銃弾が無数に撃ち込まれる。

感染者を良く知る兵士は高台に上がり、ロキを狙っていたのだった。

『動くんじゃない!練習していなくてもこの銃なら数撃ちゃ当たる!』


もっともなセリフだった。

よく『未経験な人なら3m先でも当たらない』なんて言うけれど、

マシンガンを撃ちまくって、5m先の人間に

かすりもしないとは考えにくい。

銃口を相手に向けて引き金を引けば無数に発射されるのだから。

それは流石にロキもわかっている、

しかも今の時代の銃の性能だ、素人が握ったとしても銃が当ててくれる。

ロキと神楽へ銃口を向けたゼウス兵士が5人。

カノンに銃口を向けた兵士が3人・・・・バタン!『動くな!』

これで6人になった。


ラビットがカノンに静かに言う。

『私を下の感染者の群れに投げてください、爆破します』


『そんなことしたらラビットさんが・・・』


『構いません、私は人間ではありませんから痛みもありません、

悲しみ等もありませんから』


『ダメです・・・』


『そうですか・・・・

あ、すみませんカノンさん、私の右の眼球に触れてください、

コンタクトがズレたようです』


『コンタクト????目に触れるなんて怖いですよ・・・

こ・・・こうですか?』

そう言いながら右目にそっと触れた。

ピーーーーーーーーーーーーーーー!

警報のような大きな音がラビットの頭から鳴り出した。


『貴様!なんだそれは!止めろ!止めないと撃つぞ!

早く止めるんだ!』

ゼウス兵士が本格的に銃を構えてトリガーに指を置いた。


バチッ!


ラビットの頭が電気ショックを発生させ、思わず痛みで

カノンは手を離してしまった。『キャ!!!』

屋根の傾斜をコロコロと転がるラビットの頭。


とっさにカノンはラビットの頭を追いかけた!

『カノン!!』『カノンちゃん!』

『動くなと言ったーーーーーーーーー!』

タタッ!タタタタタタタタタ!

屋根を走るカノンの後ろを弾痕が追う!

低い姿勢から転がるラビットの頭を掴むも、勢いが止まらず

そのまま2階の屋根から落下してしまったカノン。


ドスン!!!!!!


『かはっ!!!!』


呼吸が止まるほどの衝撃が背中に走った。


すぐさま感染者が取り囲み始める。

『カノーン!!!』『カノンちゃん逃げて!!!!』


『上官!神楽さん!走って!』

カノンが裏返りながらの荒々しい声で叫んだ。


ラビットのカウントダウンは止まらない。

『カノンさん・・・何してるんですか・・・

爆発はもう止まりませんよ・・・』


『私も止まらないの・・・あなたが好き。』


そう伝えるとカノンはラビットの頭を持ち上げて

そっと目を閉じたまま口づけをした。


『神楽!走れ!』『はい!』


2人は屋根の上を思い切り走った!



『ありがとう、カノンさん、今、愛しさと言うものを

理解できた気がします・・・・』


『うん、合格・・・』



ドン!!!!!!!となった2秒後、凄まじい光と熱風が

周囲に広がり、カノンを中心に数十メートルを飲み込んだ。

一瞬で血液まで焼ける感染者の群れ!

隠れ家を取り囲んでいたゼウス兵士も焼け焦げた。

影がコンクリートに焼け付くほどの熱で銃が次々暴発し、

あちこちでパンパンと音を立てていた。

家々も次々に飲み込まれた。

焼けると言うより消滅すると言った方が的確かもしれない。

その光が追ってくる。


屋根伝いに全力疾走する2人!


『迫ってる上官!』


『振り向くな走れ走れ走れ走れ!!!!とべー!!!!!』


屋根の上から下にあるプールに飛び込んだ!

ザッパアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

その上を光の熱風が走り抜けた!

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


『ぶはっ!!!!』『ばぁっ!!!!』


『熱っ!アツツツツ!』『キャァ!アツいアツい!』

プールの水面が瞬間的に熱くなっていた。


はぁはぁはぁ・・・


暫く言葉が出なかった・・・。

あんな形で仲間を失うとは思っても居なかったからだ。


『上官!上官!助けられなかったでしょうか・・・

カノンを、ラビットを・・・・上官!』


『それが・・・シンゴも逝ったらしい・・・

ラミアを道連れにな・・・・すまん・・・

・・・・・・・・・とにかく俺たちは助けられたんだ

・・・・・必死に生きよう』


2人はプールから上がり、スタジアムを目指した。


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『どぉおおおお?虎徹さーん』


警備室にあった双眼鏡で地下施設のあった方を見ている虎徹に、

如月が声をかけていた。

スタジアムの中にある金属の柱に付いた梯子を10mくらい上り、

そこに一人で立って見張れるような場所で虎徹は観ていたのだった。

『どーなのー?』

如月は少し声を張って呼んでみた。

返事がない・・・・

『じじぃだもん耳も遠いかな』


『なんじゃとー!』


『聴こえとんのかーい!』


『ちょっとなぁ・・・・気になる爆発が確認できたんじゃがな・・・

あれは車とかガス爆発じゃないと思うんじゃよ・・・

その音でゾンキーが引き寄せられているのも、あいつらが来るには

なんちゅーかその・・・マズいんじゃないかのう・・・』


『武器とかそういうのー?』


『うむ、あちこちで銃声もし始めたし、きっとロキ達が

追われているんじゃないかのう・・・』


『来れるかなー!?来ないとスピーカーとかわかんないんだけど』


『あいつなら来るさ、きっとくる』


『オッケー!信じるよ、練習するね』


『見張っとく』『はーい』


やや暫くすると小型のトラックが銃撃を受けながらも、

こっちへ向かってくるのが虎徹には見えた。

ゾンキーを跳ね飛ばし、道路に止めっぱなしの車に次々と

ぶつかりながら、エンジンから煙を上げて走っていた。

『生存者だろうか・・・いあ、撃ってるのはゼウスの兵士じゃな・・・

ってことは・・・・ロキじゃろうか・・・』


どんどんトラックはこちらに向かって来た。

『ロキじゃ!おお!来やがった!

みんな!来たぞ!入り口を開けてやれ!』


『わかった!』

如月が返事をし、2人を連れて走った。


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ブーーーーーーーーーーーーーーーーン・・・・

『再起動が行われました』

地下施設のアナウンスがそう告げた。


『おお!動いた!動いたじゃないか!』

ほとんど誰も居ない地下施設で喜んでいるのは

大統領アレース・・・いあもうジャッカルと言って良いだろう、

大統領の威厳なんか今は何もない。

もともとさほど威厳などない、ただの独裁者ではあるが、

表向きは良き大統領を演じていたつもりであった。


走るジャッカルが向かうのは監視ROOM。

『モニターは・・・ついてる!ははっ!

より一層街がパニックじゃないか!ムシどもが!這いずり回れ!

喰え!引きちぎれ!わははははは!いいぞ!ゴミがぁ!!

えっと・・・・?何か・・・・写ってないか?・・・・

あいつらだ・・・あの・・・ロキの野郎・・・

どこだ・・・・』


ジャッカルは数あるモニターをキョロキョロと、

まるでレストランのショーウィンドウに並んだ食品サンプルを見て、

どれを食べようか迷いに迷っている子供のようだった。


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プールから上がり、小道を走り、

鍵のついた小さめのトラックを見つけて乗り込んでいたロキと神楽。

銃撃を激しく受け、かわしながら路肩の車にぶつかりつつも、

なんとか逃走しているのだった。


乗り込んだ車にはセクシーグッズ専門店【感度輪】(かんどわ)の

ロゴが大きく貼られていた。

車内にはいわゆる大人のおもちゃが散乱しており、

神楽にとってはとても恥ずかしい環境ではあった。


『あ・・・あの・・・』


『カンドワだろ?はっはっは、この街じゃTOP人気の

セクシーグッズ専門店さ、みんなで気持ちよさを体験しようって意味で

感度の輪、カンドワ・・・らしいぜ』


ドン!


そういいつつ感染者を1人跳ね飛ばした。


『そ・・・そんな説明必要ありません!』


『一つ持っていったらどうだ?

神楽ちゃんの感度はどぉ?なんつってな、ははっ!』


『い・り・ま・せ・ん!』


『はっはっは、分かった分かった、

いいか神楽、ここからはマジな話だ。

このままスタジアムに2人で入ったらスタジアムに

兵士が乗り込んでしまって彼女らを巻き込んでしまう』


『う、うん、そうですわね』


『あの角曲がったあたりでサイドターンをするから、

その隙に反対側へ飛び降りて直ぐに身を隠せ。』


『上官は・・・』


『わかったな!いくぞ!』


『は・・・はいっ!』


ロキがサイドブレーキを引き上げるとハンドルを思い切り右へ切った。

ギャーーーーーーーーーーーーーー!!!!と悲鳴をあげたタイヤが

綺麗に滑りだして助手席を追手の視界から外した。

『行け!飛べ!身を隠して俺が見えなくなったら

直ぐに走ってスタジアムへ入れ!』


ダン!!!!ズザッ!ゴロゴロ・・・


神楽は飛び降りて、その勢いを殺すかのようにもう一度軽く跳んで、

地面を2回ほど回り、即座にダッシュして側にあったゴミ箱に

身を隠して呼吸を整えた。

この騒ぎでゾンキーが移動しており、周囲に危険はなかった。

素早く立ち上がると乗ってきた車を見るが、

ロキが来るどころか、そのまま真っすぐ

兵士の居る方に消えていった。


『上官・・・・』


気がかりではあったが、今は自分の安全確保が先決。

そう自分に言い聞かせて神楽は少し大きい運搬用のドアに手をかけた。


ガチャ・・・


そこには白髪の少女が立っており、『あ・・・』と

言葉を発しようとしたが即中に引きずりこまれた。


『神楽さんね?動かないで、噛まれてない?』

左にはバールを持ったパイレン、右にはパイプレンチを持った羽鐘、

正面には質問の答えを待つ如月が構えの姿勢で待っている。


『大丈夫・・・氷の女王・・・スースーミントちゃんね?』


『この白髪、ゼウスには私しかいないわよ』


『また会えた』『また会えた』

そう2人で同じセリフを言うと、抱きしめ合った。

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