第46話 ラーメン

『聞いても話さないだろうし。。。。

俺の頭じゃ理解できなさそうだからよ・・・・

でも止めなきゃなんねー気がするからぶっ倒すわ!!!!』


シンゴはトン!と左に踏み込んで即右へ回り込んだ。

一瞬のフェイントに誘われたラミアが風を切るような蹴りを、

シンゴの残像に見舞い、スカしてしまう。

『クソ!』

ラミアの左サイドからシンゴは低い姿勢から伸びあがる様に、

右の拳をアッパー気味に放った!

しかし先ほど放った蹴りが即軌道を変えてシンゴ向かって来た!

とっさに左腕でその蹴りを受ける。

ズド・・・・・ン・・・

『なんて重い蹴りだ・・・。』

シンゴの左腕が痺れた。


サイドからの蹴りは一度引き、

そのまま顔面を狙って真っすぐ飛んできた!

それは蛇が鎌首をもたげて攻撃を仕掛けてくるような動きだった。

ガードの上からでも五臓六腑が揺れるのを感じる衝撃に、

シンゴは奥歯をギリリと噛む。


『側近はヒマですから、ちょっと鈍りましたね』


そうニヤリとしながら呟き、軸足の足首から下、

つま先と踵を交互にスライドさせて前進移動してきた。

上半身にまったくブレがない、何より頭の位置が変わらない。

片脚なのに崩せる気がしない・・・そうシンゴは感じた。


『どうしました?・・・そこのほら・・・

鉄パイプでも使ったらどうですか?私は構いませんよ』


ラミアの舐めた言葉がシンゴを挑発する。

『俺はプライドなんか持ってねぇ、ただぶっ倒せりゃ満足だ、

そう言うなら遠慮なく使わせてもらうぜ』

シンゴはアツくなるどころか、素直に鉄パイプを1本引き抜いた。


しかしシンゴの本心は、ここで止めなければ先に行った仲間たちに

こいつの手が回る・・・そう考えていた。

武を学び、空手のなんたるかを追求し続けるシンゴに

プライドが無いわけがない、これはシンゴなりの策なのだ。

しかし素手相手に武器を持つなど、奥歯が砕けるほどシンゴは

悔しさを噛みしめるのだった。


右手で握り、左手を下からポンと鉄パイプに添えるように持つ。

実は戦いに関しては分析家、体格の割には力任せな戦いをしない。

自分の力を最大限発揮できる方法を見出す。

または相手の力を利用する方法を探す。

シンゴは考えを巡らせ両手で棒を横に持ち、右手は拳を下に、

左手は拳を上にして握る。


『行きますよ・・・』


舐めた口調でそう吐き捨てるとラミアは一気に蹴りを放って来た。

ラミアの下段蹴りがシンゴの大腿部を狙うが、

蹴りを小さく振り上げるような鉄パイプの動きで弾く!

カァン!!!

そのまま水月を狙う蹴りを横一文字にした鉄パイプで受ける!

コォン!!!

三発目は顔面を狙ってきたが、右の小さい振りで捌いたシンゴ。

キィン!!!

小気味イイ音色が響いた。

よくカンフー映画で見かけるワンシーンの様だった。


『ほう・・・やりますね・・・』

ラミアが舌をだしてペロリと下唇を舐めた。


まだまだ余裕のラミアのセリフを聞きながらシンゴはそれを見ずとも、

鉄パイプが今の三発で歪んだことを理解していた。


『少し時間を早めますか。。。私だけね』


トン!と軸足で地面を蹴り、数センチ床から浮いた状態でシンゴに迫った。

一瞬と言葉で言うよりも、もっともっと速かった。

とっさにシンゴが構えるが鉄パイプごと蹴り飛ばされた。

3メートルほど飛ばされたシンゴ、その直後に落ちてきた鉄パイプは

Uの字に曲がっていた。言葉を発しようとした瞬間、シンゴが嘔吐した。


『ボェエエエエッ・・・・・クッソ・・・・クッソ』


『クソなんか漏らしてるヒマありませんよ!』


ズガン!

避ける事は出来たものの、コンクリートの壁には直径3~40㎝ほどの

穴が開いていた。這いつくばって逃げるシンゴ。

わざと当てずにシンゴの直ぐ後ろの壁に穴を開けながらラミアが追った。

ガゴン!ズドン!ボゴン!

『なんだありゃ冗談じゃねぇ!・・・考えろ・・・考えろ・・・・』


蹴りをかわしながらシンゴは考える。


考え付いた。


鈍感だが、閃くスピードはマッハだった。


焦って逃げるふりをしながら廃品を積んだ棚の前まで逃げてきた。


『おっと・・・ベタですね、棚を蹴らせて崩れたところを狙うと言う…』

そうラミアが話しはじめたが・・・・。


『ハズレ!!!!』


ラミアのセリフが言い終わる前に、ボルトとナットが入った箱を

ラミア目がけて投げつけた!

ラミアの顔面に無数のボルトとナットがぶつかる!

たまらずラミアが手で顔を覆った瞬間シンゴが棚から取った

レンチを握り、ダッシュで殴りかかった。


ガイィーーーーーーン!!!!


ラミアが右脚を上げてガード!その脛を思い切り殴ったのだが、

金属音と共にシンゴの右手が痺れ、たまらずレンチを落とした。


『イッテェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ・・・・

・・・・・・・・・・お前その足・・・』


『はい、金属です。』


『クッソ!何が青足だよ!そんな金属の塊で蹴ったら

誰でも青くなるわ!ダッセェ野郎だなこの馬鹿!バカバカバカ!

バーカバーカバカバカバーカバーカバーカ』


『ふっふっふ、良いのですよシン・・・』

『バーカバーカバーカバーカバカバカバカバカバーカ』

『良いのですよシン・・・』

『バーカバーカバーカバーカ』


『ボキャブラリーが貧困だなぁ!!バカバカやめーや!』


『だってバカだもんよ。。へへっ』


『いいんだよシンゴくん、力が全てだ、ダサいとかカッコいいとか、

必要ないんですよ、そんなものまとめてねじ伏せてしまう力が

全てなんですよっ』


ラミアが踏み込んで蹴りを見舞う。

シンゴの脇腹にめり込むようにヒットした。

シンゴの耳には自分の肋骨が砕ける音が聞こえた。

自分で押さえる行為ですら激痛を伴う痛みだった。

『やべぇ!・・・これはやべぇ・・・圧倒的にやべぇ』


『口ばかりですねシンゴさん』


先ほどと同じ場所をもう一度金属の足で蹴られるシンゴ。

『ぶはぁ!!!!!』

内部で出血したらしく、シンゴは思い切り吐血した。

ダメージを悟られないように隠したいところだが、

それを上回るダメージがシンゴを襲い、相手の前で血を吐いた。

薄れゆく意識の中でシンゴは『内臓逝ったな』と悟る。

自分に出来ることを考えた・・・。

今できる事・・・今できる事・・・


ドン!!!!!!


そんな中でさえも蹴りが止むことはなかった。

『ぐ・・・・ふぁぁっ!!!!!

ハァ・・・ハァ・・・肺に刺さったかなこりゃ・・・

苦しい・・・息が・・・

スーパーヒーローシンゴちゃんピンチ・・・ハァ・・・ハァ・・・』



『後から効いてくるボディブロウなんて言いますけど、

ボディなんか当たった瞬間効きますからね、むしろ一撃ですよ。

でも私に3回蹴られても立ってるなんて過去最高記録ですよシンゴくん』


ドォン!!!


『ぶしゃあっ!!!!!』

悶絶声と同時に血しぶきがシンゴの口から噴き出す。

苦しくて頭を上に向いたまま左右に揺らすので、

真っ赤なスプリンクラーのようだった。


『俺のできる事・・・できる事・・・・』

その時シンゴは自分の両腕で、自分を抱きしめるように

ギューっと絞り上げた。

折れた肋骨が更に肺にめり込み激痛を伴う。

腕で押し上げられたかのように内出血した血液が、

ゴボゴボと音を立てて喉まで上がってきたのが分かった。


次の蹴りが来る!


思い切り痛みをこらえて鼻から息を吸い込んだシンゴ

その瞬間ラミアの顔面目がけて自分の今の肺活量全開で

血を吹きかけた!!!!


『ブーーーーーーーーーーーーーーー!!!!』


『ぐわっ!!!』


霧吹きどころのレベルではない大量の血を吐きかけられ、

もろにシンゴの血が目に入ってしまったラミアは必死で目を擦り、

目をパチパチさせるが思うように開いていられず、痛みで強制的に

閉じては涙を流し、フラフラする。


『くそっ!なんて野郎だ、素直に死ねばよいもの・・・をっ!』


ズドォオオオオオオン!!!!!


バン!!!!ガラガラガラガラ・・・ゴォオオオン!!!!

カランカラン・・・


何が起きたかわからないが、凄まじい痛みが左足に走ったラミア。

『うわぁっ!!!』

生身の左足が曲がってはいけない方向にひしゃげて骨が皮膚を突き破り、

木の枝を折ったように 折れていた。

『ぐあっ!!うわぁああああああああああああああああ!!』


『俺より派手に叫ぶじゃねぇかよ・・・やっぱダッセェよお前。』

シンゴはパワードスーツに乗り込んでいた。

そう、血を吹きかけて目隠しをした時に乗り込み、

ラミアの生身の足の方を思い切り蹴り飛ばしたのだった。


『ま。。。。待ってくれ!ここはお互い納めようじゃないか!』


ドン!


シンゴがラミアの折れた足を踏みつける。


『ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


『後2発な』


『頼む!!!頼みますシンゴくん、いあシンゴさん!お願いしま

グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


皮膚から飛び出した骨はその原型をとどめず、粉砕され、

かろうじて肉が付いた皮が左足にくっついてるだけの状態だった。


『お前みたいのは残して置いたらこの地球に良くない気がするよ、

4発目で消えてもらうからね』


『な・・・なぁシンゴさん、お願いします、弟が・・・

弟には私が必要なんですよ、ねぇ・・・私が死んだら・・・』


『うるせぇんだよっ・・・・・』


ボゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


パワードスーツに乗ったシンゴの怒りの一撃がラミアの頭を砕いた。

拳が壁にめり込み、その周囲には肉片が飛び散り、

綺麗な薄いピンク色のババロアのような固形物が壁に付着した。

丁度ラミアの頭がシンゴの拳と入れ替わったといったところである。


『バーカ・・・』


プシューーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


パワードスーツから圧縮された空気が解放され、

シンゴが落ちるように床に下りた。

身体を引きずり、壁にもたれると煙草を一本くわえ、火をつける。

すーっと長く吸い、一気に咽た。


ゲッホゲッホ・・・グエッ・・・プッ!


大量の血が吐き出され、長い事咳をした。


咳が収まると『はぁ・・・・』とため息をつき、

壁に後ろ頭を付けて天を仰ぎ、

『駅前の無限大のラーメン喰いてぇなぁ・・・・』

と一言漏らすとゆっくりと目を閉じた。


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『あの・・・・ロキさん・・・・』


皆が眠りに付いたが、様子を見る為に

二階から居間に下りてきたロキにラビットが話しかける。

『花瓶に乗った生首に話しかけられるとゾッとするな』


ロキはラビットの頭を前にくるりと回し、

ソファに深く腰掛けると、その長い脚を組んだ。

『で?どうした』


『申し上げにくいのですが、シンゴさんが亡くなりました。』


『なんだって!?てめぇ適当な事言ってんなよ!

なんでわかるんだよ!罠仕掛けたんだろ?シャットダウンしてるんだろ?』


『シャットダウンは機能的なもので、私の任意で動かせるものはあります、

シンゴさんとパイクが戦闘になったようで、監視カメラで見ました。

リプレイを見ますか?』


『あぁ。。。頼む』


暗闇の中で壁に映し出される映像を食い入るように見た。

数十分後に見終わったロキは呼吸を忘れていたかのように

深いため息をひとつついた。


『さすがシンゴだな、一人連れて行ったぜ、なぁラビット、

カッコいいよなあいつ・・・』


『そうですね、私はロキさんのように涙を流す機能はありませんが、

泣きたくなる感情と言うものを理解した気がします。』


『馬鹿が、泣いてねぇよ、これはその・・・酒だ!』


『人間は目からアルコールを流すことはありません』


『うるせぇよ!だからてめぇはロボなんだよ!』


『八つ当たりは良くありません、シンゴさんが死んだのは、

私の責任ではありませんよ』


『わかってるよ!・・・ちくしょう!わかってるよ!

アイツとはダチなんだよ・・・ダチ失うってのはなぁ・・・

チッ・・・・なんでもねーよ!』


ロキはソファにうな垂れ、力一杯両手でソファの生地を鷲掴みにし、

顔面を押し付けて声を殺して泣いた。


『申し訳ありません、見せない方が良かったですか』


『いや・・・ありがとな、ラビット。』


『お察しいたします。』


『でもよぉラビット・・・俺には死んだようには・・・

見えねぇんだよ・・・いや、思えねぇんだ・・・』


『私のデータ管理に間違いは・・・』


『わかってるよ、間違いはないってんだろ?』


『いえ、100%ではありません』


『ちっ・・・ロボのくせに』

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