第45話 SHINGO

地下施設内部では、シンゴがゆっくりと休みながら移動していた。

少々鈍感なところがあり、ラビットが遠隔操作により

防災シャッターで出口までの道を作ってあるのだが、

シンゴは気が付くことなく警戒しながら一本道をジリジリと進んだ。


『なんで敵が急にいなくなったんだ?』


シンゴの鈍感さは凄まじかった。


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『どうなってる!』


簡単に捕らえられると思っていたジャッカル・ラーが

警備兵の通信に激怒する。

『そう焦るなジャッカル・・・そもそも反逆を恐れて、

防衛部隊に練習もさせず、軟弱なやつらばかりを集めたお前が悪い』


『そんなもん数集めりゃ何とかなると思うだろうが!

こっちには生物兵器があるんだから、恐怖を与えれば反逆もないし、

攻め込まれることもないんだ。それに蟻が逃げたところで蜂の大群には

勝てないって言ってたじゃないか!』


『それが今ひっくり返る寸前なんだつってんだろうが!この愚弟が!

蟻にも頭の良いヤツ、力の強いヤツ、色々いるってことだ。』


『じゃぁどうしたらいいんだよ!ライブ配信だって止まってるんだぞ』


『ならまずは監視ROOMだ、ライブ配信を再度開始させればいい。

問題は1つ1つ確実に潰すことだ、焦るな愚弟よ、立て直せ』


『おい!警備!監視ROOMへ行け!

CPU関係の知識のあるものを連れていき、止まったライブ配信を

再開させろ!早く行けっ!』


ジャッカルは警備兵に指示を飛ばし、玉座の背もたれにドン!と

勢いよくもたれてだらしない姿勢でズルリとその身を椅子に任せた。

サイレンが鳴り響く空間で、沈黙の時間が続く。


ピーピーピー!『大統領!到着しました!』


その身を一瞬で起こし、前のめりの姿勢になってジャッカルが応答する。

『それで?画面はどうなってる!』


『ノット・・・デリー・・・ト・・・えっと・・・

ポリ・・・・プリーズ エンター・・と表示されています』


『どう思う兄貴・・・』


『トラップくせぇな・・・

パイクです!連れて行った知識のある者はなんと言っているのかね?』


『はっ!押すなと言うのだから押すわけねーだろ、プリーズと言うのだから

押せばいいんじゃね?知らんけど・・・と申しております!』


『そのまま伝えるんじゃないバカモノが!』


『はっ!恐れ入ります!』


『褒めてない!

全く・・・バカばかりだな・・・再起動だ!再起動させろ!

それでトラップも仕切り直しだろ!』


『はっ!承知しました!』


『おい!再起動だ』


『はいはい・・・』

CPUに少し知識のある男が面倒くさそうにモニターで【再起動】を選んだ。

画面が真っ暗になり、いつもの再起動・・・・ではなかった。

監視ROOMのすべてのコンピューターが1つづつシャットダウンを始める。

バチン!バチン!バチン!

慌てる警備兵をよそに、順番に、逃げるように

モニターが漆黒へと飲み込まれていった。

CPUに少し知識のある男が吐き出すように呟いた・・・・

『再起動が起爆スイッチだったか・・・・』


ブーン・・・・

エンジンが止まりかけるような音と共に、監視ROOMは完全に落ちた。


それを聞いたジャッカルはブチ切れた。

『兄貴ぃいいいい!!!!最悪じゃねぇか!何やってんだよ!』


『あの状況での判断だ!仕方がないだろう!』


『どうするんだ、機能が停止してるんだぞ!この地下施設の機能が!』


『ラビットを取り返せばいい、兵を全て捜索に出せ!』


『兵って兄貴・・・反逆を恐れてろくな訓練もさせていない

取って付けの兵士しかいないんだぞ!ハッタリ集団だぞ!

そんな奴らが外で戦えるのか?』


『人数で押せるだろ』


『だからあの時やられたんじゃねぇの!?学べよ兄貴!』


『いいから出せ!機能が不自由になっただけだ、回線は生きている。』


ジャッカルは全館に向けて指示を出した。

『全・・・コホン・・全スタッフに告げる!武器を持って街に出ろ!

目標はラビットの捕獲!破壊してはならん!捕獲だ!

一緒にロキ、神楽も居る可能性がある、そっちは射殺して構わない!

もう一度言う・・・』


2度繰り返すと、うな垂れるように玉座に座り深くため息をついた。

数分後、地鳴りのように館内に足音が響いた。

数千のスタッフが武器を持って外に向かっているようだった。


『俺たちはどうするんだよ兄貴・・・』

右目をつむり、左目を見開いて眉毛をクイッと上げてラミアを見た。

ラミアは後ろ手に組んで3歩ほど歩き、指をパチンと鳴らして振り向いた。

『いいレシピを思いついたような感じで見るなよ兄貴』


『試作品だが、パワードスーツを装着して出ようじゃないか!』


『いや、あれはまだテスト段階で・・・』


『とは言え実践テストがされていないだけだ、衝撃も斬撃も、

耐熱耐寒、あらゆるテストはクリアしている・・・

あぁあれだ、俺が出る、お前は大統領だ、事態の収拾後に顔を出して、

民の前で笑顔を振りまけばいい。』


そう告げるとラミアはパワードスーツの実験室兼格納庫へ向かった。


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『おお?おおおおおお?』

大量に走り抜けるスタッフから身を隠し、様子を伺うシンゴ。

ラビットが作った通路が逆効果となってしまったようだ。

扉を破壊し、一気に誘導されたように一本道を駆け抜けられてしまった。

『ん?あっちが出口なのか?』

やっと気づいたシンゴも、そろりそろりと様子を見ながら列の後に続いた。

しかし数メートル進んだところでシンゴが思う。

『今の兵士って兵士じゃなくてここのスタッフだったな・・・

てことは大統領って?ガラあきじゃねーの?』

ここでシンゴの勘が冴えたのだった。

引き返して大統領へと足を向けやや暫くすると、

防災扉に穴が開いているのを見つけるシンゴ。

『こっちには格納庫しかない、外へ出る道はないはずだ・・・

あぁ。。。直接上にでるハッチはあるな・・・でもそこって・・・

あそうだ、試作品研究してるから上に出る必要が無いはずなんだがな』


ゆっくり警戒しながら進むシンゴ。

研究室兼格納庫のドアが開けっぱなしだったので、壁に張り付き、

中を覗いてみた、そこには大統領側近のパイクが居たのだった。

『パイクじゃねぇか・・・何してるんだ?

俺たちを探してるんじゃないのか・・・・・?』


『おー!これこれ、このフォルム!』

誰も居ない研究室で声をあげながらウロウロするパイク。

反響が凄く、とても喜んでいるように感じる。

パイクが見ているそれこそがパワードスーツ。

パープルメタリックに塗られた、ほぼフレームのみの状態だが、

人間の筋肉を意識して作られたような

全体的に流面系のアールが特徴的なボディ。

しかしながら脚だけはアスリートの義足仕様、分かりやすく言えば、

パラリンピック選手が使用している義足の様なCの逆向きの形。

走る際のショックを吸収しつつ、バネを利用しての高速な動きに

適していた。後ろからうつ伏せに十字架型の棺桶に入るような

イメージで乗り込み、自分の動きに連動して動かすことができるが、

そのパワーは当然のことながら人間の遥か上を行く。

対テロ用が謳い文句となっており、両手は五指仕様、

装甲は操作性を重視した結果、多少犠牲となっているが、

フルメタルジャケットでも貫通することはない。

ただし破損はするので弾丸を受け続ける事は無謀と言える。

それでも敵地に突っ込み、一斉射撃する人間を

一人で一掃するには十分な性能だと考えられていた。

敵の武器にもよるが、一応テストではロケットランチャー2発までは

耐えられたとの報告がある。

しかし、まだ試作段階の為、完全にボディが完成していない。

それにパイクは乗り込もうとしていたのだった。

確かに相手が感染者と、武器を持たずに逃げた人間数人であれば、

十分すぎると言っても過言ではないのだが。


『えーっと・・・うむ、充電は満タンじゃないか!はっはっは』


パワードスーツの後ろのロックを外し、縦に真っすぐのレバーを

真一文字になる様に右上に押し上げた。

エアロックが解除され、聞いたことのないシュー!が3秒ほど

研究所内に響き渡った。


乗せてはいけないと直感したシンゴ。


いきなりのダッシュからタックルをパイクに仕掛ける。

上半身ムキムキマッチョのゴリラ体型のシンゴのタックルが

簡単に切れるはずもなく、気づいたがかわす事すらできずに

胴タックルを受けてシンゴもろとも数メートル跳んだ。

置いてある廃材に突っ込み、色々な音が交じり合った破壊音となり、

研究室に響き渡る。


即立ち上がるシンゴ。


『ぐわぁああああ』

背中を抑えて左右に二度三度ゴロゴロと転げまわるパイク。

『起きろパイク!ここで何してる!』


『これはこれはシンゴくん、いあ、特務監視課のシンゴくん・・

だったね、くっくっく』


濃いグレーに黒のピンストライプのスーツのズボンの裾を、

パタパタと払い、汚れを叩くと左脚を軸にし、右脚を浮かせて

膝を曲げて前に出すと、一本足のままブレることなく、

スーッとシンゴの方にその膝を向けた。

『あなたも居ましたよね・・・あの時』


『・・・てめぇ・・・何者だ?』

シンゴも左右の拳を軽く握り、右構えで戦う体勢を取る。

左手を少し高めに、右手は肘から少し内側に曲げ

漢字の「人」の様な体勢、これは相手が膝から下が変則的に

上中下と打ち分けが出来ると予測し、全ての蹴りに対し、

払い、受け、流しが出来るように取った構え。


突っ込めば向こうは一本足なので崩しやすい、

しかし一本足で堂々と構えると言う事は、

蹴りによる弾幕の強さを意味していた・・・・

しかしそれ以前に、パイクの構えに見覚えがあった。

『まて・・・その構え・・・・見たぞ。。。見た・・・

えっと・・・・青足(あおあし)だ!その蹴りは血液の流れを止め、

倒れた相手は真っ青になって死ぬと言うあの!・・・』


『よくご存じで・・・光栄でございます。』


『まて!じゃぁ・・・お前・・・ラー兄弟のラミアか!?』


『さようにございます・・・顔は変えましたがね』


『てことはまさか・・・大統領は赤足か!!!!!????』


『蹴られたものは全身から血を噴き出し、真っ赤になって死ぬ。

そうです、赤足で正解です・・・・よっ!』

正解を言い終わると同時に右の前蹴りをラミアが打って来た。

両腕をクロスさせて受け止めたシンゴだったが、その強さは

受けた両腕の痺れで直ぐに理解できた。


『なんだかよくわからねぇけど・・・・喧嘩って事でイイな?』


そう言うとシンゴは口元でニヤリと笑った。

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