第44話 内 乱
『開いてねぇじゃねぇかよ!神楽!』
『知りませんよ!いつも来るのゼウスマートですから!』
どこかのゼウスマートに逃げ込んだロキと神楽だったが、
ミサイルでも壊れないと言う防災シャッターはガッチリと閉じていた。
取り敢えず下から上がってこれないよう、
エレベーターの中に事務所の机やロッカーなどを押し込んで挟み、
引っかかかるように仕掛けたのだった。
『くっそ!これじゃ袋のネズミだ!』
『待って!待って上官、私のタブレット繋いでみますわ』
そう言い放つと同時にスマホ程度の大きさのタブレットを出して、
ケーブルに繋ぎ始めた。妨害電波は出されているが、
特務専用のチャンネルは生きているはず・・・そう願いながら
操作を開始した・・・。
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『これで・・・うごく・・・はずっ!』
エンターを押す中指をポンと弾ませたままカノンがラビットの
頭をじっと見つめる・・・・。
10秒が経過してもラビットは動かなかった。
『なんで?間違ってないと思うけど・・・もうっ!
動きなさい!動きなさいよ!動けこのクソ野郎!』
『クソは排泄物の表現の1つですから、排泄物に野郎は基本的には
付けないと思いますし、私は少なくとも排泄物ではありません。
見方を変えれば人間が生み出した排泄物・・・かもしれませんけど・・・』
『よかった!ラビットさん!ごめんね、排泄物なんかじゃないから、
なんてゆーかその・・・勢いで・・・クソとか・・・あの・・・』
『ゼウスマート66号店からハッキングがありますね、繋ぎますか?』
『え?え?上官たちかも・・・繋いで下さいラビットさん』
『では僕の口から音声を発します』
『は、はい!』
『・・・・・・・・・聴こえる?誰か居る?神楽だけど』
『あ!神楽さん!カノンです!ラビットさんを通して聴いてます!』
『カノン!!!逃げなかったのね、助かる!手を貸して!』
『はい!何をしたら良いでしょうか、ノー・スピーク・イングリッシュ!』
『日本語でしか言わないから!焦らないで、いい?ラビットに言って、
全システムを悟られないようにハッキングできるようセッティング、
常に私の端末からの連絡を受信できるよう待機と。』
『神楽さん、ラビットです、全て了解しました、問題ありません』
『あ、ありませんそうです!』
『OK!流石の悪名高いマシンね、じゃぁここ開けてくれる?
あとカノン、無理はしないで、あなたは何もしていないから罪もない
そのままでいれば何もされないから』
『いいえ、神楽さん、ハッキングしたのは私ですから罪人です。
全力でサポートさせていただきます!』
『わかった、サンキューカノン!』
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『パイク様ー!ロキと神楽がどこかのゼウスマートに逃げ込んだようで、
行方が掴めなくなりました』
『まぁよい、ゼウスマートの防災シャッターは開かん、時間の問題だ。
3人一緒に逃げたのか?』
『はっ・・・行方は不明ですが3人が逃走中です。
監視ROOMのスタッフも恐怖心からか、3人が脱走を試み、
射殺されました』
『ふむ・・・あそこのスタッフは上官1名、側近1名、作業スタッフ6名、
上官のロキ、側近の神楽、シンゴが逃走、3人が射殺・・・
あと2名はどうした?』
『え?あの・・・・
反乱の意思がないので監視ROOMにいるものかと。』
『射殺したのは人間だったか?』
『はい、間違いありません。』
『監視ROOMを押さえろ!ラビットが残っている!
あいつはゼウス全てを動かせると言っても過言ではない!
遠隔操作される可能性があるぞ!行け!』
『は!はい!』
『兄貴・・・予定外の動きをされたな・・・』
『心配することはない、スズメバチの大群に蟻が数匹で勝てるわけがない。
しかしもしラビットが味方に付いていたら危険だ、
あいつはスズメバチネジレバネ…スズメバチの中に潜み、
ゆっくりと破壊する。
タレットの配線を切断しておこう・・・厄介な奴を作ったものだ・・・。』
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『あ、カノンさん、敵が来ます。気づかれたようですね、
待ってくださいね・・・・』
『え?え?大丈夫なんですか?』
『大丈夫ではないでしょうね、
まだ僕はロキ上官に必要とされているので、
僕を運んでここから逃げてもらえますか?通路は僕が確保します、
もう全て情報は入れましたからどこからでもこの建物は僕の手中です。
まぁ正しくは充電が残ってる間ですけど。』
『え!え!じゃ走りますよ!』
ラビットの頭からコードを引き抜いて全部ポケットに入れ、
生首を抱えた少女が全力で走り始めた。
プシュー!プシュー!ガコン!ガコン!
ラビットが防災シャッターを駆使して警備の進行を阻止、
安全な道を作り、カノンを走らせた。
当然の事ながら防犯カメラは真っ黒、タレットも機能を停止していた。
『はぁはぁ・・・モーゼの十戒みたい!私を扉が導いてる』
小さなエレベーターに飛び乗ると、上へと動き出した。
モーターの音だろうか、モーーーーーンと言う耳の奥が痒くなるような、
カノンには不快な音が数秒続いた。
到着したらしく、動きが止まり、扉が自分を放り出すかのように、
ぶっきらぼうにシャー!と開いた。
『少しでも食料を持った方が良いですよ』
ラビットがカノンに言うが、
カノンは既に足がおかしコーナーに向いていた。
お腹がすいていたのか、一気にペロリ棒を3本食べた。
コーンの粉末を練って膨らませ、スティック状にしたものに、
味のついたパウダーを振りかけただけのお菓子だが、
割と古くから根強い人気で、今でも売れ続けているヒット商品。
『美味しすぎてペロリと1本食べちゃうから
ペロリ棒なんだそうです』・・・とラビットが話しかけるが、
カノンは『うんうん』と軽く流し、
ザクザクと追加で2本【鮫味】を食べた。
『鮫味ってどんな味なのですか?』
『鮫の味』
『あの、私に何かご不満でも・・・』
『無いです、必死だったから・・・なんかごめんなさい。』
『いえ、僕こそ人間の感情が分からずすみません』
『あ、いたいた!』
『え?神楽さん!ロキ上官も!』
『僕が神楽さんのタブレットに連絡しておいたのです』
『ありがとうラビット』
『シンゴはどうだラビット、見えるか』
『ええ、怪我は無いようですが少し疲れているようです、
ここからはかなり離れているので、
ここまでの道のりを作っておきます。
しかし大統領が手を回すと思いますので、
ここでシンゴさんの帰りを待つのは危険だと思います。』
『くそっ・・・・シンゴが無事で出てくるのを信じよう。』
『僕が作った道のりをそのまま素直に来たら大丈夫です』
『そ、そうか、じゃぁ置手紙して俺たちはスタジアムへ急ごう。』
ロキ、神楽、カノン、ラビットの長い移動が始まった。
夕日が彼らを照らし、夜が来ることを知らせている。
夜の移動は危険なので、隠れられる場所を3人と1つは探すのだった。
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『あー・・・ボード持たなくていいから練習はかどるー!』
『ふふ、睦月ったら解放感抜群だね』
『ちょっと待って!はかどるってさ、お墓系アイドルっぽくない?
お墓に詳しいアイドルで、夏は怖い番組総なめみたいな?』
『お墓のアイドルで ハカドルっすか?スゲーっすね、ははは』
『お墓系って、おバカ系みたいでなんだかなぁで申し訳ございません。』
『うおーい!綺麗な夜空じゃ、今日は外で食うか?
ほれほれ・・・どうじゃ!』
虎徹がバーベキューを作って持って来た。
『うわー!おいしそう!』『うん!』『絶対旨いでしょ!』
串刺しのバーベキューに4人で食いつきながらライヴの話を始めた。
『音合わせも良い感じだし、あまり引き延ばしてると
生存者が居なくなっちゃうから、明日にでも作戦を開始したいと思うの』
『いあ、睦月、だったら明日は入念に準備して明後日だよ』
『パイロンの言う通りじゃな、武器、食料、水、スピーカーやらなにやら、
そっちの準備に明日を使ったほうがええ、集まってからのトラブルは
死へ直結じゃと思うが、どうだ如月』
『そっか、皆がそう言うならそれが正しいんだと思う、
私たちはチームだからね、話し合って決めなくちゃだから』
『そうっすね、まぁ何が起こるかなんて考えていたら
何もできないっすけど、最低限の準備はしないとって思うっす。』
『よし、じゃぁ明日はゆっくり確実に準備しよう!』
『ねぇ睦月・・・あのヘッドレストのBOX、光ってない?』
『あ、神楽さんかも』
如月は小走りで壁からせり出たBOXに向かい、
ヘッドレストを付けて通話ボタンを押した。
『はい、こちらスースーミントです』
『あ!よかったスースーミントちゃん!
訳があって音声だけでよろしくて?明日、そっちに向かいます』
『え?来るって?何かあったんですか?』
『着いたら話しますけど、ゼウスを敵に回しましたの』
『ふふふ、神楽さんならそうすると思ってた』
『そ?ふふふ』
『仲間だね!待ってる!必ず来て!』
『わかりましたわよ、女王様』
駆け寄ってきたパイロンが如月に声をかける。
『なにかあった?』
『ううん、うれしいお知らせよ、仲間が増えるの』
『おお!来るんだね、嬉しくて申し訳ございません』
『あ!増えると言えば!増え~るワカメって商品あるじゃん、
あれって増えるんじゃなしに実際は・・・』
『いいから!ご飯食べよ、ね。』
『ほーい』
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神楽は締め切ったカーテンを少しあけて周囲を伺った。
感染者がうろついているのが見えた。
『街の人達は・・・・こんな恐怖を感じていたのですわね』
そう呟くと、そっとカーテンを閉めた。
『とんでもないことしたと思ってるよ、俺も・・・』
『上官、神楽さん、お二人のせいでは。。。知りませんけど』
八の字眉毛であわあわするカノンだが、言葉の最後に毒がある。
ザクザクザク・・・
カノンが絨毯の模様を興味もない癖に見つめながら
スティック状になったお菓子を連続で機械のように食べている。
『あの・・・カノン・・・私たちにもそのお菓子、
あったらもらえないかしら?』
『あ、色々ありますよ、食べますか?』
『いあ、喰うわ!』
ロキが笑いながらカノンに突っ込んだ。
『ほんとお前、自由だよな、マイペースっつーか・・・』
話をつづけながらカノンに渡されたものをチラリと見た。
『ってカップラーメンじゃねーか!どうやって喰うんだよ!』
『あ、お嫌いですか』
『そうじゃねーよ!お湯ーっ!』
『お2人とも、余計な体力は使わないようにしてください、
明日、スタジアムへ行くのをお忘れではありませんよね。』
もっともで、冷静で冷たく刺すようなツッコミが入ったところで、
3人のおかしな会話はぴたりと止まった。
逃げ込んだ家は特に損傷がない家で、見た目は頑丈。
オシャレな庭も今はめちゃくちゃだが、門がある家なので、
その距離感がとても周囲の状況を伺うのに適しており、
まさかの時にも感染者がここにたどり着くまでの
その距離があるのは有利だった。
破損はしていないので施錠も出来、見つからない限りは
隠れ家としては十分機能する場所だ。
『じゃぁ俺が見張るから・・・』
『いえ、見張りは僕がします、寝なくても問題ないので』
ロキの申し出に割り込んでラビットが発言する。
『もっともだけど、頭しかねぇ奴に・・・その・・・悪ぃな』
『お気になさらず』
『じゃぁこれで』
そう言うとカノンは花瓶を立ててその上にラビットの頭を乗せた。
『いやデリカシー!!!!』
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