第43話 再起動

ベベベン!


ダダダン・・・ダン・・・


『いい?じゃぁ練習始めるよ』

オキシダイズとしての練習が始まったスタジアム。

まずは如月が三味線のパートではないが、一連のリズムを聞かせる。

日陰に座って休む虎徹の足も小刻みに動き、ノッていた。

先日倒れた虎徹だが、どうやら本当に疲労だったらしく、

体調は良くなったが、大事を取って休養することにしていた。


『てゆーのが全体の曲調、じゃぁこれにパイロンが合わせて、

スネア叩いてみよっか、雰囲気で良いと思うからさ。』


『うん、ではでは叩き始めて申し訳ございません』


リードする三味線のメロディーにパイロンのスネアドラムが

小気味よくテンポを刻んでゆく。

『凄いっすね!2人で合わせることなく勝手に奏でてるっスよ』


『気持ちいいじゃんパイロンのドラム!じゃ歌入れるね!』


『いくよ、ワンツースリーフォー!』


Fly me to the moon

Let me play among the stars

Let me see what spring is like

On a-Jupiter and Mars

In other words, hold my hand

In other words, baby, kiss me


Fill my heart with song

And let me sing for ever more

You are all I long for

All I worship and adore

In other words, please be true

In other words, I love you


『ここパイロン少しドラム叩いて』


『はい』


Fill my heart with song

Let me sing for ever more

You are all I long for

All I worship and adore

In other words, please be true

In other words, in other words

I love you


『如月さんめっちゃ上手いっす!いい声っすねぇ~

裏声使わない高音域、少しハスキーなのに心地いい』


『そ?えへへ』


『パイロンのドラムソロ良かったよ、あれでいいと思う』


『ありがと、カッコいい曲だよね大好き』


『私も好きっす!これ良いっすね!でもどこでデスボ?』


『そこは臨機応変でいいよ、タイミングとか見てたら死んじゃうし』


『そうっすよね!わかったっす!歌詞教えてください、

ラップっぽくいきたんで!』


『後で紙に書いてあげるね、んじゃもう一回いこっか!』


『ハイ!』



---------------------------------


はぁはぁはぁ。。。。


『クソが・・・弱いくせに人数だけは多いな、

ショボいヤンキーみてぇだな・・・もっと練習と鍛錬が必要だぜ』

既に数えきれない警備兵を叩きのめしてきたロキ、

いくら相手が弱いとはいえ、流石に息が上がってきたようだ。

ドン!バリバリバリ!

『ぐわっ!この野郎が!』

スタンロッドの衝撃を受けたにもかかわらず、

相手の顔面にド根性でパンチをぶっ放す。

他の兵が後ずさりする・・・『なんでスタンが効かねぇんだ・・・』

『お前らとは身体の作りが違うんだよ!マッスルがなぁ!』

その場に居る4名の警備兵がそれぞれ一発で沈められた。


『やべ・・・流石にこう何発も電気ショック浴びてたら

朦朧としてきやがったぜ・・・』


フラっと倒れそうになったとき、誰がか支えてくれた。

『んぁ?』

『ロキ!何やったんだよパニックじゃねぇかよ』

『シンゴ!神楽も!無事だったか』

『お前が無事じゃねーじゃねーかよ、話は後だ、逃げるぞ』

『こっち!こっちですわよ!』


しょっちゅう基地を抜け出しては買い物に出かけていた神楽は、

迷路のような地下通路を熟知していた。

『行くんでしょ?スタジアム』

走りながら神楽がロキに問う。


『あぁ、あそこには・・・なんつーか・・・生きる希望がある。

このおっさんが女子高生を頼っていくみてぇでかっこ悪いけどよ、

アイツら見たら昔を思い出しちまってな』


『俺もだよロキ、もう一度ヒーローになりてぇって思ったよ』


『なれるさシンゴ、やろうぜ』


『ほら走って!友情ごっこは抜けてからよ』


『なんだよ反逆者になったら俺はもうタメか?』


『お前のせいだろ!』『あんたのせいでしょ!』


『す・・・すまん』


3人は薄暗い直線の通路を走った。

非常サイレンが反響し、まるで音に追われているようだった。

侵入経路がバレたらしく、防衛扉が閉まり始める。

ズズズズズ・・・


『走って!早く!』


『く・・・ぐわっ・・・』

悶絶しながらシンゴに引っ張られて走るロキ。

しかし肉体的に持たないと判断した。

『もう無理だ、このままじゃ3人とも捕まる!俺を置いて逃げろ!』


『いいから走れ!』

シンゴの太い眉毛が吊り上がり、ギロリと睨んだ目は見捨てる気なんか

サラサラないと語っているのがわかった。


『まて!止まれ!』

後ろから警備兵が数人追ってきた。

『走ってはやく!はやく!』

止まることなく下りてくる扉、もはや絶体絶命!


シンゴが神楽の背中に蹴りを入れて突き飛ばした!

『イッタァアアアイ!!!!』

ズザザーーーーー!すっとんだ神楽は防衛扉の向こう側に。

『うおおおおおりゃぁあああああ!!!』

ロキの左腕を掴んで力の限り前に放り投げたシンゴ!

トトトトッ・・・ザザーーーーーーーーーー!

歌舞伎の『見得を切る』ように何度か片足で飛び跳ね、

勢い余って転倒するロキ。

しかしそこは防衛扉の向こう。


『ロキ!神楽!後で合流するから行け!今は行け!』


『シンゴお前』『シンゴくん!』


『いいから行け!黙って俺をヒーローにさせろ!』


少し考えたものの、これが最善としか思えなかったロキ。

『ゴーゴンスタジアムだ!必ず来い!命令だぞ!』


『ちっ!いつまでも上官面すんなって』


防衛扉は完全に下り、ロキ、神楽、そしてシンゴを分断。

ロキと神楽は地上目指して先を急いだ。


『ずっとデスクワークさせられてイライラが溜まってたんだ、

加減とかわかんねーからな今のシンゴさんはよぉ!』


シンゴは次々に追ってくる警備兵をなぎ倒していった。

5人、10人とその剛腕と蹴りでぶっ倒してゆくシンゴは

まさに鬼神だった。


---------------------------------


ガガッガガッガガ・・・・・・ガーーーーー


監視ROOMの扉をレーザーチェーンソーが切り始めた。

レーザーの刃が内側に飛び出し、熱せられてドロドロになった金属が

床に飛び散り、パン!と音を立てて部屋を飛び回る。


『いいですか皆さん、入ってきたら私が話します、

あなた達は両手を上げて降伏の姿勢を取ってください』

ラビットがそう4人に伝えると3歩ほどドアに向かって歩いた。


壁の内側に沿って四角く切り取られ、縁が真っ赤になったドアが

勢いよく倒され、数人の警備が銃を構えて入ってくる。

その銃はMP-5KZのゼウス版。

ドイツのヘッケラー&コッホ社設計による短機関銃の基本型であり、

その機動性と精度の高さからゼウスが警備用の銃として採用。

更なる改良を加えたのがこの銃である。

当然ながら真正面にいるラビットに銃口が向けられたが、

降伏の姿勢を見せる4人にも銃口が向けられた。

ラビットは『僕が逃がしてここを封鎖したのです、その4人は

関係ありません』と答えた。

その答えと同時にラビットに向けて一発の弾丸が発射され、

ラビットが倒れる。

『お前らもこうなる!大統領より反逆者に手を貸したものも

容赦なく銃殺してよいと言われている、悪く思うな、お前ら全員

手を貸したとしか思えない』警備班のリーダーらしき男が言い放った。


『構え!・・・ぬ!何をする!離せ!』


リーダーらしき男の足にラビットがしがみつく。

『お願いです、その人たちは関係ないんです』

リーダーらしき男は必死に銃殺を止めようとするラビットに銃を向け、

3発の弾丸を発射した、タタタン!と乾いた音が響き、

ラビットの動きが止まった。


『構え!』


『お願いします!この人達は関係ないんです!』

またもやラビットがしがみつき発砲の邪魔をした。

リーダーらしき男が今度はラビットの身体が破壊されるまで

銃弾を撃ち込んだ・・・カシンカシン・・・

銃弾が空になると、リーダーらしき男は『ここは終わりだ、行くぞ』

と言い放ち、撤退させた。


『今のうちに俺、逃げるわ!』『お・・・俺も!』『私も』

4人のうち3人が隙を見て逃げ出して行った。

1人残った女性カノンが涙目でラビットに近づいた。

カノンはチャスカと言う国からの留学生で、在学中の成績を認められ、

ゼウス特務機関に見習いからではあるが入社した女性。

ヴィクトリア・カノンが本名、初対面では必ず『どっちが名前?』

と聞かれるのだが、彼女の苗字はヴィクトリア。

絵画が好きで、将来的には自分の絵が世界のどこかで

幸せを与えられるようになりたいと、日夜勉強している。

黒髪のゆるふわなウェーブを後頭部で束ねた、いわゆるポニーテールが

良く似合う現在20歳の正義感が強い頑張り屋さんなのだ。


『ラビットさん!ラビットさん!』


カノンが胴体がめちゃくちゃに破壊され、漫画のようにバチバチと

ショートしたラビットに声をかける。

『あ・・・カ・・ノンさん・・・ニゲなくては・・ダメで・・・すよ』


『私、とても恥ずかしかったんです、自分は関係ない、

降伏の姿勢でいれば助かるって思ってましたから・・・・

ごめんなさいラビットさん、機械のあなたが人間を守って、

人間が逃げるなんて・・・酷いですよね・・・』


『いえ、僕は・・・・

ニ・・・ニンゲ・・・ンに造ってもらったの・・・で、

言えるるるる・・・立場では・・・あ・・・りま・・・・・せん』


『ラビットさんシンゴさんから連絡来たらやることあるんですよね、

どうしよう・・・えっと・・・・』


カノンは考えた、自分が学んだこと、ここでの経験をフル回転させた。

キョロキョロするたびにボリュームのあるポニーテールが

弾むようにポンポン揺れる。

その姿を見てラビットは少し微笑んだ。

『よし!ラビットさん、ごめん、痛みは感じませんよね、

頭もぎ取りますね・・・・』

ここだけ聞いたら警察を呼ばれそうな発言だが、

ラビットには全てが分かっていたので『はい』と答える。


ペタンと座り込んで、寝ているラビットの両肩に両足をかけて、

首の接続部分を両手でガッチリ掴み、のけぞりながら引っ張った。

『うぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいい』


ガキン!


『おうふっ!!!!!!!』


引っこ抜いた頭が勢いで自分のお腹にめり込んだカノンは暫く悶絶した。

泣きながらラビットの頭をスイカでも買って来たかのように運び、

監視ROOMのメインコンピュータへと向かう。

機能を停止させたらバレてしまうので、

現状を維持したままラビットに繋ごうと言う手段のようだ。

『んと・・・・このデバイスと・・・と・・・

で。。。。ここで・・・』


カノンはラビットの再起動を試みた。

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