赤い疑惑

嬌乃湾子

紅い疑惑

俺の名はRAIJI。本名は来山荘二(くるやまそうじ)だが、本名があまりにもダサいので名前の端っこを取ってRAIJIと名乗っている。



ある日、俺はバイトの休憩中、同じドラッグストアに勤めている男、昔同じバンド仲間でドラムをやっていたGOO(本名剛川覚)に声をかけられた。



「おいライジ。お前昨日仕事が終わってからどこに行ってた?」



GOOはかなり深刻な顔をしている。俺は気怠そうに缶コーヒーを飲みながら昨夜の事を思い出し言った。



「昨日か?昨日は同僚の仲島ちゃんに頼まれてそこの近くにあるバー「ジュリァンクリムゾン」に行ったけど」



そう言った途端俺はGOOに思いっきり殴られた後歯がいじめにされた。



「お、お前、俺の麻耶と、浮気したのか!!??」



「ちょ待てよ!仲島ちゃんと?俺は浮気なんかしていない!」



「嘘つけ!彼女、今日出社した時見慣れないブレスレットを付けていたぞ!何気に昨夜何をしていたか聞いたらお前と同じ店に行っていたと言っていた!」



問い詰めるGOOの腕を振り払い俺は必死で抵抗をした!



「そもそも、あの店に行って一人で少し飲んだけどあの娘とも誰とも会食をしていないぞ!!」



か、悲しい。俺は心の中でむせび泣いた。それでもこいつは信じない。



「だったら証明しろ!!!お前が何もやっていないって事を!!!」



GOOはかなり興奮していた。こうなったら、俺の身の潔白を証明しなければ職場環境がギクシャクする!



「だったら彼女に聞いてみたらいいだろ。そのブレスレットはどうしたんだって」



「そんな事聞けるわけが無いだろ。俺が嫉妬深いみたいに見えるし」



実際そうだろ。

彼女は職場ではいかにも「ドラッグストアの鏡」みたいな娘でどんなに店が忙しくても頑張る健気で清楚な女子である。そんな娘に良く言えば実直、悪く言えばガサツなこいつが付き合ってると聞いた時は正直耳を疑った。



「俺は昨日、仕事から職場を出た時は19時。彼女は俺に、今度女子会であの店使いたいから雰囲気とか知りたいので行ってみて欲しいと言われた。彼女は仕事が遅くなるから遅れて来ると。一応予約はしたので入ったら店のカウンターにいるオーナーに聞いてと言われてあの店に行った。そしたらオーナーから一番奥の席で待って欲しいと言われた。しかし彼女は来なかった」


「何?嘘つけ!」


「本当だ。三十分待った後電話が来て、急用が出来たから来れないって。そもそも会わなかったのにブレスレットなんてやれる訳ないだろ」



「じゃあ他に誰だっていうんだ」



GOOは意気消沈したように黙った。その時、



「あたし、見たよ」



同僚の杉香恋(すぎ かれん)が話に割って入って来た。彼女は職場で有名なおしゃべり女だった。



「仲島さんのブレスレット、近くで見たらチャームのネームプレートが付いていて名前書いてあったわ」



「なん‥‥だと。何と書いてあった?」



「なんだっけな。「ROI」だっけな」



「だから俺じゃねぇって言っただろ!!」



「だからさ、他に男居なかった?周り見てなかったの?」



その時、俺の直観ははっとして、GOOに言った。



「仲島さんは自分の彼氏であるお前を誘わなかった。それは何故か?


お前には知られたくない事があった。そして彼女は俺を店に来させて、用事と偽り来なかった


いや、本当は俺に会う気は無かったんだ。何故だと思う?それは他の誰かに会うつもりだったから


そうだ。実は彼女はあのブレスレットの持ち主に会っていたんだ!!」





「ええ、彼の名はロイですよ」



仕事を終えたあと、俺とGOOはバー「ジュリァンクリムゾン」に出向いた。静かで落ち着いた店内。人の良さそうなオーナーは静かにそう言った。



「思い出したんだ。俺が案内された席に近くに居たのは」



そう言って俺が指さしたのは、バーの窓際にひっそりと座っている猫だった。



「俺は20時に店に来た。仲島ちゃんは前もってオーナーに伝えて俺にこの猫の近くの席に座らせた。暫く俺にこの場所を確保させて、自分が店に入る前に俺を帰らせたんだ」



「お前‥‥悲しいな」



GOOは哀れみの目で俺を見つめた。その時、



「あっ」



店の中に仲島麻耶が現れた。



「うんうんうんそうそう、あの辺にいたねこちゃんがかわいっくってぇ、調べたらこの店の猫だって知ってどーーーしても他の娘に触らせたく無かったからつい来山君に見張って欲しくて頼んじゃった。でも仕事終わらなくってぇ、電話で行けないって言ったけどやっぱり会いたくなって店に行ったの。それでついロイ君の首に付いてたの貰って来ちゃって。でも朝になって悪いなと思ったから返しに来たんだ」



仲島麻耶は胸の開いた大胆な服に着替えて昼間のドラッグストアの時とは別人のように魅惑的な光を放っていた。



「何だ、そんな事なら俺に言ってくれればいいのに」



「そんな事で剛くん呼び出したりしたら悪いと思って。本当にゴメンねぇ」



じゃあ俺は何なんだ。俺は猫番か。

その後こいつらは飲みながらコロナも気にせずイチャイチャした挙句、へべれけになったGOOを俺が連れて帰った。




俺とGOOが店を出た後、仲島麻耶はブレスレットに付いた「ロイ」のネームプレートだけを取り外し、バーカウンターで寝そべっている猫の近くに座った。


撫でながら首輪にぶら下がっていた指輪を手にし、ネームプレートを首輪に戻すとニヤッと微笑む。




彼女は誰にも気づかれずに、バーカウンターのロイの先にいる男に熱い眼差しを向けた。



終わり




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