第14話 子供たちの行方
「朱伎様。」
執務室の窓からラキがやって来た。
ラキは鷹の姿のまま朱伎の前に降り立つ。
「ああ。どうした。」
朱伎はラキを見つめる。
何かあったのだとすぐに気付いた。そして何が起こっているのか大体の予想はできていた。
「あの2人が神麓山に入りました。」
ラキは静かに答えた。
「やっぱり行ったか。」
朱伎はため息をついた。
ラキの言う2人が誰の事かはすぐに気付いた。伯と旭陽だ。ラキを2人の監視に付けていた。
「なぜあの子たちが神麓山に?」
亜稀が朱伎に問いかける。
「まぁ。理由はどうあれ連れ戻しに行かないとな。」
朱伎は静かにため息をついた。
彼らが神麓山に行った理由は分かりきっていた。だが彼らだけでは対処できないことも知っていた。連れ戻しに行かなくてはならない。
里の人間は神麓山に近づかないようにしているが、今の伯の状況では、そんなことには構っていられないのだろう。
「誰が神麓山に入ったのです?」
崋山が不思議そうに首を傾げる。
他の人間は、2人の行動を知らないから不思議に思うのも当然だった。
「伯と旭陽だよ。」
「は?弟が?」
朱伎の言葉に棗が驚いたように言った。
「どうして?」
多岐が首を傾げた。
「まぁ。分かりやすく言えば、伯は力を欲している。という所かな。」
朱伎は簡単に説明した。
「ああ。」
「そうですか。」
「なるほど。」
「だからって神麓山に行くか?」
朱伎の説明に全員が頷いた。
今回の発端となった事件にすぐに結びついた。
自分の無力さを嘆くことも容易に想像できる。だが彼らは子供であり、護られる対象であることも事実だ。
そんなことを気にする必要はないのだ。
子供の考えることは理解できるが、それでもそんな理由で神麓山に行くのか考える。
《神麓山には強い神獣がいて、神獣の力を得ることができれば誰よりも強くなれる。》こんな言い伝えがある。
黒い歴史の中に埋もれた真実でもある。実際に神獣の力を得ることができるのは事実だ。初代頭首のように。
里の人間が真実を知っているわけではないが、神獣というのは強い力を持つ。それは知られている。
そして神獣の力を得ることができるのではないかと考えられている。
永い年月、頭首はそのことに何も触れていない。肯定も否定もしてこなかった。だからこそ真実味が出ているのかもしれない。
頭首たちは真実を知っているが、何も言わずにこの時代まで来た。永い年月をかけて真実に近づいているのかもしれない。
「ご頭首。どうします?」
八白は落ち着いて尋ねた。
「とりあえず、連れ戻しに行こう。ついでに神獣を開放してくるよ。」
朱伎はにっこり微笑んだ。
どこか楽しそうでもあった。彼の開放を決めた以上、早く行く方がいい。
「何の準備もなしに行くのですか?」
崋山が厳しい表情で言った。
神獣を開放するための準備をしてから行くべきだと言っている。その表情に心配が伺える。
「ん。ああ。準備は必要ないだろう。私が行けばそれでいいはずだ。」
朱伎はにっこり微笑んだ。
そんなもの必要ないと笑い飛ばす。いつものように大胆に恐れず突き進む。
「朱伎様。本気で仰っていますか?神獣が解放を望んでいなくてもですか?」
崋山はまっすぐに朱伎を見つめる。
彼女が自分の意見を曲げないことは知っているが、それでも四聖人の長として言うべきことは言わなければならない。頭首が自ら危険に入ろうとしているのを止めるのは四聖人の役目だ。
それでも彼女は止まらないだろう。
「反対を聞く気はない。これは命令だ。」
朱伎は最後の手段を使った。
まっすぐに崋山を見つめる。命令としての言葉に四聖人は逆らうことはできない。自分の命令がどれだけの力を持つのか本人も知っている。
だから朱伎は滅多に「命令」をしない。余程のことがない限り使わない。
最後の手段としての言葉だった。使う必要がある時にしか使わない。
四聖人の反対を押しのける時に使うのだった。
「御意。」
四聖人全員が朱伎に頭を下げる。
それほど朱伎の言葉には力があるのだ。
「八白。棗。行くぞ。」
朱伎は静かに立ち上がった。
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