第5話 子供たちの未来

「朱伎様。皆様お揃いです。」

バルコニーの扉が開き女性が声をかけた。


「頭首様。失礼します。亜稀様。こんにちは。」

旭陽は朱伎に一礼して、亜稀に挨拶をしてその場を離れた。


「あら。旭陽。こんにちは。」

亜稀はにっこり微笑んだ。


2人の傍まで歩いてきた。一瞬、旭陽がこの場所にいることに驚いたが、朱伎が黙認しているので問題はないと判断した。


「旭陽。気をつけろよ?」

朱伎は静かに微笑んだ。

その表情はとても複雑そうだった。色んな想いが入り混じったような表情だった。


「はい。」

旭陽は大丈夫だと頷いた。


この時の旭陽には頭首の表情と言葉の真意を理解できなかったが、その表情はなぜか忘れられなかった。そして少し経ってから分かることになる。


「朱伎様。なぜ旭陽がここに居たのです?」

亜稀は旭陽を見送ってから静かに問いかけた。


2人は並んで旭陽が出ていった方向を見つめる。朱伎の方が少し身長が高いので亜稀は見上げる形になる。


「ん。さっきまで伯もいたが、それはあの子たちの問題ではなく、こちらの警備の問題だろう。あの子たちが入れたからな。」

朱伎は悪びれることなく楽しそうに笑った。


あの子たちは何も悪くない。むしろ、この場所に入ってこれたことを褒めるべきだ。問題なのはこの塔の警備に穴があるということだ。


「…。確認させます。」

亜稀は静かに頷いた。


「それはいいが、亜稀。暫くあの2人から目を離すな。近いうちに必ず何かやらかすだろうからな。」

朱伎は静かに微笑んだ。


あの2人が何か行動を起こすことを朱伎は確信していた。それが良い事かどうかの判断は今はできない。


「何かというのは具体的には?」

亜稀は問いかける。


頭首の言い回しから、子供たちが何をするつもりなのか気付いていると感じていた。知っているのなら教えてほしい。


「まぁ。そのうち分かるだろう。伯は昔の私によく似ているからな。確実に何かやるぞ。」

朱伎は明るく笑った。


あの少年は、昔の自分によく似ている。だから彼のやることについては予想できた。恐らく、昔の自分が同じ状況に置かれたならやることをやるだろう。

だからこそ手を打つ必要がある。気付かれないように根回しするのが大人の役目だ。本来なら危険があると分かっているなら止めるべきことだが、自分たちでやらせることに意味があると朱伎は考えていた。

だが、子供たちを護ることも大人の役目だ。


「それは困りましたね。監視はつけましょう。」

 亜稀は静かに苦笑した。


それ以上のことは聞かずに、そつなく仕事をこなす。朱伎の手となり足となり里の政を取り仕切る。朱伎が頭首として優先すべきことをさせるために亜稀は細部にまで気を配る。その仕事量は気が遠くなるほどの量だが、亜稀は完璧にこなしている。


「ありがとう。」

朱伎はにっこり微笑んだ。


「というか、似ているのは昔の朱伎様ですか?今は何も無茶はしないという意味ですか?」

亜稀はにっこり微笑んだ。


その表情には少しの嫌味とたっぷりの愛情が入っていた。頭首が無茶ばかりするのは今に始まったことではない。昔から本当に無茶ばかりしてきた。

彼女の無茶をフォローすることが自分の仕事でもあった。大変だったが楽しかったのも事実だ。このことは本人には言っていない。言えば喜ぶからだ。


「亜稀。それは嫌味か?まぁ。いいや。今ならお前の苦労も分かるよ。本当に亜稀には感謝してるよ。」

朱伎はにっこり微笑んだ。


いつも自分の我が儘を嫌な顔一つせず、聞いてフォローしていてくれたことに心から感謝している。どれほど自分のフォローが大変だったのか、今なら分かる。本当にすごい女性だと頭が上がらない。


「それでは、今後は無茶はしないで頂けますか。」

「努力するよ。」

2人は穏やかに微笑んだ。


お互いにそれが不可能なことだと分かっている。これからも変わらず無茶をするだろうと心の中で思っていた。


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