第6話  最高官吏会議

「よく集まってくれた。」

朱伎は落ち着いた声で言った。


頭首らしい威厳を備えた表情だ。今の朱伎には誰にも隙を一切見せることのない雰囲気、近寄れない空気をまとっていた。


朱伎たちがいるのは《扇央の塔》4階の一番奥に位置する会議室。この部屋の存在を知る者は少なく、部屋へは特別な方法でしか入れない。

部屋には最高官吏会議のために集まった者たちがいる。

朱伎を筆頭に、現在の四聖人四人。先代頭首に仕えていた前任の四聖人四人。里の代表一族の長老四人。そして朱伎の祖父、五代目頭首。朱伎の後ろに立つ亜稀を入れて15名がいる。


それなりの広さのある部屋の中央に楕円形の濃い茶色のテーブルがあり、テーブルの色に合わせた木が濃い茶色に座面のクッションが明るい黄緑色の椅子が配置されている。

テーブルの上には里の地図が広げられ、人数分のお茶が用意されている。

この部屋にはテーブルと椅子以外、余計なモノは一切ない。この会議では何も必要なかった。


朱伎は窓側の皆の顔が見える上座に祖父の五代目頭首と並んで座る。

朱伎の左手側に現在の四聖人。五代目頭首側に四聖人の前任者。そして頭首から一番離れた場所に長老たちが座る。


「お茶の時間だったが大至急と言われれば仕方あるまい。」

朱伎と同じ瞳の色の初老の男性が言った。


この者こそが朱伎の祖父であり、森羅の里・五代目頭首・朱李しゅりだ。品のある身なりの良い初老の男性だ。髪は白髪が多くなったが、かつては朱伎と同じ漆黒に近い黒色だった。瞳の色は朱色だ。


今は現役を退いているが、他国にも恐れられるほどの頭首だった。その名は遠い異国の地にも轟いていた。そのおかげで里は安泰でもあった。今も朱李の名は大きな影響力を持つほど彼の功績は計り知れない。


「それでまた最高官吏会議に我ら長老まで招集されるとは、どんな事態なのですかな。」

年老いた老人が静かな声で尋ねた。


髪と髭は白く明るい青色だ。名は一茉いちまつ

最高齢の長老であり、里のことを知り尽くしていると言っていい。良い事も悪いことも全て知っている。里の裏側の表に出ることのない黒い歴史さえも知っているからこそ、朱伎は彼を呼んだ。

顔は髭で覆われていてほとんど見えないが、瞳はしっかりと前を見ている。


「最近、里の外で起こった事件のことだ。」

朱伎は静かな声で言った。


この事態を収めるために会議だ。そして彼らに伝えなくてはならないことがあり彼らの協力を得なければならない事態であることを知ってほしい。


「順国の者が狙われたと報告を受けたが?」

長老の一人、伊那いなが言った。

白い髪に茶色の瞳の老人だ。長老の中では若いが痩せているため老けて見える。


「違います。」

亜稀が静かな声で答えた。


「なぜ隠した?」

四聖人の前任者の一人、たつが厳しい瞳を向ける。

金色の髪に青色の瞳の男性だ。大河より少し年上の冷たい表情の男性だ。

まっすぐに朱伎を見つめる瞳は問い詰めるかのような厳しい瞳だった。


「その必要があった。としか言えない。里の不安を煽ることは避けたかった。何の確証もないうちは、それで通すしかないだろう。」

朱伎はまっすぐ辰を見つめる。

彼が頭首としての自分を不満に思っていることは知っているが理由も分かっているから無下にはできない。彼には彼の言い分がある。


だが事実を隠したわけではない。里の人間に不安と恐怖を与えたくなかった。恐怖に駆られると人間は思ってもみない行動を起こすことがある。だから隠した。

確信を得て事態の収拾の目処が立てば公表する。


「それで?」

一茉は静かに問いかける。


「確信に変わったよ。私の保護下において三件、起こった。この事態を見過ごすわけにはいだろう。」

朱伎はしっかりとした口調で言った。


自分の保護下で起こっている事態を見過ごすわけにはいかない。何の関係もないと言い切れない事態であることも事実だ。


「皆、無事か?」

朱李は心配そうな表情で尋ねた。


里の人間の安否を何より気にかける。今も変わらず里のことを気にかける。

かつて前線に立ち、己の命を懸けて里を護っていた頃とその想いは変わらない。

現役を退いた今もなお命を懸けて里を護るのが森羅の里・頭首の一族に生まれた者の宿命だと朱李は思う。身体に流れる血がそうさせる。

心より体と魂が先に本能で身体を動かしているような感覚だ。


「はい。負傷者はいますが、皆、生きています。」

崋山が答えた。

朱李はその答えに安心したように微笑んだ。







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