ステラ小国には、小国ながら王都の他、十二の領土に分かれている。

 もちろん領土といっても小国の為、広大ではないが現在の王の差配によってどこもほぼ、同じような大きさとなっている。

 王都を中心に取り囲むように放射線状に十二に領土を分けそれぞれ十二伯として置いているのだ。

 決めごとは王都内の王を始めとし、十二伯を含めて十三名の多数決で決定となる。

 十二伯で均一になった場合ももちろん、十三番目となる王によって最終決定を行う。

 これによりステラ小国は統治体制を築いてきた。

 アルシャインのように貴族とはいえ小さな家々がさらに十二伯の周辺を、辺境伯とし治め、民達の声を十二伯に届ける役目を担っている。

 イリスを保護して数日。

 彼女は見違えるように元気を取り戻していった。

 ただ―――主人のことだけは、どうしても思い出しては俯いている。


歌姫カナリア商はまだ見つからないのか?」


 別室でルーナやエイラ、シェダールと勉強をするイリスを見て、そっとドアを閉じるなりアルシャインはギーに問い掛けた。

 まずはイリスが売られていた歌姫カナリア商人に話を聞こうと思いギーに依頼をしていたが、その進捗は芳しくない。

 ランクスの死後、あれほど流行していた歌姫カナリア熱は一気に冷めていった。

 捨てる者。

 売る者。

 殺す者。

 歌姫カナリア達はもちろんのこと、歌姫カナリア商達も次々と姿を消していった。

 表沙汰になっている人数が少ない所を見ると闇ルートで取引をされている可能性はあるがそちらの面については調査中であり尻尾の先さえも掴んでいない状態だろう。

 中には未だ自分達の元に留めている主人もいるが物の如く捨てる人々の方が後を絶たない。

 新聞の見出しには歌姫カナリア斬殺事件が日々書かれている。

 こんな情報は、イリスには見せることが出来ない。

 彼女はこの記事を見てどう思い、何を感じ、言葉を紡ぐだろう。


「どうやら、店を畳んで逃げたようです」

「そうか……。そこにいた歌姫カナリア達は?」

「丸ごと、消えております。なので、恐らくは彼も闇ルートで売りさばくこともやっているのではないかと」


 こちらが情報です、とギーはアルシャインにその歌姫カナリア商について書かれた調査書を手渡す。

 店のオーナーの名前はマルフィク・サビク・ラサルハグェ。

 身分としてはややアルシャインには劣るが男爵であり、そこの店主は彼の息のかかった者であるらしい。


「まるで、狡猾な蛇だな」

「左様で。それと―――坊ちゃま」


 次にギーが取り出して差し出したのは一通の封筒だった。


「これは?」

「サジタリウス領メディア・カウス・サジタリウス女伯様より、パーティーの招待状です。いかがなさいますか?」

「―――サジタリウス女伯か……。……正直な所、欠席したい。あの方はご自分の話はよくする反面、人の話をあまり聞いてくださらないからな……」

「美点といえば、思い立ったら即行動で明るく前向きな点でしょうな」


 こんな時にパーティーとは。

 一体何を考えているのか。

 溜息をつきつつ一先ずアルシャインは招待状を開く。


「坊ちゃま?」

「参加の返答を頼む」

「おや。ご欠席でなくてもよろしいので?」

「女伯自身からの招待状だ。無下に出来ない。リヴラ卿の追悼パーティーを行うとのことらしい」


 それに、追悼パーティーといえど、出席者はそれなりにいるだろう。

 リヴラ領の領主代行に頼まれたのかはたまた女伯の独断か。


「行って貴族らしく情報収集でもしてくるよ」

「ご成長なされましたな」


 元々、貴族という立場に興味がなかったというのに。

 ギーは思い返す。

 まだランクスもアルシャインも家の当主となる前のこと。

 学校で切磋琢磨し、時には大人を困らせたこともある悪ガキのことを。

 もちろんその二人だけではないが。


「イリスはどういたします?」

「屋敷に置いていてくれ。連れていくと面倒だ。今、歌姫カナリアの立場は悪い。何よりリヴラ卿の歌姫カナリアが僕と目立つ行動をすることは、迂闊に蛇の尻尾を踏む行為かもしれない」

「かしこまりました」


 それにサジタリウス女伯も、歌姫カナリアを従えていたはずだ。

 もしかすると先日手紙を送ったアンタレス女伯やレオン伯と並んで味方になり得るかもしれない。

 また、ジェミニの動向もはっきりと分かるだろう。

 恐らく声を掛けられるに違いない。


「とはいえ……行きたくないな……」

「貴族の義務ですので。坊ちゃま。はぁ……リヴラ卿の気分屋な悪い所が移ってしまったのは、悲しいものですな」

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