拒む者
放課後のいつもの教室では普段に増して熱気が籠っていた。
その熱源となっているのは二人。
そして、その様子を呆れたような目で見つめるものが二人。
教室にはちょうど、切り良く二人ずつ。バランスよく配置されていた。
「何がしたいんですかね、あの人!」
「ようやくわかってくれるやつがいたか!」
昨日、入学式の後、教頭先生と一戦交えたときのことを先生達に話しているうちに今に至るわけだが俺と琴音とのやり取りに関しては省かせてもらった。そこに関しては教頭と接触したことには別に関係ないから大丈夫だろう。
「見てる方はヒヤヒヤものなんだけど…」
「いや、あっちが先に仕掛けてきたんだからな」
子供の喧嘩のような言い分にまたもや呆れた眼差しを向けられたが。
いいもんね、俺には仲間がいるんだから。
「穂村君、それに須藤先生も…、その話はあとで二人だけの時間を使って存分に語り合ってください。今は部活動紹介の件について話を固めないといけないんですから」
そう言われて急に我に帰る。
何でおっさんと二人きりで悪口合戦するために、時間を使わないといけないんだ。
「まぁ、冗談は置いといてだな」
我に戻った須藤先生が何もなかったようにそう言う。
冗談って…、幾らか本気だったよな。
すっかり教頭のことを忘れた様子の俺たちにまたもや呆れた視線をよこしてため息を溢すと目頭をグリグリしながら相良先生が説明を始めた。
「伊織君から粗方の話は聞いたはずだけど確認のためにも、もう一度説明するわね」
黒板に板書して確認しながら、お互いの認識をすり合わせていく。
例年の部活動紹介の代わりに部活ツアーを計画していること。
ここまでは昨日の時点で聞いた話。そしてここからが初めて知る情報。
「そして穂村君と広川さんには、部活動紹介で一年生の先導をお願いしたいと思ってるんだけど…何か質問はある?」
今の時点だと情報が不足し過ぎて質問することもないな。
ひとまずここは琴音と顔をあわせて頷いておく。
「じゃあ、もう少し詳細に進めていくわね……」
相良先生の説明を聞いて、ざっくり内容をまとめると…だ。
・部活動の紹介は運動部と文化部に別れて行われる。
そして運動部の方を俺と琴音が先導すること。
・部活動によっては男女の括りがあるものに関しては
琴音と俺で別行動する場合もある。
・各部活動では、体験活動も同時並行で行うが
そちらには人数制限が設けられている。
「二人は運動部だったし。知り合いも多いんじゃないかって。
そういうことでこの配置なんだけど」
そこに補足説明のように須藤先生が付け足す。
「イメージとしては、部活の見学ツアーの方が妥当だけどな。
部活の体験ができる人数は決まってるから」
体験する人に関しては事前にクラスでくじ引きでもして決めるのだろう。
そうなると…。
「あの…、俺たちの仕事というか、手伝う内容は案内ってことでことでいいですか?」
「まぁ、そうなるんだが…、」
煮え切らない返事に不安しか覚える。
そこで、一息吐くと、切り替えるようにして続けられた。
「お前たちも知っての通り、こういうときにアクシデントは付き物だ」
知っての通り…ねぇ。
たしかに、部活動。運動といえば、怪我のリスクがついて回る。それはそうだが、部活の体験で怪我が起きる可能性は万が一くらいのものだ。きっと、各部活動もそこに関しては細心の注意を払って行うはずだから。
それにだ、もしかしたらの可能性を気にしていたら、部活動生はまともに練習なんてできない。
わざわざ、そのことについて言及してくるのも、
何らかの圧力が働いているように感じられてならないのだが…。
「一年生が怪我をしないように監視するのも私たちの役割ということですか」
「有り体に言えばそういうことだ」
全幅の信頼…と言えば聞こえはいいが
実際には丸投げに他ならない。
「大丈夫、私含め先生方も適宜、手伝いには入るから」
黒板の方では大人の落ち着き払う相良先生が目に映る。
「まぁ、それなら」
そう言うと相良先生が満足げに頷いたところで話がまとまった。
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