運命、必然

大見得切った須藤先生にあまり期待を持ち過ぎず、言葉を待っていると

まだ準備が出来てないと言われ今日は状況の確認だけにとどまった。

そもそも本当にそんなものがあるのかも不安なのだが。


じゃあ、お前には何か案があるのかと聞かれてしまうと弱い。

クモの糸にでもすがりたいほど心苦しいのが現実で

今のところ唯一の勝ち筋はそれしかないのだ。


階段を下りる足は自然と重くなる。同じく階段を下りていた音が段々と遅くなり、そしてついに止まった。


「須藤先生の言ってた解決策、本当にあるのかな?…あったとして、それを頼りにしていいのかな」


階段の途中で立ち止まった琴音がボソッと呟やいた言葉を耳が拾う。


須藤先生を信頼していない…というわけではないだろう。

もし、須藤先生にこの状況をひっくり返せる案があったとしても

それに従うだけで良いのか、そういうことが琴音は言いたいのだと思う。


実際、生徒会を中心で運営していくのは俺たち生徒であって

あくまでも先生達はそのサポート。


その認識を最初から持っておかないと人任せになってしまう気がする。


「今日のところで状況は理解できたから、明日以降で少しでも巻き返す。それでいいんじゃないか?」


自分にも言い聞かせるように話すと

少し間をおいて琴音も薄く微笑を浮かべた。


「うん、そうだよね…」


————————!!


琴音は部活に顔を出してくると、俺たちは玄関で別れた。


今から部活に参加しても、それほど時間は取れないように思うが

それでも参加しようとするのは、真面目というか、律儀というか。


学校の校門から出てくると門前には見事に誰もいなかった。

たまにはコンビニでも寄っていくかと思い、学校前のコンビニに向けたとき。


黒い帽子を目元まで深くかぶって、目元にはサングラス。最後の追い打ちと言わんばかりにマスクをした怪しい人物が目に付く。


—————何というか…、色々と怪しすぎてかえって安心してしまった自分がいる。


どうやら、その人物は学校に用事があるのか校門の辺りを

ウロウロとし始めたと思ったらまた、コンビニの方に歩いてく。


しかもコンビニに入るわけでもない。


周りからも訝しむような視線がチラチラ向けられているが当の本人は気にした素振りもない、というのがより一層と違和感を助長している。


見て見ぬふりをするのは簡単だが本当に不審者じゃない場合、

間違ってこのまま通報でもされたら夢見が悪い。

見て見ぬ振りは出来ないか…。


『行くとしますかね…』


俺が近づいていて来るのに、大してこちらに気づく様子はない。

それを見てやっぱり、不審者にしては色々と辻褄が合わない。そう思う。

常識的に考えて、悪いことをしようとしている人間は周りには敏感になるものだ。


何かを隠そうとする人間が

それを仄めかした内容に過敏に反応するように。


最終確認の意味も込めた様子見に見切りをつけてそのまま最後の一歩を踏み出した。


「あの、もしかしたらなんですけど………何かお困りですか?」


「………?」


その言葉に呆気にとられたように

何を言われているのかわからないといったような反応が返ってくる。


おそらく、自分の怪しい行動に気づいてないらしい。

そこで、もう一押しこちらから催促する。


「さっきから、校門前でウロウロされてたので校内に何か御用時でもあるのかと思ったんですけど」


「おおぉ、そうなんじゃ、そうなんじゃがなぁ……、」


しゃがれた声と何かを心配しているような声音は

どう解釈してもこれから悪いことを考えている人のものでは無い。

不審者の線は完全に切っていいだろう。


中途半端に言葉を途切れさせるとバツが悪そうに頭を掻いた。

そこで、ひとつの可能性に思いつく。


「もしかして、用事があるのは校内というよりも、うちの生徒の方ですかね?」


パッと顔を上げる反応を見る限り合っていたらしい。


『滅茶苦茶わかりやっすいなぁ…』


そこまで聞けば、この人が誰かはわからなくとも、学校の生徒の保護者であることは確かだろう。


もし生き別れた親子とかだったら、手に負えないが…。


「余計なお世話でなかったらですけど、

探している人の名前を聞けば手伝えると思いますよ」


「おぉぉ!!そうか!あぁ…いやでものぉ、あの子には気づかれたくはない…」


しばしの逡巡の後、決断したようではっきりと首を振ると。


「やっぱり、そこまでしてもらうわけにはいかん。

……そういえば、まだ兄ちゃんの名前を聞いておらんかったな

世話になったのに、相手の名前も知らんのじゃ話にならん」


「俺の名前ですか…?穂村雅哉ですけど」


「そうか、穂村君か。わざわざ、この老いぼれの

ために時間を使ってもらって悪かったのぉ」


そう言うと、変装のつもりだったのだろう怪しさ満点の装備一式を取り外して頭まで下げ出すから俺も焦って止める。


「俺は何もしてませんから…顔を上げてください」


顔を上げると、これまで隠されていた人の良さそうなお爺さんの顔が露になる。

その顔が、俺のことをジーっと見つめると、合点がいったように笑顔に変わった。


「雅哉君もここの生徒なんじゃな…」


今更かと思わないでもないが、あんな視界の悪い格好していたから気づかなかったのかもしれない。


「それなら、いつか孫と関わる機会があるかもしれんな」


いつもなら『全校生徒が何人いると思ってるんですか』とか

そんなことを言って誤魔化していたと思う。


だが不思議と、このお爺さんの言うお孫さんとは巡り会うような予感があった。


だから、素直に答えよう。


「そうかもしれませんね」


それはさておき、最後に一言だけ言っておかなければならない。


「あと、それ変装してるつもりだと思うんですけど、傍から見てたら不審者にしか見えないので今後、学校の前とかでその格好はやめておいた方が良いと思いますよ」


心底驚いた表情にやはりか…と、納得する。


孫にバレないように考えた末の変装だったのだろうが

正直、目立って仕方なかった。


明日、不審者情報が入ってたら、

それとなく学校側には誤解だと事情を伝えておこう。


「それじゃあ、失礼します」


「おぉ、ありがとうな、穂村君」


さっき、お礼は必要ないと言ったのだが、それでもやっぱりお礼をする姿に俺も頭を下げて家までの帰路に戻った。

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