強引な手引き
教室から出たとき、既に教室に残る生徒は俺だけ。
どこの学校でもそうだと思うが、最後の生徒は教室の鍵を返さないといけない。
普段は日直が最後まで残ったりすることが多いが、
今日は日直も決まってないため
自然と、学校に残る用事のない生徒は既に帰路に立っている。
『どうせ、今から職員室に行かないといけないから
教室の鍵は俺が返すことにはなるんだけどね…』
ちょうど、重い足を引きずって職員室に向かおうとしたとき
隣の一組から顔を出した人物に声を掛けられた。
「なんか随分とお疲れだね?」
「あぁ、琴音か」
「なんかあったの?」
「それがな…職員室に呼び出されて」
「……新学期早々なにやらかしたの?」
どうして二人とも同じ反応を返してくるんだろうか
「何もしてない」
「そうなの?まぁ…いいや、じゃあ先に行ってるから」
「了解」
そう言うと、ちょっとだけ早歩きで俺の前を通り過ぎていく。
琴音の背中が廊下の角を曲がって見えなくなる手前
俺が見ていたのにずっと気づいたのか、こちらに向き直ると。
「早くいかないと、相良先生に言いつけるよ」
「わかった。行くから、それだけはご勘弁を」
俺の必死な姿が面白かったのか
少しだけ可笑しそうに笑って手を振ると
すぐに琴音が踵を返すと姿は完全に見えなくなった。
「それじゃあ、俺も行きますか…」
尻つぼみになっていく言葉の割には俺の気持ちは幾分か軽くなっていた。
————————!!
随分と時間をかけて職員室前に着いた俺は
時間指定されていなかったことを良いことに
HRが終わってから15分ほど遅れてようやく職員室の扉をノックをした。
「二年二組の穂村雅哉です。相良先生に…って聞いてないな、あれ…」
職員室のドアを開けて軽く職員室の中を覗き込んだ俺が
見たのは相良先生の席で相良先生とガタイの良い先生が
口論を繰り広げている様子。
『…もう帰っていいかな』
そんな俺の心の声は実行される前に見つかってしまう。
「穂村!遅いぞ何してたんだ」
職員室の静かな空間の中。
特大の声量をもってこちらに呼びかけるガタイの良い先生。
その近くにいた先生が肩をビクッとさせて驚いているのが見える。
「わざわざそんな大声出さなくても聞こえるって…」
小さく呟きながら職員室に踏み入れる。
その場で頭を抱えている相良先生の様子から察するに
これが面倒ごとの正体で間違いないようだ。
————————!!
「すみません、よく理解できなかったんですけど」
俺にそう言わせたのは目の前のガタイの良い先生、もとい須藤先生。
この見た目だが体育の先生ではなく実は国語の教師。
そして本職はこっちなんじゃないかと
疑いたくなるくらい見た目にピッタリな野球部の顧問でもある。
「だ・か・ら、穂村は俺の推薦で生徒会役員に…」
「それは、さっき聞いたのでわかりました!
問題は、何で俺が生徒会役員に推薦されたのか!です」
「それはな…」
自信たっぷりな表情でそこまで言おうとした須藤先生だったが
蛇の一睨みによって黙らされると、代わりに相良先生が口を開いた。
「ごめんなさい、須藤先生はあとで絞めておくから、
今は気にしないで話がややこしくなるから」
須藤先生がおおよそ人に向ける目じゃない目を
相良先生に向けて表情を恐怖一色に染める。
相良先生の前ではおとなしくなるのか
何かあったときに使えそうだな、良いこと知った…。
その後、もう一睨み喰らって、すっかり静かになった須藤先生を放って
聞いた相良先生の説明を要約するとだ。
今年の生徒会は新体制に変えようということが提案されており
実際、かなり現実味を増しているらしい。
その先駆けとなるのが生徒会選挙を行わないことにある…。
俺もいま、話を聞いただけなのでいまいちイメージが出来ないが。
生徒会の発足メンバーは新体制の生徒会を
責任する先生二人と前生徒会から推薦という形で選ばれる。
そこから先は増やすも現状維持も推薦された発足メンバー次第。
生徒会への立候補者を新しく引き入れるか
生徒会役員自らスカウトしてこい!という感じらしい。
部活とはまた違うかもしれないが、
途中で出入りが出来るという点では似ているかもしれない。
「それで俺が推薦された件についてはまだ説明されてないんですが
それに、別にやるなんて一言も言ってないんですけど」
「うん?穂村は部活辞めて暇だろ」
だから当然だろ?みたいなニュアンスで生徒会に任命されてもな…
そんな理由で推薦されても全然嬉しくない。
「そういうわけだから、よろしくね穂村君。」
「…相良先生も諦めないでくださいよ」
相も変わらず自由な須藤先生と
その自由奔放さに珍しく四苦八苦している相良先生
そして、帰宅部になったと思ったら
生徒会役員の数に勝手に入れられていた不憫な俺。
このよくわからない組み合わせは思わぬところから
思わぬ人物を惹きつけてしまっていた。
「三人とも随分と楽しそうなことを話していますね、私も混ぜてください」
そう言って俺たちの会話に入ってきたのは
ラジオ体操に孫と一緒に参加していそうな優しそうな見た目のお爺さん。
つまりは、我が校の校長だった。
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