第13話 不良少女白書-最終話

 土曜日の午後、沢田は渚のアパートに立ち寄った。月曜以来、渚が休んでいたので、お見舞いに来たのだった。夏風邪と聞いていたのでプリンを買ってきた。

「本当はメロンがいいんだろうけどね」

とても小遣いでは買えないから、自分の好物のプリンにした。一緒に食べれたらいいな、と思いながら、扉をノックした。しかし、応答はなかった。寝てるのかなと思いしばらくノックを繰り返し、様子を伺ったが誰もいないようだった。

 「しかたないな」と、帰ろうとした時、階段をひとりのおばあさんが上がってきた。沢田はこの人に訊いて見ようと思い、声を掛けた。

「すいませぇん、片平さん、どうしているか知りませんか?」

「あぁ、なぎさちゃんの同級生かい。大変だね、あの子、入院したんだってね」

「えっ、何、それ?」

「確か、大けがして、目川病院に入院したんだろ。知らないのかい」


 沢田は挨拶もそこそこに駆け出していた。


 受付で聞いた病室に入ると、窓際のベッドに腰掛けている渚がいた。息せき切って近づいた沢田を見て、渚は驚いたような顔を見せた。

「どうしたの、ララ。よく、ここがわかったね」

それ以上に、沢田が驚いていた。渚は頭や腕に包帯を巻き、顔にも絆創膏を貼っていた。パジャマの襟から見える中にも包帯が巻いてある。それに、髪が、包帯の下の髪は短く丸刈りの状態だった。

「なぎさ…ちゃん、どうしたの、これ?」

「あぁ、これ?…まぁ、自業自得ってことかな」

「……リンチ?」

「ま、ね」

 包帯の巻いてない部分にも痣がたくさん浮いていた。沢田の目から涙が溢れ出てきた。

「誰?誰にやられたの?」

「いいのよ。誰だって」

「でも、こんなに……。髪まで切られたの?」

「それは、けがしてたから、ここで切ったの。治療の邪魔だし、……それに少し引っこ抜かれたから、みっともないし、ちょうどよかったの。短くしたかったし」

「ひどぉい……」

「でも、もうこれで終わりだから」

「えっ?」

「もう、二度と連中とはつきあわないってこと」

「そうなの?」

「そう」

 強く言い切った渚に沢田はほっとした。渚の母親が病室に入ってきて、沢田を見つけた。

「あらっ、お友達?わざわざすいませんね」

「お邪魔してます。あっそうだ、これ」

 沢田はプリンを差し出した。振り回して走ってきたから、中身が少し心配だった。

「あら、ありがとうございます。でも、学校には知らせてないのに、よくここがわかったわね」

「あの、アパートのおばあさんに聞いたんです」

「ああ、安部さんね。この子が、絶対に学校には言うなって言うから、風邪で休みますとだけ伝えたの。まったく、この子も何を考えてるんだか」

 渚は笑みを浮かべるだけで、何も言わなかった。

「何か食べます?お腹空いてるんじゃないの?」

「あぁ、そう言えば、アタシ、お昼まだだった」

「じゃあ、何か買ってきてあげるわ。待っててね」

沢田は会釈してお礼を言った。向き直ると渚に文句を言った。

「どうして、連絡してくれないのよ」

「だって、あたし起き上がれるようになったの昨日だもん」

「そんなにひどかったの?」

「……さぁ。よくわかんない」

「そんな、無責任な。入院したって聞いて、どんなに驚いたと思ってるの?」

「ごめんね、でも…もうすぐ夏休みだし、このまましばらく黙っておこうかと思ってたんだけど」

「そんな、アタシたち、親友じゃない。何でも言ってよ……」

半泣きになって怒るララに渚はゆっくりと話し出した。

「じゃあ、言うわ。ララ、ありがとう」

「ナニ?」

「ありがとう、あなたのおかげで、あたし、他人を信じれるようになったの。もう、学校が嫌で、誰も信じられなくなって、もういいやって思ってたけど、ララのおかげで、他人が信じられるようになったの。もう一度、自分を試してみようと思ったの」

「そんな、アタシ、バカでどうしようもない子で……」

「ありがとうね、ララ。だから、あたし、自分で自分の始末をつけることもできたの。あとは、お母さんに謝るだけ……。それから、ララにもお礼しなきゃあね」

「そんなの、いいよ。アタシ、何もしてないのに」

「んん、いいじゃない。あたしがしたいんだから」

「へへ、でも……、照れるナ」

 笑顔を見せる沢田に渚も笑ってみせた。すると激痛が走ってうずくまってしまった。

「大丈夫?」

「ん、大丈夫大丈夫」

渚は冷や汗をかきながら答えた。

「夏休み、どこにも行けないね」

「いいわよ、どうせ受検勉強しないといけないんだから」

「アタシ、毎日ここに勉強しに来てあげるね」

「いいわよ。毎日なんて。そんなに長く入院したくないわ。早く退院したいな」

「そしたら、毎日、なぎさちゃん家で、勉強教えてもらおう」

「教えてくれるんじゃないの?」

「何言ってるのよ。なぎさちゃんの方が、頭はいいんじゃない」

「頭殴られたから、もう何にも残ってないわ」

「…大丈夫なの?」

「大丈夫よ、これからは」

 渚の母親がサンドイッチとコーヒー牛乳を買ってきてくれた。沢田はプリンを出して、渚に勧める。仲良く食べている二人を見て、渚の母はただ微笑むばかりであった。



後日譚・・・新学期が始まってクラス替えが行われたが、渚と沢田はC組になった。あいにく坂井はB組、さいわい野上はA組になった。

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グリーンスクール - 不良少女白書 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi

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