直観占い師の千堂
秋山機竜
占いを濫用して人生をハッピーにしよう
俺は直観占い師の千堂。いつもテキトーなことをいって、占い料をまきあげている。
この世界に本物の占い師なんていない。
相手の身なりと、言動と、表情から、これまでの人生を読み解いてから、あとは直観で抽象的なことをいえば、『すごい、当たってる!』と信じるカモが多いだけ。
なんて楽な商売だ。
でも、楽な商売ゆえに、ライバルも多い。大量の固定客を抱えたやつは、トークがうまかったり、抽象化が上手なやつだ。
この抽象化というやつが、おそろしく難しい。
抽象化しすぎれば、信頼を失う。抽象化を減らせば、占いは外れる。
この匙加減を決めるのが、直観力だった。
俺だって、それなりに直観力はあるが、超がつくほど有名なやつには、かなわなかった。
いや、もしかしたら、新規参入してきた連中にも敗北して、おまんま食い上げになるかもしれない。
だから俺は、第二の人生を計画していた。
占いを濫用して、逆玉の輿を達成する。
まさに詐欺師の親戚である占い師らしい計画だろう?
さて、そんな俺にも、ついにチャンスがやってきた。
今日の顧客は、年間の純利益で一億円を叩きだす社長だった。
独身の女性だ。年齢は三十代前後。でっかく稼いだ起業家だけあって、戦国武将みたいなオーラを放っていた。
ぶっちゃけ、視線が怖い。
でも、このプレッシャーに負けたら、逆玉の輿なんて達成できない。
うまく占いで誘導して、俺と結婚するように仕向けないと。
「お客さん。今日はどのような相談でしょうか」
「むかつくヤツがいるんだけど、暗殺者を雇って殺そうと思って。どんな暗殺者を雇えば成功するか、占ってほしいの」
さすがに犯罪の相談は初めてなんだが⁇
いや落ち着け。俺の夢は逆玉の輿だ。この女と結婚するために、脳みそをフル稼働するのだ。
俺は平静を装いながら、それっぽいことをいった。
「足がついたら、まずいですから、慎重なやつがいいでしょうね」
「そうね。でも、どんな特徴のやつがいいと思う?」
「うーん、依頼料は高めで、事故を装って殺せるやつですよ。漫画に出てくるような、銃やナイフで狙うやつはダメですね。ここは日本なので、凶器を使うと目立つんです」
「たしかに。じゃあ、そういうやつを雇うとして、いつ決行すると完全犯罪になるのか、占ってちょうだい」
まさしく俺の直観力が試される瞬間であった。
当たり前だが、俺は暗殺の技術なんて知らない。だから暗殺しやすい条件だってまったくわからないわけだ。
気候とか、シチュエーションとか、時間帯とか、だな。
だが、わからないからといって、慌てる必要はない。
この知識のなさを、直観で埋めればいい。
「実は風水もかじっているんですが、来週の水曜日が最高ですよ。風向き、暦、人の流れ、すべてが、こっそり決行するのに向いています」
「まぁ、風水まで使えるの? すごいわね。あなた、わたしの専属占い師として雇いたいぐらいだわ」
そうそう、こういう流れを待っていた。あとは話術と直観によって、結婚の話題に持っていけばいい。
「おや、お客さま。わたしの占いによれば、あなたは結婚を前提として、すてきな恋人を探しているみたいですね」
「すごい、当たってる!」
なんで当たったかといえば、彼女のツイッターを定点観測して、普段の言動をチェックしていたからだ。
だが、種明かしをせずに、話を進めていく。
「お客さまは運がいい。なんとこの占いコーナーは、恋愛スポットでもあるんですよ。しかも今日は恋愛運が最高。だってあなたの誕生日、今月の十二日でしょう?」
「すごい、それも当たってる!」
なんで当たったかといえば、さきほどと同じくツイッターの誕生日欄だ。
もちろん今回も種明かしはせずに、逆玉の輿に向かって話を誘導していく。
「お客さま、この千堂。あなた様の専属占い師として、いつでも働ける覚悟ですよ」
「そうね。あなた、腕のいい占い師みたいだし……うん、決めた。じゃあ、とりあえず、デートしてみましょう。来週の水曜日に、陸橋の上で待ち合わせね」
やったぜ!
やっぱり俺の占いという名の直観力は優れていたんだ!
でも、なんで、むかつくやつを暗殺者に始末させる日に、わざわざデートするんだろうか?
あれかな、暗殺を依頼した負い目を薄くするために、デートという楽しい記憶で埋めるためかな。
● ● ● ● ● ●
来週の水曜日。すなわちデートの日だ。俺は柄にもなくスーツでビシッと決めて、陸橋の上で待っていた。
さて、あの金持ち社長は、いつ来るのかなぁ。
と思っていたら、いつのまにか背後に人が立っていた。
てっきり、例の社長かと思った。
だが振り返る前に、俺は後ろにいるやつに足首を掴まれて、そのまま陸橋の下に投げ落とされた。
「えっ……」
と驚いたときには、もう遅かった。俺は、陸橋から真っ逆さまに落ちていく。
そのときになって、誰に突き落とされたのかわかった。
フードを目深にかぶった男性だった。
そう、事故死に見せかけるために、慎重に事を運ぶ暗殺者である。
ああ、そうか。あの社長が殺したかった相手って、俺なのか。
でも、どうして?
そんな疑問を解決する暇もなく、線路に落ちた俺を、特急電車が轢いていった。
● ● ● ● ● ●
俺は幽霊になっていた。まぁ暗殺者に殺されたんだから、無念によって幽霊になったんだろうさ。
だったら、あの社長の動機ってやつを、調べてやろうじゃないか。
幽霊の俺は、例の社長のオフィスにやってきた。
彼女は、とんでもないことを考えていた。
『わたしの直観によれば、よく当たる占い師を殺すことによって、金運が上昇するわけ。これで今年も純利益は一億円突破よ』
どうやらこの女、毎回こうやって占い師を殺していたらしい。
逆玉の輿を狙っていた俺と、暗殺によって金運を上げていた社長。
この勝負、相手の殺意に直観で気づけなかった俺の負けだ。
直観占い師の千堂 秋山機竜 @akiryu
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