第10話 復讐者リベンは美しい王女と会う

 ロークスたちが出会った少女は街中にいても一際目立つ美しさを持っていた。


 炎が燃え盛るような色合いをした赤のグラデーションがかかった美しい髪に雪のように白い肌に穢れ一つ知らないような桃色の唇をした美少女であり、赤を基調とした学生服のようなブレザーを着ており、その上からゆったりとしたローブを着用していた。


「う、う~ん」


 何となく神秘的な雰囲気を醸し出す少女は意識を取り戻すと、彼女はゴリラみたいな怪物に囲まれていた。


(・・・?何かしら?)


 少女はそのあまりに奇怪な雰囲気が理解できなかった。


(夢?夢なのかな?)


 それはそう思うだろう。


 ゴリラみたいな怪物は「ウホホホホッ!アッイヤー!アッイヤー!アッイヤー!」と新しい仲間の誕生を祝うべく、着ぐるみを用意して冒涜的な音頭を取っていた。


 だが、そんな彼らの野望は一瞬にして潰えた。


「うるせぇえええええええええ!!」


 突然、彼女の前に現れたのは2mを越える筋肉ムキムキの男、そうリベンだ。


 彼は片っ端からゴリラみたいな怪物をひとしきりぶん殴ると、奴らを窓から放り投げた。


「来世は海老になりやがれ!!」


 ゴリラみたいな怪物をそれが聞こえたのか、その場で蟹と化した。


「な…!?」 


 そのまま蟹と化したゴリラみたいな怪物は近くにいた冒険者たちの鍋へと大分した。


 当然、冒険者たちの反応はこうだった。


「ぎゃああああああああああ!!なんだ!?ゴリラみたいな怪物が蟹の着ぐるみ着て降ってきた!!」


「親方!!空から怪物が!!」


 鍋にダイブした怪物は茹で上がり、そのまま破壊邪帝王ジェノサイダーとなった。


「GRUUUUUUUUUUUUUUU!!」


 この世のすべてを破壊すべく生まれた破壊邪帝王ジェノサイダーは山羊のような角を生やした悪魔のような見た目をした危険度レベル五の怪物であり、六本の爪から繰り広げられる闇の斬撃は非常に強力だ。

 その攻撃力は千六百三十もあり、さらに守備力は千三百二十と高い能力を持ち、ひとたび世に放たれれば、カードショップの隅にまとめて置かれるだろう。


 そして、破壊邪帝王ジェノサイダーは寺に出家にするため、どこかへと飛び去った。


 この一連の様子を見ていた少女はその無稽荒唐極まりない光景にこう思った。


――何か凄い夢だなぁ…


 そう思った彼女は再び寝ようとした。


「おらぁ、寝たら死ぬぞ!!寝たら死ぬぞ!!」


 だが、それを察したリベンは口から吹雪を吐いた。


 その勢いで寺を追い出された破壊邪帝王ジェノサイダーは凍った。


「寝たら死ぬぞぉおおおおおおおおお!!」


 そして、そのまま破壊邪帝王ジェノサイダーを粉々に砕いた。


「うるせぇええええええええええぞ、おっさん!!女の子が寝てるから静かにしろって…なんじゃあこりゃあ!!」


 ロークスがあまりの騒がしさに部屋へはいると、粉々に砕け散った破壊邪帝王ジェノサイダーの肉片が目に入った。


「また勢いだけの意味わかんねぇことやってんじゃねぇよ!!これ本人困るだろ!!絶対!」


 無論、ロークスの言う通り、謎の少女は起きないように必死だ。


 ロークスはため息を付くと、ちらりと彼女を見た。


「それにしても、この娘が王女か…何と言うか、神秘的だなぁ…」


 だが、男としての本能からか、思わず彼女の胸を見てしまった。


 しかし、隣にいる男の存在を忘れてはいけない。


「エロガッパ!!」


 そのことがバレたのか、リベンに殴られた。


「ゴブッ!!」


「なーにが神秘的じゃあ!!スタイル良すぎんだろうがぁ!!この変態がぁああああああああああああああああ!!」


 リベンの言う通りだった。


 この少女はその可憐な見た目と裏腹に男の理想とも取れるような抜群のスタイルをしており、服の上でもわかるぐらいグラマラスな体形をしており、多感な青少年にはかなり目の毒だ。


「牛か!!この女は!?」


 リベンはそう言うと、近くにいた無抵抗の牛を殴った。


「やめろよ、卑怯者!!」


「お前誰?」


 だが、牛はびくともしない。


 それもそのはずだ。体重が六百キロ以上もある牛をぶん殴ってダメージを与えるのは無理なはずだ。


 そもそも、牛の頭自体、ぶつけ合いの喧嘩に用いる武器兼防具として非常に頑強であり、下手をすれば人間の手の方が折れるのだ。


 すなわち、イキリズバ太郎であるリベン如きに御せぬ相手だ。


「ふざけんなぁああああああああああああああああ!!」


 リベンはそのまま牛の胸倉を掴んだ。


「勇者パーティのにわかファン共に言わせてもらう!!お前らこの復讐心を持ったまま戦場たつことがてめぇできんのかよ!!おぉん!!チート野郎みたいに」


 そう言って、牛を再びぶん殴った。


 だが、職歴なしの無職の三十八歳が牛をどうにかできる話であった。


「あ…あのぉ…」


「すみません!!今日こいつで焼肉パーティ開くんで、後にしてもらえますか!!」


 彼を呼び掛ける可愛らしい声を無視し、リベンは牛をぎろりと睨みつけた。


 そのリベンの様子に牛はにやりと笑った。


「ぶも~(イキリズバ太郎に笑ってんじゃなくて、イキリズバ太郎で湧いて出た本物のイキリに笑ってんですけどねぇ~プー、クスクス!!)」


「何だとゴラァ!!頭おかしいのしかいない地雷原だらけの勇者パーティと仲良くできるおれをなめんなよ!!SAN値削れる体験しまくったこのおれがイキってるわけないだろ、舐めんなよこのおれのフォスフォフィライトメンタルを!!」


 牛の挑発にリベンはさらに激高した。


「通じた!!何事だよ、本当にこれ!!」


「す、すみません…」


 ロークスが突っ込みを入れると、その控えめな声で二人は止まった。


 ついでに牛は精肉された。


「誰だ?」


 牛の解体作業をしながら、リベンは声の主に尋ねた。


「精肉してる!!その技術あれば、普通に肉屋就職できんだろ!!」


「ふふっ、賑やかですね」


 ロークスの突っ込み後、その人物はクスリと笑った。


 そう、彼らに声をかけたのは少女だった。


「あ、ああ!!ごめんね、困らせて!!」


「おれのせいか!!」


 リベンはその言葉に怒ると、近くにいた破壊邪帝王ジェノサイダーの残った部分を粉々に砕いた。


「ふふっ、大丈夫ですよ。何だか、賑やかですね」


「すげぇ!この娘、これを笑って済ませた!!」


 彼女はロークスの突っ込みにクスッと笑うと、


「私はフラム。セレナーデ王国の王女にて、協会より聖女に選ばれた者です。あなたたちは?」


「オ、オレは…」


 ロークスが名乗ろうとした。


 しかし、邪魔者が入った。


「おれが先だあああああああああああああああ!!おれの名前はリベン・アヴェンジヤン!!勇者パーティの元メンバーであり、そして奴らに追い出された恨みを晴らすためだけを生きる取り柄にしている!!」


 もうすぐ四十台の無職リベンがロークスよりも先に名乗った。


 彼女は目が点になりつつも、その事実に驚いているようだ。


「そ、そうなんですか。でも、私が旅立つ前に聞いた話だと、勇者パーティにそう言った経歴はないはずなのですが…」


「ふっ、世間知らずが。それは勇者パーティがおれの存在を消したいのだろう。こいつを見な」


 リベンはそう言うと、闇の水晶を出した。


「あの、オレは?」


「芭唖火保二刀流奥義“闇水晶”」


 彼はそう言うと、闇水晶に映像が映し出された。


 そこには勇者パーティに凄惨な扱いを受けるリベンの姿が…。


「いや、うさぎとかめが徒競走しているだけじゃねぇかよ!!お前ちっとも関係ねぇじゃねぇかよ!」


「よく見ろよ、ほら」


 よく目を凝らしてみると、何故かゴールになっていたリベンの姿があった。


「すげぇな!!もう何でもありかよ!!」


「つらかった…」


「これが!?」


 ラストは申し訳ない程度に出てきたコザ、カイステがリベンをぺしぺし虐めている姿が映って終わった…と思いきや、アレックスが「お前使えないからクビ」とリベンに言ったところで本当に終わった。


「大事なところが“ついで”で終わった!!」


「勇者パーティにもそう言うことがあったのですね…あなたもさぞ大変でしたでしょう。でも、どうしてそこまで彼らを?」


「理解した!!」


 そこ言葉にリベンはこう答えた。


「学歴職歴なしもうすぐ四十台でどこも雇ってくれず、しかもあいつら給料未払いのままおれをパーティから追い出したからな。それは恨むしかないだろう」


――リアル…。そのふざけた見た目をやめれば、自営業で行けそうだけどな…


 ロークスが心の中でそう突っ込みを入れると、今度はフラムはロークスのほうを向くとこう言った。


「大変でしたね…でも、そちらの方と組めてよかったです。あの、あなたは?見たところ、私と年齢はあまり変わらないようですが?」


 その言葉にやっと自分の名を名乗れると、思ったロークスは頷いてこう答えた。


「ああ、オレは「カムカムジェネロイド三世」だ」


 リベンの妨害を受けると、ロークスは無言で彼を叩き斬った。


「まぁ、カムカムジェネロイド三世と言うのですね!いい名前です」


「違うわ!オレはロークス!この町に冒険者なったばかりの新米さ。おっさんとは今さっき知り合ったばっかだ」


 その言葉を聞くと、フラムはにっこりと笑ってこう言った。


「ふふっ、賑やかですね。それじゃあ、これからよろしくお願いします」


「えっ!?」

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