第6話 復讐者リベンは料亭へ行く

~◇エクシオール帝国・アレックスの屋敷◆~


 エクシオール帝国はこの世界では最も大きな国であり、“レジェンド”を踏破した勇者パーティ『ブレイブリー・イグニート』が拠点として構えている場所だ。


 この国は現在アレックス率いる勇者パーティが実質支配している状況であり、現国王たるエクシオール皇帝は実質お飾りなような状態であった。


 国民の間では、近いうちにアレックスが皇帝の座を奪うだろうと、噂されていた。


 しかし、ここ一年勇者パーティの業績が思うように伸びないこともあり、現在は少し足踏みしている状態であった。


 その勇者パーティの本拠地たるブレイブ城はエクシオール城の目の前に建設された城であり、彼の権威の象徴であった。


 とは言え、平和な世の中であるからには門番たちは暇そうにしていた。


「ふわああああっ」


 門番の一人があくびをすると、異変が起きた。


 エルミアが城に戻ってきたのだ。


 これだけならば特に変ではない。


 強いて言うならば、あくびをしたことを咎められる程度であろう。


 だが、彼女は変なゴリラみたいな怪物に乗って戻ってきたのだ。


「うおおおおおおおおおおおっ!?なんじゃ、あの化け物は!?」


 兵士は驚きのあまりそう絶叫すると、慌てて職務を遂行した。


「と、止まれ!そこの化け物!エルミア様!?なんっすか、その怪物は!?」


 エルミアは蔑んだ目で門番を見ると、鞭で叩いた。


 スパーンッ!


「ぎゃああああっ!いきなり何するんですか!?」


「門番さん、あなたの目はイかれているのですか?この魔物の可愛さがわからないなんて」


「はぁ!?どう見ても化け物だろぉ!!」


 ゴリラみたいな怪物は門番を見ると、こちらに近寄ってきた。


 そして、彼の頭を掴み、地面に叩きつけた。


「ゴベラァ!」


「駄目よ、ジャン=コネール=ゼネラル=シャカシャカ=ポテト=コンソメ=アジ=テイカ=ドナル=ポコポコ=コンスタンティノープル=リメイク=ゴリラゴリア36号。そんなことをしたら、アレックス様に怒られてしまうでしょう」


 エルミアは荒れ狂うゴリラみたいな怪物をぴしゃりと叱った。


「名前長ぇ!!いやいや、アレックス様これ見たら、速攻で斬り捨てますよ!だって、どう見ても化け物じゃん!しかも、何とも言えない顔立ちの!こんな化け物見たら、速攻を追い出しますよ!!」


 だが、彼の言葉は彼女には届かなかった。


「ふっ、あなたが何を言おうと私はこの子を飼い続けると決めました。アレックス様は私は説得して見せます」


 そう言って、彼女はゴリラみたいな怪物を馬小屋に入れて、城内へと入っていた。


「あの人正気かよ…ん?」


 ふっと、馬小屋の方を見ると、ゴリラみたいな怪物は馬たちにいじめらていた。


「ヒヒーン!(おう、新入り!てめぇでしゃばってじゃねぇぞ!)」


「ブルルッ(人参買ってこいよ、てめぇの金でな)」


「ウホオオンッ(助けて!門番さん!)」


 ゴリラみたいな怪物は門番に助けを乞うように潤んだ瞳で見てきた。


 きもい。


「あの変な化け物、馬にいじめられている!!弱ぇえええええ!!」


~◆玉座の間◇~


「…以上で報告は終わりです」


 勇者アレックスは玉座の間において、エルミアの報告を聞いた。


「そうか…リベンが俺たちに復讐を…か」


「はっ、確かに彼はそう申しておりました」


「ご苦労であった。下がってくれ」


「わかりました。あ、それとリベンより可愛らしい魔物をもらいました。飼育の許可を」


「却下だ」


 アレックスは即答した。


「いえ、アレックス様。私はこの生き物をどうしても飼いたいのです。どうか、お願いします」


 その言葉にアレックスはため息交じりにこう言った。


「リベンからと言うと、あの変な化け物か?」


「ええ、それが何か?」


「あの化け物は突発的に意味不明なことをするんだ。かつて、リベンがパーティにいた頃に奴らは人を殺しているところを見たことがある。見た目も不愉快だが、危険性も大きい。勘弁してくれ」


「左様ですか。ですが、これは私が個人で飼育するので、この件はパーティの管轄外のお話です。私のプライベートのお話に付き合って下さり、ありがとうございます。では」


 彼女はそう言うと、玉座の間から出た。


「困った娘だ」


 アレックスはため息を付きながら、玉座に頬を付いた。


「へっ、別にいいじゃねぇか。俺は歓迎するぜ。あの女がやる気出るなら、それでいいじゃねぇか」


 そうアレックスに気安く声をかけたのは、彼と同格と言われる“ダークパラディン”のレベリオだ。


 彼は獣人ではないのに、豹のような凄みのある顔立ちに、真っ黒い鎧を着た大男だ。


 レベリオは蛇のようにうねった“蛇矛”と言う変わった形の槍を獲物としており、戦いでは敵を引きつけて無双する大者だ。


 彼は優秀な者は手厚く歓迎し、強者を好むが、無能者や弱者に関しては関心がないのだ。


 そのため、かつてリベンがパーティにいたときは彼に関心がなかった。


 だが、彼は今回の報告を聞き、妙に嬉しそうだった。


「レベリオ。何を嬉しそうにしているのだ?リベンの奴が我々を狙っているんだぞ?」


 その言葉にレベリオは笑いながらこう答えた。


「いいじゃねぇかよ。ここ最近退屈していたんだ。あの使えなかったリベンが復讐の力を身につけて優秀になったんだ。いいじゃねぇか、どれだけあいつが強くなったかが楽しみだぜ」


「おい、レベリオ。あいつは我々のことを恨んでいるぞ」


「ガッハハハハハ!勇者アレックスとあろう者が追い出したリベンに怖気づいてちまうのか?俺はよぉ…強ぇ奴と戦えればいいんだ。それによぉ、俺は報告に会ったリベンと一緒にいた小僧の方が気になる」


 その言葉にアレックスは困惑した。


「どうしてだ?」


「戦士の勘って奴よ。丁度、今あいつらは聖女を探すためにザギグにいるって話だ。どれだけあいつらが強ぇか、ここで報告を待つとしてようぜ。かつての仲間が無惨に負けるさまをよぉ」


 その言葉にアレックスは背筋が凍る思いをした。


 レベリオにとっては、仲間の死も相手の実力を測るものさしでしかないのだからだ。


「コザがボロ負けした言う話は笑えたぜ。あいつは口先だけで威張っていて、使えねぇ野郎だからな。ザギグにいるかつてのお仲間がどれだけ無惨にやられるか、楽しみだぜ。今からあいつらの席を空けておくのもいいと思うぜ、アレックス」


 彼はそう言うと、玉座から去った。


 アレックスはただひたすら黙っているしかなかった。


~◆ザギグ・酒場◇~


 そのころ、一方リベンたちと言うと。


 戦いの後、その復讐の達成を祝うべく、ザギグの酒場にいた。


「飲めっー!飲めっー!」


 早速、リベンはゴリラみたいな怪物に洗剤を無理やり飲ませていた。


「ウホゴバァッ!!」


 ガソリンを飲まされたゴリラみたいな怪物は大量の血を吐いた。


 ビシャビシャッ!


 その血が周りの客に飛び散り、店内は阿鼻叫喚の嵐となった。


「やべぇ奴だ!逃げろ!!」


 それを見た客は一斉に店内へ逃げ出した。


「よし、これで貸し切りだ」


「貸し切りだじゃねぇよ!!何、あんた店内スプラッターハウスにしてんじゃあ!!」


 ロークスがリベンの行いに突っ込みを入れると、謎の仮面が現れた。


「ほう、復讐の力を宿した男か…」


 その声と共に謎のホッケーマスクが彼らの前に現れた。


「うおっー!変な仮面が出た!!」


「お、お前はヘル〇スク!」


「知ってんのかよ!!」


 その声に呼応するかのようにヘル〇スクはリベンの顔に張り付いた。


「よろしい、ならば力をやろう」


「わぁーありがとう!ヘル〇スク!!」


 リベンは新たな力を得たことに喜ぶと、墓地に向かった。


 すると、仮面の力が地中に眠っていた顔と腕が腐敗した巨人のようなゾンビに宿った。


「何か出た!!」


 ロークスが突っ込むと、ヘル〇スクを高笑いをしながら、リベンにこう言った。


「はっはっはっ!貴様のおかげで本来の力を取り戻すことができたぞ!!」


「何ぃ―!!」


「さぁ、死ねぇ!!」


 ヘル〇スクはリベンにその腕で襲い掛かったが、その妙に洗練された動きで何発もパンチを食らい、即死した。


「無駄に洗練された動きだ!!」


「ば、馬鹿な…この私が…」


 そのツールでも使っているかの動きはヘル〇スクごときに対処できなかった。


「てめぇは時代遅れなんだよ!!死ねぇい、芭唖火保二刀流奥義“撃破数1”!」


 巨人はうなじを斬られると、絶命した。


「ふっー、これだからホッケーマスクとマスコットは信用ならねぇぜ」


「君たち…店内汚したんだからさぁ、掃除ぐらいしろな…これじゃあ、新しい奴とマッチングできないだろ」


「お、お前は…」


 姿を現したのは、意識の高そうな廃ブランドで身を固めた男だ。


 そう、彼は勇者パーティの一人であるカイステだ。


「ん?ああ、お前はどこで見たフェイスだな。でも、一流の俺は人脈も夢もないド三流お前何て知らないけどな」


 彼がそう言うと、リベンはすかさず瓶を取り出すと、カイステの口に押し込んだ。


「飲めっー!!」


「グガゴゴゴゴゴゴゴゴッ!は、離せ!!」


 カイステがリベンを振り払うと、苦しそうに咳をした。


「な、なんだ。これは…不味いぞ!しかも、舌が痺れる!」


 その一言にリベンがにやりと笑うと、彼に飲ませた瓶のラベルを見せた。


 そこには「業務用ハイボール」と書かれていた。


「な…なんだそれ?」


「旨いだろ?ただのハイボールじゃあ、意識の高い貴様を満足させられないと思い、そこでおれは“おばあちゃん”を入れておいたぜ」


「おばあちゃん?」


 そう言うと、彼は白い粉が入った袋を取り出した。


「そ、それはまさか薬…」


「魔術調味料です。それも軽く一袋かも~」


「な、魔術調味料だと!!ふざけるのも大概にしろ!!」


 魔術調味料とは、魔術で生成された調味料だ。


 食べ物だけの健康を気にする彼には、脱兎のごとく嫌われた調味料だ。


「ふっ、貴様のような三流以下…九流の輩にはたっぷりと貴様に真の健康の意味をこの“おばあちゃん”ともに教えてやるぜ。さぁ、殺すかも~」


 そう言うと、リベンは刀を引き抜いた。


 さぁ、復讐の時間だ。

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