17

安定期に入り、入籍に向けて動き出す。

「星野になる覚悟はできたかな?!」なんて笑う祐也。

「本当に私でいいの?後悔しない?」

「陽花がいいの!陽花こそ俺でいいのか?」

ドラマとかで見るフレーズをこんなにすんなり口にするとは思わなかった。


私たちは夫婦になる。

すでに同棲をしているから変わるのは苗字だけ。

私たちは先が見えそうで見えない紙に決意のサインをした。


婚姻届を出す為に、区役所へ向かうことに。

あまり遠くはないけど、体を考えてバスに乗っていくことにした。


「この時間はあまり混んでないし座れるかな?」

「近いし私は立ってても大丈夫だよ!」

「無理はしないでください星野陽花さん!」

「まだ原井でーす!」


そんな浮かれたやりとりをしているとバスがきた。

平日の昼前なのに意外と混んでいた。

バスで10分もかからない場所、隣には祐也もいるし安心して手すりを掴んでいた。


「あら?妊婦さん?私、席変わってあげたいんだけど足が悪くてね…」

そう声をかけてくれた杖を持ったおばあさんだった。


「ありがとうございます。私たちすぐに降りますし大丈夫です!」

「あらそう?でもお腹出てくると辛いでしょう?本当に大丈夫??」


その会話を睨むように見るたくさんの目が気になった。

たった今目が合ったはずの人達が視線を逸らし始める。

おばあさんの隣にいる学生は寝たふりを始め、近くにいたサラリーマンはパソコンを開いた。


私は何か悪いことをしているのだろうか。

ただバスに乗り、手すりを掴み、目的のバス停を待っているだけなのに。

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