14

日に日に悪阻が酷くなる。


昨日まで気にならなかった、炊き立てのお米の匂い。

好みの柔軟剤の匂い。

匂いや食べ物に吐き気がするようになった。

何を食べても戻してしまう。

バイト先へ相談するしか無くなった。


「店長。来月辞める話なんですけど…」

「お?!辞めたくなくなったか!」


個人経営のお店。この店長とはここのお店が開店した時からの仲だ。


「いやぁ。辞めたくはないんですけど。実は妊娠してまして…」

「え?!お、おめでとう!早く言えよ!!悪阻とか大丈夫か?」

「すみません…迷惑かけたくなくて。」

「迷惑な訳ないだろ!俺の嫁さんは無理して働き続けたんだよ。それで一人目は流産してる。」

「えっ…」

「不安な時に怖いこと言ってごめんな。でも無理すると後悔するかもしれない。それぐらい妊婦は大変なんだよ。」


店長が結婚する前から一緒にいるのに、そんなことがあっただなんて知らなかった。

どう触れていいかわからず俯いてしまった。


「その様子だと、悪阻辛いんだな?」

「はい… 特に匂いが辛くてご飯も中々食べれてなくて…」

「飲食店が一番不向きだな!」

嫌そうな顔をせず笑ってくれた。


「お前が良ければなんだけどさ。店の新しいメニュー表の作成とチラシを作ってくれないか?」

「あ、出来ます。けどいつで…」

「期限は来月。お前が辞める日まで。」

「はい…」

「ここへの出勤はなしだ!」

「え?! いいんですか…」

「いいも何も仕事だよ!ただし無理は絶対するな。来月まででも難しそうなら、いつでもいい。元気な子供の顔を見せにきてくれる時でもいいな!!その時はちゃんと報酬を準備しておこう!」


神様に見えそうなぐらい、キラキラした目で話していた。

嫌がれると思っていたのに、とても優しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る