直観勇者
凍ノ絵しらたきを
直観勇者
草木の中を首輪を付けた猫がネズミを追いかけていた。
「どうした? これで終わりか? 勇者というのも
「グッ……」
目の前には巨大な蛇。いや、こいつはドラゴン。村の家三軒
空は澄んでいて草木が生き生きとして映える。これから
頑張って! と離れた所で見ている見物客が声援を送っている。正直
「楽に殺してやろう」
ドラゴンの威圧的な発言に
動かない体で目を必死に動かした。倒壊してる建物と被害のない建物、死んでいる者と生きている者。全てが二極化しそれは混在している。
そのときだった。いつものあれが起きた。俺の頭に直観的にイメージが流れ込む。
「
それは今まさに必死で目を動かしたときに一瞬
誰がそうさせたのか、自分の意識からくるものなのか。唯一わかっているのは、俺の経験上その直観を無視してはいけないのだ。
それは
まず樽は湖の
「で、一体なにをすれば……?」
この直観を上手く使いこなすのは
だから俺は考えなければならない。この樽をどうすればよいのだ? 湖はなんだ? どうする? どう繋がる? どうすれば? 考えろ、何をするんだ――。
「さらばだ勇者よ!」
「!」
俺の顔に影が落ちる。頭上には高々と振りかぶられたドラゴンの
俺は樽へ向かって逃げるように走った。逃げた瞬間に
しかし
「アガッ……」
俺は絶望した。俺の直観が壊されてしまった。大破した樽から酒がドボドボと湖へと流れ込んでいく。生々しい音、止まらない液体――これが次に起こりうる俺の末路だとでも言うのか。
「逃げて!」
遠くの見物客から声が響く。
ドラゴンが次こそは仕留める、というように
俺は急いで湖の中へと逃げた。これはただ単に水は火に強いという、幼稚な発想からくるものだった。
「馬鹿め。この炎から逃げられると思うな」
ドラゴンは音をたてながら翼をはためかせ、上空から勇者の姿を
俺はドラゴンが大きく口を開けるのと同時に水の中へ潜った。潜水スキルの出番だ。できるだけ深く潜ろう。
ゴォォォオオオオオ
潜ってすぐ水中に炎の音が
「ギャアアアアアアア」
しばらくして断末魔が水中に響いた。アポカリプティックサウンドに加えて断末魔とは、世も末だ。どうなっているんだ? 俺は潜った場所から遠く離れた場所に移動し、浮上して確認することにした。
「プハァッ……」
顔を左右に振り、
「? どう……なっている……?」
水面から炎の柱が立っており、ドラゴンを
「魔法か……? でも一体、誰が?」
そこで気が付いた。
「そうか! だから樽だったのか!」
そう、あれは樽の中の酒を湖に流すというのが正解だった。水面にはアルコール度数の高い酒が
「素晴らしい。お見事ですね」
自分自身に
「誰だ!」
辺りを見渡しても何もいない。だが、またどこからか声が聞こえた。
「私は、最後の黒幕とでも言っておきましょう」
「黒幕……だと?」
あのドラゴンが最後の敵ではなかったと? ククク、いかにも冒険らしいではないか。
「黒幕よ。ドラゴンは倒した。次はお前だ。お前の姿を表してもらおう」
まぐれで倒したのを
「それは難しいのではないかな? 君には私を
「なんだと?」
「現に私は君の前に姿をさらけ出しているのだよ」
「なにっ?!」
辺りを見回す。しばらく探したあと、それは下にいた。
「?! ネズミっ……?!」
意外すぎて声が
「君、今の間で何回殺されてたかわかるかい?」
「……」
「十三回はイケるね」
「! そ、そんな馬鹿な!」
「いや、本当さ」
俺はこんなに小さな奴に畏怖している。ドラゴンと対峙したときよりもずっと。下手に動くと殺されると直観している。
「いいよ、君とならお相手してあげる」
「! なめやがって……!」
意を決して
「それとも別の日にする? 今日はもう疲れてるでしょう?」
「馬鹿にするな!」
俺は今まで
しかしネズミは小さい上にすばしっこく、これっぽっちも当たらなかった。本当に技を披露しただけに
「クッ……どうすればっ」
俺に魔法が使えていれば。
「残念だったねぇ」
ネズミは薄ら笑いを浮かべている。
このネズミをどうすれば、どうしたらネズミは――
「!」
驚いた。
「そうか、だからか……ククク……ハハハ」
あの時すでに感じていたのだ。俺が正しければ、まだいるはずだ。
「……なにがおかしい?」
ネズミの問いかけに答えず、俺はヨロヨロと歩きだした。
「おい、どこにいく」
ネズミは俺が気になるのか付いて来た。好奇心旺盛だ。しかし俺にはネズミを気にしてる余裕はない。これに賭けるしか望みがないからだ。
しばらく歩いて、一軒の家にたどり着いた。倒壊から
「確か、この辺りに……こいつの
「なんなんだ? 伝説の武器でも取りに来たか?」
俺はそれを手に取り、立ち上がった。
「ああ……まさか、これを使うときがくるとは思わなかったがな」
「ほぅ? 楽しみだな」
ネズミは相変わらず薄ら笑いを浮かべ、どんな武器が出てくるのか楽しみにしている。俺は
「行けぇえ!!!」
俺は振り向きざまに
「にゃあおん」
ネズミは目を丸くした。そうこれは武器ではない。猫だ。人間を
しかしネズミとってこれは武器をも
「ぎゃおおおおあ!」
ネズミは必死に逃げ去る。しかし猫も必死に追いかけていく。猫の首輪に付いている鈴がリンリンとうるさい。
円を描くように逃げ回るネズミを待ち伏せし、俺は最後の力を剣に込めた。
「これで全て終わりだ」
言い終えるのと同時に剣を振り下ろした。
赤い花が舞う。猫は獲物を失ったにも関わらず、たいした反応もせずに家に帰っていった。
俺の直観はイメージとして印象強く映し出される。それは
何気ない直観。しかしそれは到底無視できないものである。それは俺が決めたことなのだろうか。必然なのか。俺にはわからない、わかる
そして俺は今日も直観する。
「…………たまご?」
直観勇者 凍ノ絵しらたきを @sirataki3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます