モブだと安心していたらこんな事になるなんて!

白猫なお

第1話 モブだと安心していたらこんな事になるなんて!

 初めまして、私はオリビア・ファステリ、星の国の辺境伯の娘です。


 そして何を隠そう転生者です。


 私は物心ついた時から自分が転生者であると自覚して居ました。


 折角なので新しく生まれ出たこの世界を愉しもうと思って、前世の記憶を頼りに勉強や屋敷の事、それに領地の事にも勝手に手を出してきました。


 前世がある程度の知識が進んだ世界だったこともあって、学力は今の時点で学園卒業と同じレベルがあります。


 屋敷の中では使用人たちの所へ行ってはお手伝いをしたり、前世の知識で作業を省略化出来るようにしたり、美味しい料理を提案したりと、好き勝手しながらみんなに可愛がられて暮らしています。


 父が辺境伯と言う事もあって、領地の屋敷は辺境の地にあるので、魔獣討伐にも参加したりして遊んでいます。


 今はとっても楽しい転生スローライフを満喫中なのです。



 そんな大満足な生活だったのですけど、ある日思わぬことに気が付いたのです。


「えっ……第一王子様のお名前はクリストファー・エステレイヤ様……と言うの? まさか……その婚約者様は……ヴィクトリア・ブットウィン侯爵令嬢様ですか?」

「あら、お嬢様よくご存じですねー、流石ですわ」


 私はこの後倒れました……




 そう私が転生したこの星の国は、前世の乙女ゲームの中だったのです!

 

 ヒロインは私と同い年のミア・ファーナ男爵令嬢。

 ゲームの名は『星の国の聖女ミア』。


 ヒロインは元は平民で、聖女に選ばれたため男爵家の養女となり、貴族が通う学園に進学が決まってそこで攻略対象達と出会います。


 攻略対象はこの国の第一王子であり私の二つ歳上のクリストファー・エステレイヤ様、それに弟殿下で私と同い年の第二王子アイザック・エステレイヤ様、そして宰相の息子様と、騎士団長の息子様、それに隣国の王子様が居たと思います。


 でも……


 私はヒロインでも、悪役令嬢でも、そしてその取り巻きでもありません。


 つまりこの世界のモブなのです。


 ゲームに全く関係のないキャラクターなのです。


 確かに容姿も父親に似た赤髪と母親に似た緑色の瞳以外は普通の女の子です。


 勿論前世より数倍可愛いですけど、ヒロインや悪役令嬢に比べたら普通でしょう。


 ただし……ヒロインと第二王子とは同じ学年になるので、将来的に学園で出会う事にはなりますが、まあ私の今の成績なら飛び級も可能なので一年の我慢でしょう。


 私は落ち着きを取り戻し、このまま辺境の地でのスローライフを楽しむことに決めました。


 モブって最高ですよね。ウフフフフー。



 そんなある日のことです、私が丁度10歳になった頃でしょうか。父親のファステリ辺境伯が王都から一人の男の子を連れて帰ってきました。


 その子の名前はルーカス・エステレイヤ。

 妾妃の子でこの国の第三王子です。


 体が弱いため、父が王に頼まれて自然の多いこの土地で静養させるために連れてきたのです。


 私は頭が真っ白になりました。

 乙女ゲームの『星の国の聖女ミア』の中に第三王子など出て来ません。


 勿論隠しキャラでも無く、この国には王子は二人しかいない設定のはずなのです。


 つまり彼も私と同じモブという事でしょう。


 初めて会ったルーカスの顔は青白く、私と同い年のはずなのに背はずっと小さく、とても華奢でした。

 つまり彼はゲームが始まる前に命を落とす存在なのでしょう。私は酷く胸が痛みました。


 ルーカスは妾妃である母親似なのか、攻略対象の王子たちの様な金髪、碧眼ではありませんでした。


 黒い髪に赤い瞳、そして少し怯えた様な表情。


 それはまさに前世で可愛がっていたウサギのルーと同じ様子でした。(名前も似てるしね)


 私はルーカスを可愛がり元気にするとに決めたのです!


 どうせモブだし助けちゃってもいいでしょう。



「初めまして、オリビア・ファステリです。ルーカス様仲良くしてくださいね」

「……ルーカス・エステレイヤです……宜しく……」

「私の事はリアと呼んでくださいね、私はルーってルーカス様の事を呼びますね」

「えっ……あ、う、うん……」

「さあ、ルー、お屋敷の中を案内しますわ。大丈夫ゆっくり見て回りましょう」

「……うん……有難う……リア……」


 ルーは私にとって初めて出来た同い年のお友達でした。


 この辺は辺境の地だけあって小さな子が余りいません、私も精神年齢が高いので近所のガキんちょたちとは遊ぶ気もおきず、屋敷の中で家の仕事を手伝う方が楽しかったのです。


 でもルーは男の子なのに大人しくって、可愛くって、優しい良い子でした。

 私はルーを弟の様に可愛がり、溺愛しました。


 ルーの体が丈夫になる様に屋敷の料理長と相談して体に優しい食事を作りました。

 それがきっかけで王都にレストランを開き、ファステリ辺境伯は益々潤い、力を付けました。

 

 そしてルーに体力を付けさせるために一緒に剣術や武術も習いました。


 以前から手伝っていた魔獣討伐は魔法だけを使って行っていたのですが、努力のお陰で今では魔法を使わずに魔獣を倒せるようになりました。


 そしてその効果なのか? なんなのか? 何故か嬉しくない事に私には ”深紅の乙女” と言う二つ名迄付いてしまいました。


 それと魔獣を沢山倒したので魔石がザクザク手に入り、またまたファステリ辺境伯は潤い、力を付けたのです。まあモブなのでどれだけ領が栄えても関係ない事でしょう。



 そしてルーの病気を治そうと私は必至に薬草を勉強して自分でポーションを作れるようにもなりました。


 ファステリ領のポーションは上質だと売れに売れ、またまた我が辺境伯は潤いました。まあ転生チート丸出しですがモブなので何をやっても問題無いでしょう。


 私にとって一番大切なのはルーの健康なのですからね。

 

 

 そしてルーはすっかり元気になることが出来、無事に学園に通える歳まで生き延びることが出来ました。私はこの結果に大大大満足でした。


「ルー、明日は王都に向けて出発ね、久しぶりの王都だけど大丈夫?」

「ああ、俺はもう昔のような弱い俺じゃない、リアのお陰で強くなれたよ」

「なら良かった、私もルーのお陰で友達が出来てとっても幸せだったわ」

「友達?」

「そう、ルーは私の友達でしょう?」

「……俺は……リアと……友達以上になりたいと思ってる……」

「うーん……じゃあ、私で良かったら婚約する?」

「えっ?!」

「あ、ごめんなさい、私みたいなモブ……じゃない、普通の子じゃ王子様のルーとは釣り合わないわよね……」

「違う! 俺はリアが良い! リアが好きだ! リアと結婚したい!」

「なら良かった。ルー、一緒に幸せになりましょうね」

「うん!」


 まあ、可愛い。流石私のルーだわ。


 モブ同士の婚約。

 そう何の問題も無いでしょう。

 

 元々ルーの見た目は私のドストライクのタイプ。

 その上性格も良いしとっても働き者。今も魔獣討伐には嫌がることなく参加してくれているし、ファステリ領には有難い存在。


 お父様に婚約の話を伝えると、それはもう大喜びだった。


 どうやら王子としては後ろ盾の弱いルーの為にも、潤い満ちて力のある辺境伯の娘の私との婚約は王様にも嬉しい出来事だった様で、とっても喜んでもらえたみたい。


 まあ元々は存在しない王子様のルーなのでモブの私と結婚してもなんの問題も無いのよね。


 所詮私達はモブなんだから。自由にやらせて貰いましょ。





 婚約を終えると、私達は学園に進学した。

 ヒロインや悪役令嬢、それに攻略対象達とはチラッと顔を合わせることはあったけれど、モブなので殆ど口を利くことも無かったわ。


 ルーは妾妃の息子だという事もあって、兄弟である筈の第一王子と第二王子には見向きもされていなかったしね。


 それに私達は飛び級をしたからあっと言う間に学園を卒業したの、お陰で二年後にある断罪イベントにも無関係でいられたわ。まあモブなのでその場にいたとしても何の意味もない物ね。


 ただ一年で学園を卒業する程の秀才は私とルーだけだったから、とっても注目されちゃったの、この国の救世主だとかなんだとか、少しだけ騒がれたわ。


 でも私もルーもモブなので、みんなすぐにそんな事は忘れたと思う。だってゲームとは関係ない出来事だものね。


 


 そして私とルーの結婚式が無事終わった頃、ヒロインと第二王子の卒業式の場で断罪イベントがあったみたい。

 私達は辺境の地で幸せにスローライフを満喫していたから全く関係なかったけれど、噂で聞いたところによると、どうやらヒロインは隣国の王子であるベルンハルド・カノープス様を選んだみたい。

 この国の王子二人の傲慢さに以前から嫌気がさしていたみたいなの、こればっかりは仕方がないわよね。


 そして、悪役令嬢であるヴィクトリア・ブットウィン侯爵令嬢様を無実の罪で断罪しようとした第一王子と第二王子は、その後廃嫡されて庶民に落とされたらしいの。


 それから騎士団長の息子様は悪役令嬢を助けたらしくってなんと二人は婚約したみたい。それと宰相の息子様は最初から我関せずだったみたい。きっとヒロインが好感度を上げて居なかったのね。攻略対象を王子様三人に絞っていたのかもしれないわ。


 まあ私達はモブなので……んっ?!


 王子様二人が廃嫡?! この場合どうなるの?!




 そんな時、王妃様が今までルーに毒を持っていたことが王城で明かされたの。


 小さな頃のルーはそのせいで体が弱っていたみたいで、ファステリ領に来てからは、私の手作りお菓子しか食べなかったから、送られてきていた王妃様の手作りお菓子は処分していたの。


 だってファステリ領に届く間にカビが生えていたのだもの、どんなに高貴なお方の手作り品だって食べられたものではないわ。


 そして王妃様はこの事件の他にも色々とやらかして居たようで、結局修道院送りになって、ルーのお母様である妾妃様が正妃様になったの。


 ルーのお母様は伯爵家の令嬢で元々第二妃になる予定だったのよ、でも正妃様の圧力で妾妃で甘んじて居たの、これでやっと表舞台に立てるから良かったわって思ったけれど……


 んっ? もしかしてルーって次期国王? あれ? 私たちってモブだよね?





「オリビア、来年には弟か妹が産まれるぞ、オリビアは安心して王城に向かって良いからな」


 ゲームの補正なのか、なんなのか、私には急に弟が出来たわ。

 お母様なんて存在していたかどうかぐらい印象が薄かったのに突然の事よ。


 つまりファステリ領は私とルーがいなくなっても安泰だってこと。


 結局その後ルーが王太子になることに決まって、勿論妻である私が王太子妃になることになったの。


 未来の王妃なんてとっても大変だけど、ルーが傍に居るし、魔獣討伐に比べたら命の危険も無いし、私的にはなんの問題も無かったわ。


 だけど……


 私ってモブだよね? どうしてこうなったのかしら?


 モブだからって安心しきって色々やらかしたのがいけなかったのかしら?


 スローライフを心掛けて居たら、何故か私の実家であるファステリ領はこの国で一番栄えた街になったし、ルーも私も何故かすっごく民衆受けが良くなっていて、立太子の式典には国中の民が集まったぐらいの賑わいを見せたわ。


 ただモブとしてこの世界を楽しんでいただけのはずなのに……


 そうね、取りあえず今後は、王太子妃としてのお気楽モブライフ始めたいと思うわ。


(それにしても不思議ね……どうしてこうなったのかしら……モブのはずなのに?!)


 

 

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