なんだ
tolico
直感に従え
『今日も舞台の幕が開く。』
その一文を打ったスマホのキーボードを眺めて、私は深く溜息を吐いた。
とある探偵の話を小説サイトに投稿しようとしていたのだ。概要は決まっている。直感に従って難事件を解決していく話だ。
しかし実は彼の直感に従って物語が進行していたというオチのお話である。
「ねえ、ちょっと良い?」
「はいはい、なんでしょう」
早朝6時。起きてから三時間、未だ布団にゴロゴロとしながら、スマホで小説を書きあぐねている私が声をかけたのは、夜勤から帰ってきて早々と着替えパワプロを始めた旦那である。
私と一緒に小説投稿サイトでゆるーく活動している旦那。お互い創作畑に多少なり足を突っ込んだ事がある身で、(旦那はがっつりのような気もするが)得意分野が違うのでよく意見交換をしている。
「今回のお題について」
「直感と直観ね」
「そうそう、最初直感だと思ってたからどーしたもんかと思ってさ」
「その、探偵の話? 書けば良いんじゃない。お題としてはどちらでもいけるんでしょ?」
「まあね。いけそうではある。でもざっくりとしか決まってないし、そもそも探偵ものとか書いた事ないし。直感と直観の違いについても、ちょっといまいち曖昧でねぇ。お話にどう落とし込んだら良いのか、落とし込める自信が湧かないの。まあ今回は書いたことないジャンルにも挑戦してみようと思って全部参加しようとしてるんだけど、でもねー書ける気がしないのよね。また、ダメな気がする」
「それこそ直観じゃない? そういえば1回目は締切り過ぎて2回目は文字数制限勘違いしてたんだっけ?」
「そう。アホだよねー。まあ1回目は締切り1日前に始めたし、間に合わせるより完成させて上げたかったから全然後悔はしてないんだけど。そうか、これは直観か。経験から来る確信めいた何か」
「今まで書いてきたものと経験から書けるかどうかを推測して脳が出した結論だね」
「それにしても仕事中の方がお話思い浮かぶのよね。今回は週末休みで締切も長めなのに全然書けない。お題が難しいのもあるけど」
「集中する時間が欲しいのかな? 僕も独りになる時間がないとなかなか書けないもんね。漫画でも小説でもイラストでも」
「集中。まあ休みの日は休みって思ってるのかもね。大体独り黙々と仕事してる時にお話思いつくもんね。確かにそういうものかも。突然これ書こう! って思ったりする」
「それが直感だね。後付けでも説明出来ない脳の反射」
「成る程」
「直感には正解しかなくて、直観には間違いがあるんだって。私の見解だとね、そう例えばね、料理。美味い! って思うのが直感ね。これはもう、そう思うんだから間違いなんてなくて当たり前。その人がそう思ったんだからそうなんだよね。それで、砂糖これくらい、醤油これくらい。で、出来上がる料理はこんな味だろう。うん、美味い。ってなるのが直観だと思うのね。そりゃあ間違いもある。煮詰めすぎたり不測の事態が起これば濃すぎたりして不味くなるもんね」
「そうね。なんだわかってるじゃない」
「うーん。わかってるのかな。それどうやって物語に落とし込めば良いのかな」
「はっ! そうだ、この会話を書けば良いじゃない!?」
「それ、直感じゃない?」
そんなわけでそういうお話になりました。
お粗末様でした。
なんだ tolico @tolico
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます