第二話:春「消えた男とポトフ」後編
男は、仕込みを終えて休憩をしていた。
市ヶ谷に小さな居酒屋を構えてもう七年近くなる。おかげさまで、どうにかこうにか軌道に乗った。
それもこれも、とあるグルメ本で、星をひとつもらったおかげだ。肩書きのおかげで、男はそこそこ名の知れた料理人なっていた。おかげさまで、ランチ営業をしなくても、夜のお客様だけでなんとかやっていけるようになった。
朝に豊洲に行って旬のものを買い込んで、昼のうちに下ごしらえをする。
そのあと仮眠をとって、予約客の時間に合わせて営業始める。
男の名前は、
自分以外の店員はひとりだけ。ソムリエを目指している青年を雇っている。そして、酒のセレクトは好きにやってもらっている。
「もしもし」
電話越しに、
(お世話になっております。
「はい」
(お
聞いていた話よりも、随分と早い。今日は四月二十八日。日曜日だ。
「本人には、出会えたのですか?」
(はい。ですが、話しかけてはおりません。証拠写真はお撮りしております)
「では、私の事を、
(はい。一応規則というか、なんや、お約束と言いますか……普通に考えたら、ちょっと非常識な行為にあたりますので……あ、でも、伝言はお伝えできますし、どうしてもと
ただ、その際は、五月二日までには、ご依頼いただきたいです。そうしないと、次は七月二十日までは待っていただかないと……)
「では、今から伺います。二時ごろには、着くと思いますので」
(そうですか? ではお待ちしております)
「今日のお客様は、七時からだよな。それまでには戻ってくる」
「は? あ、はい……行ってらっしゃい」
まかないを食べた食器を洗っている青年は、首をかしげながら、慌ただしく店を出る
初めて行ったときは自宅から向かったので、
切符を買ってホームにつくと、幸運にも、笹塚行きの急行電車が到着する所だった。これなら、約束の二時よりもかなり早く着けそうだ。
こちらは、人探しを依頼しているのだ。探している人物が見つかったのなら、依頼主が、つまり俺が、
俺は、
俺は、
自分の身代わりに、ひきこもりになった
「次は
カランコロンカラン
ドアの先では、メイド服を着た店員が、丁寧に頭を下げて出迎えてくれていた。
「いらっしゃいませ。おおきに」
メイド服の店員は、関西弁でニコニコと接客してきた。
二時十五分前だった。
「ちょっと早いですけど、ご案内します。見た感じ、色々とご質問もあられるみたいな感じやし」
「えぇ……まあ」
「では、こちらに」
「コトリです。
「了解。了解。了解」
ドアの向こうから、珍妙な返答があった。珍妙な返答だったが、つややかでとても魅力的な声だった。
ガチャリ
銀の細フレームのメガネの美人は、名刺を出した。
「
「では、こちらに」
陶器のように白い肌に映える艶やかに長い黒髪。切れ長な瞳。銀の細フレームのメガネが乗った主張しない鼻に、同じく主張しない唇。そして最も驚いたのは、
「コーヒーと紅茶、あと、お酢と緑茶がありますけど、どれがいいですか」
「じゃあ、緑茶で」
「お酢はダメ。お酢以外。以外。以外」
と、
「
そう言って、
「こちらが、
テーブルに置かれた写真を見て、
「こっちの、耳がトンガっていない方が、
「はぁ?
この子は明らかにこどもじゃないか!!」
「そのとおり。これが現在の
「いい加減してくれ!! この子供は誰だ! この金髪の少年が
ガチャリ
ドアを開けて、
「なんやぁ? 先生。また説明を
「結論から申し上げます。
「ちょっと待ってください!
あなた前回、
絶対に生きてるって言いましたよね!!」
問い詰める
「はい。ですから、あちらの世界で生きています。
この男の子は、
何を言ってるんだ? ちょっとなにいってるか、わからない。
見慣れたオカルト雑誌だった。なぜなら、
「わたくし共、
そして、わたくし共、
『知らない「味」つくります。 −ビストロ
住所は同じだったが、ビル名の後ろに書かれた階数は、七階ではなく八階になっていた。
「とまあ、こんな感じで、この
ですので、
「と言うことは、もし連れ戻すとしたら……」
「はい。このお子さんが、こちらの世界に来る事になります。
調べたところ、
「この子は、この世界を救う。救う。救う。」
「
「
そして、
満足そうな
「
あっちの世界は、調子に乗らない、人のせいにしない、本当に人の気持ちがわかる優しい人が、絶対必要やったんやと思います。
せやから、春の
ただ、
「失礼ですけど、
お仕事が順調やから、
せやけど、その優しさは、ちょっと独りよがりやと思います。自分の代わりに
「
「ちょ! 先生、余計な事、言わんといてください! すみません、気ぃ悪うしましたよね!?」
そしてその言葉に、
痛いところをバッサリやられた。だが、とてもスッキリした気分になった。
スッキリした
「……
「わかればいい!」
「先生は、黙っといてください!!」
「いえ、事実ですから。自分の事を危うく見失うところでした」
「わかればいい!」
「先生は、黙っといてください!!」
ガチャリ
開いたドアの先には、大きな寸胴を持った、和食の調理白衣を着た大男が立っていた。
「お待たせしました」
大男が
「え!?
「あ、ご存知なんですね、タクミさんのこと」
「料理の世界で、しかも和食の世界で
『知らない「味」つくります。 −ビストロ
「はい。タクミさんのお店です。あっちの世界の
話しながら、
深皿に盛り付けられたそれは、テーブルに置かれると、たちどころに素敵な暖かな匂いを巻き上げた。
料理はポトフだった。西洋料理だった。
だが、ある程度は予想もできた。
ビストロ。
諸説はあるが、ロシア語で〝早く〟。
ロシア兵が「早く料理や酒を出せ」と催促する際に「ビストロ!」と口にしていたのが由来と言われる。
つまりビストロは、酒のアテを素早く出す、カジュアルな料理店兼バーなのだ。
だが、そのポトフは違った。モノが違った。
じゃがいもは「にちゃっ」と切れた。よく煮込まれたじゃがいもでは考えられない「にちゃっ」とした手応えを感じた。
「知らない「味」だ! そうか! このじゃがいもは、
「そうです。異世界のじゃがいもです。食感が全く違う。煮込めば煮込むほど、柔らかくジューシーになる。そのうえ、とても栄養価が高い。素晴らしい食材です」
『ビストロ
「これはもうポトフではない、全然違う料理だと思います。澄んだスープと、ねっちょりとした
それが
「
「別に
「ああ、それいいですねぇ! なんや、ひつまぶし? みたいや!
最初は普通に食べて、次にワサビと
わたしだったら、そのあとお酢をかけて、一度で四回楽しめます!」
「お酢はダメ。お酢以外。以外。以外」
応接間の食卓に、笑顔の花が咲いた。
・
・
・
占いの館の入り口では、
「では、お代は月曜日に振り込みますので」
「おおきに。おこころづけを戴ければ構いません。あ、あと、ほんまに、
「大丈夫です。
「そうですか? そんなことない思うんやけど。きっと、
「そう……ですね。そうあって欲しいです」
ピーン
古い作りのエレベーターが、
「本当に、ありがとうございました」
「おおきに……あ、最後に一言だけ!」
「なんでしょう」
「来年は、いろいろ大変になると思いますけど、
「はぁ……ありがとうございます」
来年はいろいろ大変? どう言う意味だろう。
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幕間劇
こんにちは。
ここまで、お読みいただきありがとうございます。めっちゃうれしいです。
なんや訳わからん話ですみません。
なんでも、異世界ファンタジーミステリーオカルト占いグルメハートフルコメディらしいです。色々とジャンルを渡り歩いて、今のところはとりあえず『ミステリー』に落ち着いているらしいです。
なんや、しっくり来てないみたいやから、ええジャンルがあったら、ハート押してからコメントで教えてくださいって
あ、あとこれは大事な話やから、絶対に言って欲しいって言われたんで、
【この小説はフィクションです】
*実在の人物や団体、並びに実在の小説やマンガ、アニメーションなどとは関係ありません。
そこんとこ、キッパリはっきり
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