第2話 こんなに複雑だったとは
「基、葵が来てるぞ。こっちに出てこいよ」
自分の部屋で、もらったメッセージカードと名前を見ながら顔を思い出そうと前の集合写真を眺めていたら、兄貴に呼ばれた。
……葵? なんだろう。こっちに来るのは珍しいな。
「何? 葵 」
「何じゃないだろー。基がウチに来ないから、持って来たんじゃん? お誕生日おめでとー!はい、これ」
葵は小さなラッピングされた袋をよこした。……なあ、それってまさか……さっきもらったのと似ている袋なんだけど……。
「あ、りがと……もしかして、中はチョコか? 」
葵はキョトンとした顔をしてから、ゲラゲラ笑いながら
「ちょっとお~!なんで僕が基に愛の告白しなきゃなんないの~!笑かすなよ~ひぃ~腹痛い~! 」
と、ほざきやがった。コイツわかってるのか! 今日がバレンタインデーだって。
「あー、葵、コイツさあ、さっきその袋と似たやつもらったから勘違いしてんだわ」
あっ!兄貴! 余計な事をっ!
「えっえっ! うっそ! じゃ、基はチョコレートを誰かからもらったの? えっまじ? 今日だよね? いつ? 」
コイツはママとか、ママの姉の松乃おばさんに似てうるさいんだよ!コイツには知られたくなかったのに……クソ兄貴!
「兄貴だってもらったよね」
「えっまじ? まじ? 始兄(はじめにい)も? いいなあ~茂兄(しげにい)ももらったんだよ! 」
「えっ茂生(しげお)もか!よっし、明日詳しく聞くぞー! 」
「あー始兄、僕から聞いたなんて言わないでよ? 茂兄すぐ怒るんだもん」
俺たちの母親は姉妹だ。お姉さんが茂生君と葵と楓(かえで)ちゃんの母で、松乃(まつの)おばさん。
で、うちの母が妹の琴子(ことこ)。だから俺たちはいとこ。お互いの長男と次男が同い年だから、誰が誰と兄弟とか、いとこなんだか、家も数分で行けるし、近すぎてわけがわからない時がある。秘密なんかないんじゃなかろうか。
「そんな事、話さなくたって葵がしゃべっちゃうくらいわかるだろーが。」
葵からのバースデープレゼントを開けながら言ってやる。コイツは女子みたいにうるさくって。
「そんな事ないもん! 僕、話しちゃいけない事は黙ってるよ! 」
うそこけ。
「葵はもらえなかったのか? 」
ナイス兄貴! ナイスツッコミ!
葵はしれっとしていた。あん? ダメージないんか?
「うん。僕も欲しいな、って言ったら、お母さんと楓でチョコレートケーキを買いに行ってくれたんだ。だからケーキが食べられるの。こういうの海老で鯛を釣る、って言うんだよね? 僕とお父さんはラッキーなんだ。」
「なんか:違くねえ? 」
兄貴の言う通りだ。なんかズレてるよな、葵は。
「あっ! 俺の欲しかったやつだ……!」
コーヒーのドリップのパックになっているやつと、カードゲームのパック。
「うん。前に欲しい、って言ってたから。レアが入ってるかわかんないよ。期待しないでね」
「おう、有難う、葵! 」
「僕の時はタオルハンカチとねえ、ミニタオルだからね? 」
「……は? 」
「おい、基、葵と物々交換してんのかよ? 」
兄貴が笑いをこらえている。
「違うよ、始兄! 純粋な誕生日プレゼントだよ! 」
……おい、純粋なやつが自分の欲しい物をねだるのかよ、全く。
リビングでだらだらしながら兄貴と葵と話していると、ここはうちのリビングなんだけど、葵んちに居るみたいに思えておかしい。葵がくつろぎすぎなんだよ!
「ね、基、誰からもらったの? 」
「……えっ……? 」
「それがさあ、三個ともポストに入ってたんだよこれが! 」
「えーっ、郵送なのお? 」
「いや、直に自分たちで入れたんじゃね? 」
「兄貴! おしゃべりだな!!兄貴も! 」
葵が身を乗り出して聞いている。
全くお前は……うちの母親みたいだな。
そこへカップケーキと紅茶を盆に乗せてやって来た葵と同類の本人が、
「ねっ、ねっ、ママにも詳しく! 葵も知りたいわよね~? 」
なんて……言って来やがった。
二人して頭を傾けて、「ねーっ? 」なんてやってやがる……お前ら親子か!
さすがの兄貴も、二人の行動に「なんなのあんたら? 」みたいな顔をしている。うん。兄貴、そう思うよな。
「まだ、調べている途中だから、言わない。教えない」
これは本当だ。
「知ってる子だったの? お返事はどうするの? 」
「えっ知ってる子だったの? 」
ねえ、どうしてこの二人はこんな反応ばっかりなんだよ。
「……まだ相手がわからないからわからない」
「ねえ、それよりママ、それって俺らにくれるんだよね?」
テーブルの上に置いただけで、俺らはお預け食らってるんですけど。
「あら、やだわ。ごめんなさい! さあ、どうぞ召し上がれ。 葵は夕ご飯こっちで食べていく? 」
「いっただっきま……あ? ご飯? あ、大丈夫。うちでチョコレートケーキが待ってるから帰る」
「あら、そうなの? 」
……普通そっちは待ってないと思うが言わない。この二人の会話にはついて行かない。
「ねえ、あなたたちって、好きな子はいるの? 」
なんでこんな時にそんな質問をしれっと言えるんだようちの母親は!!
カップケーキでむせそうになる。慌てて紅茶をひとくち。ママ、俺はコーヒーの方がよかったな。
俺は内心舌打ちをかましたかった。兄貴はいるのかな。好きな子。葵はいるわけない。そんな気がする。いつも一緒にいるけど、そんな話題にもならないし。
「俺は仲がいい子はいるけど……好きか? って聞かれたら、ふつうだと思うから……いない 」
……兄貴、何マジに答えてんだよ。
「僕も、女子とは仲がいい方だと思うけど……好き、ってどんな感じの好き? 気が合う好きとは違うよねえ? 」
「そうねえ。特別にこの子がいいな。って感じかしらねえ。」
……ママ、TVのコメンテーターじゃないんだからさ……葵も乗るなよ!
「……。」「……。」
なに……この間。
「基はいないの? 」
「なんで」
「え?じゃあ、いるの?」
「いないよ。うるさいし、なんにでも興味津々だし。うざったいし」
「葵かよ」
「ひどい。僕違うもん」
そう言われてみればお前だな……。
「ホワイトデーも考えるようだわね」
「考える? 」
「お返事の内容によって、お返しする品物が違うのではなくて? 」
なんなんだ。 そんなに複雑だったのか……?
どうやらいろいろ意味が違うらしい。
やはり女は面倒くさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます