Work 4
サトウ:『まさか、テクロで泳ぐとは思いませんでした』
怒られなかったけど、サトウさんはあきれたみたいだった。
テクロの修理はひとまずなし。
充電せず、日の当たる場所で丸一日乾かして様子を見るって。それで直らなければ修理らしい。
ぼくは久しぶりに窓を開け、日向にテクロを寝かせた。
今日はカホに会いに行けない。
あの場所で、ぼくをずっと待ってたりしないといいけど。
何となく窓の外を眺める。ここからじゃ橋は見えないけど、山から続く崖と、そこに小さく突き出した岬が見える。あそこからなら町も橋も一望できるはずだ。
引きこもる前に一度だけ、あの岬を探したことがある。
上から見ると近そうだけど、実際に行くと登り坂の続く山道で大変だったっけ。
でも、岬には行けなかった。道の途中に柵があって、立ち入り禁止だったんだ。岬の下は絶壁だから、しょうがないんだけど。
あの場所に、カホと二人で行けたらいいな。
そんなことを考える自分に気が付いて、急に恥ずかしくなった。
テクロが直れば、不可能じゃないかも?
いや、危ない場所にカホを誘うのはやっぱりダメだ。
翌日、テクロはちゃんと復活した。
放課後を待ってから、ぼくはさっそく町に繰り出した。
「あ、来たー!」
橋の下で、制服姿のカホが待っていた。
「昨日はごめん」
「んーん。調子悪そうだったしね。もう治った?」
「うん。もう直った」
ぼくとカホは河原に腰を下ろし、話を始める。
今日の授業の話。好きな給食。昨日見たアニメ。
それに、ぼくについて。
「タクロウくん、なんで制服じゃないの?」
「あ、ひ、引っ越してきたばかりだから」
「そうなんだ!
わたしもだよ。先月この町に越して来たんだ」
道理で見覚えがないはずだ。
「じゃあ、近いうちに学校でも会えるんだね。
同じクラスだといいなー」
「あ、うん。そうだといいよね」
口ごもりながら、何とかごまかすぼく。
テクロで登校するのはさすがに無理だ。バッテリーは三時間しかもたない。
今日も、そろそろ時間切れだ。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。待ってる」
夕焼けの中で手を振るカホの影を何度も振り返った。
生まれてから、今が一番幸せかもしれない。
でも、彼女が見ているのはテクロなんだ。ぼくじゃない。
それでも明日また、ぼくは橋に行く。きっと、必ず。
理屈じゃ止められない気持ちって、本当にあったんだ。
いつまで続くかわからないけど、今はカホと会いたい。
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