いとこ

数日後,ヒカルがまた海辺まで来た。前回とは違って,母親がすぐに現れた。


「この間は,なんで来なかったの?ずっと待っていたよ。」

ヒカルが寂しそうに尋ねた。


「あまり頻繁に会わない方がいいと言ったでしょう?」

ヒカルの母親が率直に言った。


「わざと来なかったってこと?」

ヒカルが恐る恐る尋ねた。


「まあ…そういうこと。」

母親が辛そうに言った。


「会いたくないの,僕に?」

ヒカルが悲しそうな顔をして,訊いた。


「会いたいよ…でも,一緒にいることだけが愛情じゃないの。」

母親が申し訳なく弁解した。


ヒカルは,これ以上追求しても仕方ないと諦めて,話題を変えた。

「今日は,報告があるの!この間ね,友達が出来たの!僕より大きいけど,彼女のお父さんもセルキーで,とても優しい人だよ。この間、僕を家まで送ってくれた!」


「この間一緒にいたお姉さんね?」

ヒカルの母親が尋ねた。


「え?見ていたの!?」

ヒカルは,驚いた。


ヒカルの母親は,小さく頷いた。


「ホタルというんだけど…。」

ヒカルが言った。


すると,母親は,目の色が変わった。

「ホタル!?私の兄の子は,ホタルというんだけど…兄も,人間の子供がいてね,会ったことがないと言っていたけど…会っていたんだ。」


「最近初めて会ったって言っていたよ。」

ヒカルが付け加えた。


「ふーむ,何がきっかけなのかな…?兄は,人間の子供とは,関わらない方がいいという立場なの。絶対に会いに行かないと言っていたし,私がこうしてヒカルに会っていることもよく思っていなくて,いつも釘を刺されるの。無視しているけど。」

母親が考え深く言った。


「きっかけは,知らないけど…。」

ヒカルが顔をしかめた。


「じゃ,あの子なら,友達とかじゃなくて,あなたのいとこだよ!」

母親が訂正した。


ヒカルは,何も答えなかったけど,ホタルがいとこだと聞いて,なんとなく嬉しかった。


「今度,連れて来ていい?会ってくれる?」

ヒカルが尋ねた。


「いや,それは良くないわ!兄は激怒する。悪いけど,やめとく。」

母親がきっぱりと断った。


「そうか…。」

ヒカルが寂しそうにつぶやいた。


「そして,今日は,もうそろそろ行くね。」

母親がヒカルから離れ始めた。


「時間制限でもあるの?」

ヒカルが母親を引き止めたくて,訊いた。


「え?ないよ…ただ、あまり長い時間は良くないから…。」

母親が説明した。


「なんで,一緒にいたら,ダメなの?」

ヒカルが尋ねた。


「ダメじゃないけど…また来るね。」

母親がそう言ってすぐに,逃げるように,姿を消した。


ヒカルは,思わずため息をつき,うなだれた。15分以上,母親にそばにいてもらったことがない。何回会っても,目の前に座っていても,母親がすごく遠い存在に感じてしまう。近くなりたいのに…。もし,何か引き止める方法があれば,母親を引き止めたいと思った。


沈んだ気分で帰路に着いたヒカルだったが,家に向かって歩き始めると,向こうから,自分の方へ歩いてくるホタルの姿が目に入った。ヒカルの気分は,一瞬で変わり,明るくなった。


「ホタル!」

ヒカルがホタルを呼び止めた。


「あら,どうしたの?」

ホタルがヒカルの顔を見ると,嬉しそうに笑った。


「お母さんに会いに来た。」

ヒカルが答えた。


「そうか…今日は,会えたの?」

ホタルは,寂しそうに砂浜に座り,母親を待つヒカルの姿を思い出し,しみじみしながら,尋ねた。


「会えた!でも,すぐ帰っちゃった…。」

ヒカルが少し寂しそうに言った。


ホタルは,ヒカルの気持ちを汲み取り,頷いた。

「もっと,一緒にいてほしかったね。」


「でもね,僕たちがいとこだって!」

ヒカルが興奮を抑えられない口ぶりで言った。爆発しそうな興奮が表情にも表れていた。


「え?」

ホタルは,ドギマギした。


「ホタルのことをお母さんに話したら,兄の子供だって,いとこだって言ったよ!」

ヒカルは,興奮で飛び上がりそうになりながら,話した。


「え?そうなの!?いとこなの,私たち!?」

ホタルは,直接自分の耳で聞いていない話だから,半信半疑ながらも,どことなく嬉しかった。


「そうだって!そして,ホタルがお父さんに会ったって言ったら,驚いていたよ。兄は,人間の子供に会わないって言っていたって!」

ヒカルが喋り続けた。


「そうだろうね…。」

ホタルがヒカルから目を逸らし,寂しそうにつぶやいた。


「でも,会ってくれたでしょう?」

ヒカルが問いただした。


「いや…無理矢理だよ…私が呼び出した。」

ホタルが説明した。


「どうやって?」

ヒカルは,興味津々で,身を乗り出して訊いた。


ホタルは,涙を7滴海に落とせば,セルキーが現れる,現れなければならないことを簡潔に説明した。

「でも…もう,呼び出さないつもり…。」


「なんで?」

ヒカルが訊いた。


「無理矢理だと,良い関係は作れないし…傷つくだけだから。

ヒカルのお母さんは,無理矢理じゃないから,よかったね…。」

ホタルが寂しそうな笑みを浮かべて,言った。


しかし,ヒカルは,あと1分でも長く,そばにいてくれるのなら,無理矢理でもいいと思った。

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