第5話 ばい菌

『○×大学、学園祭で集団食中毒が発生しましたが、全員快方に向かっています。警察と大学関係者によりますと……』


「食中毒か~。私達も気を付けなくちゃ…」


 お姉ちゃんは、テレビの画面を見ながら呟く。

 晩ご飯の時間。私とお姉ちゃんは、テレビのニュースを見ながらご飯を食べている。


「そうだね、お姉ちゃん!」


 私はお姉ちゃんの言葉に対して、そう反応するが……


「ところで恵那。この煮物……3日前のじゃない?」


 晩ご飯のおかずの、大根とはんぺんの煮物。確かに3日前に作った物だが、毎日きちんと日は入れて有る。


「そうだよ!」


 私はそう答える。


「でも、さっきテレビでさぁ…」


 お姉ちゃんは先ほどの食中毒のニュースで、この煮物が大丈夫か思っているのだろう。


「捨てるの、勿体ないじゃん!」


「まあ、そうだけど…」


 お姉ちゃんは、そう言いつつ、煮物を食べている。

 私も食べているけど、腐っている味はしない。


「まだ、沢山有るね…」


 3日前に作った煮物なのに、まだ器に半分ほど残っている。

 この感じだと、今日も残りそうだ。


「うん…」


 冷蔵庫で保管していた大根が、水分が抜けて“しわしわ”になりかけていたので、全部使ってしまったのは良かったが、沢山の煮物が出来てしまった。


「もう……、捨てよっか?」


 お姉ちゃんは、そう言い出した。


「やだ! 勿体ない!!」


 私は即答する。


「でも恵那…。これ以上残しても、いくら冷蔵庫でも腐る可能性も大きいし」


「う~ん」

「たしかにそうだけど……やっぱり残す。私が責任もって食べる!」


 私がそう言うと、お姉ちゃんは諦めるようだ。


「恵那がそう言うなら、お姉ちゃんは何も言わないけど……」


 ☆


 今日も日記を書き終わって、私は眠りに就くが……


 ……


「う~ん、お腹が痛いよ~。気持ち悪い~」


「恵那!大丈夫!!」


「おっ、お姉ちゃん……何か変だよ」

「お腹が痛いし、気持ち悪いし……、変な汗がいっぱい出て来るし…」


「恵那!」

「あの煮物が当たったのよ。無理して食べるから!!」


「そう……なの……かな?」


「それしか無いわよ!!」

「直ぐに、救急車呼ぶからね!」


「うっ、うん…」

「……うっ、うげぇ~~~」


「恵那~~」


 ……


 がばっ!!

 私は飛び起きる。


「……夢。何かリアルな夢だった…」


「……」


「捨てよう……あの煮物」


「私が食中毒を起こしたらお姉ちゃんを困らせるし、もしかしたら、お父さん・お母さんも帰って来ちゃうかも、そうしたら―――」


『ブル、ブル』


 私は、体を震わす。


「嫌だ! 私はここを離れたくない!!」


 翌朝……


 私は『ごめんなさい』と言って、残した煮物を生ゴミに捨ててしまうのでした。

 勿体ないけど食中毒は嫌だし、今の生活を守りたいから……

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