13.女友達のツッコミ Side スージー
Side スージー
下町の細い道を家に向かって歩いてる途中、楽しそうな声と一緒にいきなり背中を叩かれた。
「スージー、久しぶり」
「ああ、ユッタ、久しぶり」
「男爵様のお屋敷で働いてんだって? 給金いいの?」
「ただの下働きだもん、全然」
「お屋敷で働き出してから、夜這い断ってるって聞いたよ? 誰か良い人できたの? 私にも紹介してよ」
「……いないけど」
「いないけど? いないけど、なんなの? 教えなってば」
幼馴染のユッタが目をらんらんとさせて、腕を組んできた。こういう話が大好きなのよ、こいつ。しかも、聞いたあとで笑いものにする酷い奴なのよ。でも、レオのことをちょっとばかし話したいなぁ、と思ってたもんだから口が滑ってしまった。
「紙をね、落とすのよ。何回も」
「はあ?」
「私が拾って渡すじゃない? そしたらさ、私の手の近くを掴むの」
「はあ? 意味わかんない。手ぇ握んじゃなくて?」
「握らないの。でも、掴む場所がだんだん近くなってくるの」
「はあ? ちょっとずつ近くってなにそれ。気持ち悪っ」
「違うの、スレてないんだって。すぐ赤くなるし」
「はああ? ……あんたまさか、子供に手ぇ出してんの?」
「私より年上だって!」
「年上ぇ? それで、そんなことしてんの? 気持ち悪い。女に相手にされない感じの男なワケ?」
「え、いや、全然。普通」
「はあ? ワケわかんない」
「……そうよね。もういいわ」
「面白い話かと思ったのに、変な話聞かされちゃった。大丈夫? そんな変な男に惚れこんで」
「……惚れこんでないわよ」
「惚れてるでしょ。夜這い断って、みさお立ててんじゃない。イライラするから、さっさと押し倒せば?」
「なんで、あんたのイライラに合わせて押し倒さなきゃいけないのよ」
「なんだ、押し倒す気あんじゃない。手も握れない男がどういう反応したか教えてよね~」
そう言ってさっと私から離れ、近所の男のほうへ向かって行った。おおかた、今夜の話でもしてるんでしょ。
違うって言いたかったのに。……違わないけど、違うのよ。だって、なんか、こんなの初めてだし。
贈り物は嬉しかった。ものすごく。
レオを避けて机に紙を置いたときの傷ついた顔が辛くて、手荒れが恥ずかしいってバカ正直に言っちゃってから、レオが紙を落とさなくなって、これで終わりかなと思ってたから、余計に。
ハンドクリームだったから、私の言ったこと覚えててくれたんだって、踊り出しそうになるくらい嬉しかった。受け取れないって言ったときの、血の気の引いた顔が苦しくて、どうしたらいいか必死に考えて、レオの机に置いてもらうことにしたまでは良かったのよね。
……あれはないでしょ。あれはちょっと、私がおかしくなりそうだったわ。
優しく優しく撫でるのよ? 私のでっかい手を! 男みたいだって散々言われた手を! ガサガサで触り心地なんか良くないのに、大事な物みたいに丁寧に塗ってくれて。こっちが照れるって。
手も握ってこないくせに、いざ握ったら、あんな……、あんな、触り方して。とんでもないわ。
私が照れてるのを見て、優しく笑ってさ。何よ、あの余裕の笑みは。いつもは自分のほうが真っ赤になって狼狽えてるくせに、いざとなったらなんなの。
それに、……なんなの、唇までさわるとか、ありえないわよ。そういう意味じゃないのに、嬉しそうに準備するから言えなくなったじゃない。だって、断ったらまた悲しそうな顔するんでしょ? ズルいわ! 断れないでしょ!
それでなに、あの触り方! 腰抜けるかと思ったわ!あんなゆっくり触らなくたって、いいでしょ。早く終わらせればいいのに。優しくするし。
私に塗った後で、こっそり自分の唇に塗るなんてことして。恥ずかし過ぎて変な声が出そうになったじゃないの。それなのに、口付けしないってどういうことよ? 私をどうしたいの? 生殺しじゃない。
もう、ダメ。私がおかしくなる。ホント、おかしくなるわ。
次からは自分で塗るようにしないと、そのうちホントにトチ狂ってどうにかなっちゃいそう。なんで私の忍耐が試されなきゃいけないのよ。
ユッタだったら絶対に押し倒してるわね。絶対に。私はできないわ……。ドキドキし過ぎて死にそうだもん。
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