11.あなたへの贈り物


 そわそわしながらスージーを待ち、いつも通り部屋に入って来たところで、心臓が飛び跳ねた。ポケットの中の贈り物を握り締めて、唾を飲み込み、大きく息を吸って声を掛けた。


「…………、スー」

「はい?」

「あ、あ、あ、あの」


 こめかみが脈打って、顔が熱い。

 どうしよう、もしかしたら迷惑かもしれない。ハンドクリームだなんて、手荒れを治せと言っているみたいで失礼かもしれない。

 いまさら後悔が湧き上がり、怖くて顔を見ていられなくなった。


「レオ?」


 俯いて黙ってしまった私の方へ近づき、手を伸ばしても届かない距離で立ち止まる。

 2人の間に横たわる、この距離が疎ましく悲しかった。この距離から少しでも近づきたくて、贈り物を手に乗せ、思い切ってスージーに差し出した。


「こ、こ、これ」

「なあに?」

「……スーに」

「……贈り物? 私に?」


 頷いてから、目だけを上げて顔を窺った。私を見つめるスージーの困った笑顔に、喜んでもらえるかもしれないとういう淡い期待は掻き消えた。すぅっと手足が冷えていく気がする。

 迷惑だった? 私はまた失敗したのだろうか? また間違ってしまった?

 息が上手くできず、呼吸が浅くなる。


「ありがとう、レオ。すごく嬉しいんだけど、そんなに高そうなものは貰えないわ」

「……た、た、た、たかくない」

「レオには高くなくても、私には死ぬまで買えない物なのよ。ねえ、ホントに嬉しいし、もっと安物だったら受け取ってたと思う。だから、そんな顔しないで」


 そんなに酷い顔しているだろうか。ああ、でも胸が潰れそうだ。

 心配そうに私を見つめるスージーが悲しそうに微笑んだ。


「レオ、なんで高いものは受け取れないと思う?」

「……わ、わ、わからない」

「ふふふ、レオには縁のないことだろうからね。……あのね、私みたいな下町の人間が、そんな高級品持ってたら盗んだと思われるの」

「お、お、お、おくりもの、なな、なのに?」

「贈り物でもよ。嘘つくなって言われちゃうわ」


 でも、中身はただのハンドクリームで、宝石や香水なんかじゃない。誤解しているのかもしれない。

 誤解を解きたくて、焦りながらリボンを解きクリーム瓶を取り出した。蓋を開けて中を見せる。


「ハ、ハ、ハンドクリームだから」

「……ふふっ、私が言ったこと覚えててくれたの? 嬉しい、すごく。でも、やっぱり貰うことはできないの。家に置いておいたら、パンと交換することになっちゃうかもしれないし」


 気を遣って微笑むスージーに申し訳なくて、受け取ってもらえないことが悲しくて、迷惑をかけることしかできない自分が惨めだった。


「……す、す、すまない」


 謝罪の言葉は俯いた私の口の中でくしゃくしゃになった。

 本当に嬉しいのよ、と言ったスージーの声が遠くで聞こえる。これ以上、気を遣わせたくないのに、俯いたままの体が動かない。


「あ、そうだ!」


 急に聞こえたスージーの明るい声に驚いて顔を上げると、悪戯を思い付いた子供のように生き生きした目で私を見ていた。



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