NTRじゃねぇから





部室の扉を開けると、男と女がシていた。


男二人女一人の幼馴染で始めた天文部、部員は未だ三人だけ。つまり今ここでおせっせしているのは僕の幼馴染の男女二人組である。


まあ、つまるところ僕の男幼馴染が僕の女幼馴染にずっこんばっこ……いやいやそんなことはどうでもよくて。


問題はただ……。


「ち、違うの!卓也!これは…」


「卓也……ごめんな俺、我慢できなくてつい……」



なんか、僕が寝取られたみたいになっていないか?







僕、新見卓也と原紗南と田所臨は仲良し幼馴染三人組。保育園の頃から高校までずっと三人で過ごしてきた。


惚れた腫れたがないまま、ダラッ〜とここまで仲良くしてきた。そのつもりでいたのに…。


 

「ごめんね、卓也…」


「ごめんな…」



これだよ。



(ご、ごめんってなんだ………?)


謝るのは僕の方では?だって二人ただラブラブしてただけだもんね。そこに僕が割り込んじゃっただけだもんね?


猿って交尾を人に見られてたらキレるじゃん。それと一緒でしょ、普通怒られるの僕でしょ。


てか何の"ごめん"だ?どういう意図なの?ドッキリなのか?ドッキリにしては体張りすぎだろっ!


ふと、二人が僕のことを凝視していることに気づいた。


ここで黙りこんでしまっていれば二人が困ってしまうだろうと思い、僕は慌てて二人に笑いかける。


「い、いや…全然気にし」


「強がらなくて良いんだ、卓也。なんなら今ここで殴ってくれたって良い。」


話を聞けよ!全然聞く耳持たないじゃん!強がってないけど!?てか服を着ろよ!!!


「いや、どういう…」


。」


「!?」


I don't love her.(私は彼女のことは好きではありません。)


僕の頭のなかのマイケルが静かにそう告げた。そうだよなマイケル。別に僕…。



僕が好きなのは国語の美香先生だったよな!?ちょうど今ラブレターを部室に忘れたことに気づいて取りに来たところだったんだよな!


今日告白するつもりだったんだよなあああ!!!


てか僕たちいい感じだったの?普通だったじゃん。どこからそういう空気を見出したのか懇切丁寧に教えてくれよ!


てかやめろやその勝手な思い違い!美香先生に誤解されたらどうすんだよ!


まずは否定しなければ…。


「いや僕は別に紗南のことなんて……っ!?」



ここで僕は言葉に詰まってしまう。それはあることに気づいてしまったからだ。


(待って。今ここで否定したとしても『強がり』あるいは『負け犬の遠吠え』にしか聞こえないのでは?)


『別に紗南のことなんて好きじゃかったし!』


『全然気にしてないし!』


『あ、覗いてごめん…(逃走)』


『お、応援してるよ…』


全部女の取り合いに負けた男の妄言にしか聞こえないもんね!八方塞がり!背水の陣!!!


てか待って!?今日美香先生に告白したら『幼馴染にフラれたから私に告ってきたのかな?』って思われるじゃん!


逃げることすらできないじゃん!!!



「卓也…」


「今度は何!?」


「ひぃっ!」


紗南が僕の名前を妙にしおらしく呼ぶのが癇に障り、めちゃくちゃ大きな声が出てしまった。これも強がってるみたいじゃん!罠だよね完全に!!


「ご、ごめんね卓也……私、あなたを好きでいることに疲れたの。卓也いつまで経っても私に告白してくれないし、私だけが好きなのかなって不安になったりして…」


「それで俺が慰めてるうちに…な。つい、そういう関係になっちゃったりして……。」


「私ずっと待ってたんだよぉ!」


「…………し」



知らねぇぇぇよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!


『私だけが好きなのかな?』じゃねぇんだよ!お前だけが好きだったの!僕は好きじゃなかったの!!!


勝手に待ってて勝手に疲れただけじゃん!!!勝手にすっこんばっこんしてろよぉ!!!


てか、おめでとおおおおおおお!!!!!


こんな状況じやなかったらめちゃくちゃ祝ってたけどね!めちゃくちゃ気利かせてあげてたけどね!!でももう祝えないね!そんな余裕ないもんね!!!


てか服を着ろやああああああああ!!!!!



「「し?」」


「…………イヤ、ナンデモナイヨ。」


ああ、この『ナンデモナイヨ』も強がりに聞こえるんだろうな……強がりの雁字搦めや………。



ていうか、前提からよくわからないんだけど!


「いやいや待ってくれ!僕がいつ紗南を好きだと言ったんだよ!」


紗南が僕と相思相愛だと思った理由がまるでわからない。何もおかしいことはしてないし言ってないはずなんだけど…てか、いつから?


「見てればわかるさ……俺だってずっと紗南を見ていたんだから……。」


「見てただけなの!?それで二人して確信してたの!?」


「それだけじゃないわ!卓也前に言ってたじゃない!」


「は?僕がなんて…」


「前に二人で帰ってる時に言ってくれたじゃない!『僕は優しくて誠実な人が好きかな?』って完全に私じゃん!ていうかもう私以外いなくない?そんな人!」


「!」


「しかも私の目を見て言ってたじゃない!!」


「!?」


該当者が多すぎる…!


ありきたりすぎるだろ昔の僕!てか逆に自分のこと『優しくないし誠実じゃないよ』なんて言う人いるわけないだろ!女なんて全員自尊心の塊なんだぞ!どんな女でも心の奥底に魔物の如き自尊心が眠ってるんだぞ!?


何が『私以外いなくない?』だ!優しくて誠実な人間なんて世界中どこ探しても居ないんだよバーカ!!!


清濁合わせて大人になるんだよ!!!見ろよ美香先生を!今日も死んだ目をしてたぞ!あの足で踏まれてぇ……!


僕が好きなのは『顔F胸A尻A性格ドSの三十路女』だわ!


てかいい加減服を着てくれって!ずっと連結してるじゃん!そういうプレイなの?それともオブジェなの!?


え、抜けないの?もしかしておせっせとかじゃなくて最上位のラッキースケベが起きてたまたまそのじょうたいになっちゃって抜けなくなっちゃっただけなの!?


やめてよ!こんなこと作者に書かせないでよ!!!



「それにまだ理由があるわ!!!」


「いやもう……何?」



「………っ!?」



僕の脳裏を電流が走った。


男男女の三人組の幼馴染で惚れた腫れたがないクリーンな関係なんて存在しない。これは言わば真理である。


そしてほとんどの作品において、彼らは必ずNTRを引き起こす。その証拠にHに取り憑かれた男共は男男女の幼馴染三人組を見た瞬間心のどこかでNTRを期待するだろう。


これはである。


僕たち三人組はこの世に生を受けてからNTR展開を生じさせる運命の下にあったのだ!!!


僕の意思は別として。



「いや…そうだな………。」


紗南も臨もNTRに染まりすぎてしまっている。大方NTRものの大人向けのコンテンツを見過ぎてしまったのだ。


物事には致死量というものが存在する。水も塩もNTRも、取りすぎてしまえば脳が死んでしまうのだ。


逃げよう。こんなところにいたら頭がおかしくなってしまう。一刻も早くラブレターを持って帰ろう。


「紗南、臨、わかった。百歩譲って僕が紗南のことを好きだったってことにするから。だからこのことは誰にも言わないでね、この場では何もなかった、いいね。」


「ちょっと!何もなかったわけじゃないでしょ!?嘘は良くないわ!言うべきよ!!!」


「嘘つけなんて言ってねぇんだよ!!!黙ってればいいって言ってんだよ!!!」


てか言うつもりだったの?なんで?どういう思考回路してるんだ?こいつら僕のこと大嫌いだろこれもう。


僕はため息をつきながら部室へと一歩足を踏み入れる。当然、机の隅に置かれたラブレターを取るためなのだが…。


「お、おい!」


「うわ!な、なんだよ!」


「お前何普通に部室に入ってきてるんだっ!?頭おかしいのか!?」


「言い過ぎだろ!てかそもそも何で部室でシてるんだよ!公共の場所なんだよ!学校だよ!?僕明日からどんな顔でここ来ればいいの!?」


「ここが一番興奮するからだ!!!」


「君たちどんな顔してここに来てたの!?」


てかこの部活続けられる自信ないんだけど…僕が天体観測が好きで始まった部活じゃなかったこれ。何で僕が追い出される空気になってるの?


え、NTRなの?寝取られたのは紗南じゃなくて天文部もとい部室でしたってオチなのでは?


一丁前に虚しさが僕を襲ってるんだけど…。


「…いや、忘れ物を取りに来ただけだから。すぐ出て行くから。もうその後思う存分にしていいから。」


そう言って僕は部室へと入り、机の側に近づいて…。




「え」


「「「え?」」」




突然部室内に響いた4


冷や汗を垂らしながら僕が振り返るとそこには天文部顧問であり僕の想い人である美香先生が立っていた。


彼女は死んだ目を見開いて唖然としている。それもそのはずだ。自分が受け持つ部員の二人が裸でくんずほぐれつしていて、それをこれまた部員の一人が見ていたのだから。


しかもその3人は幼馴染と来ている。これはもう…。



「新見、お前…。」


「先生待ってください、誤解です。」


「いやだってこの状況は…あまりにもアレに酷似していて……。」


「僕もそう思いますけどそうじゃないんです。深呼吸しましょう先生お願いします。」


「新見!」


「先生!」


「お前…寝取られたのか………?」



片想いしている女性にNTRを疑われた今日、僕の心は粉々に砕け散ってしまった。今ここでこの掌に握る恋文をそっと彼女に渡したところで、もう僕の甘くて淡い恋心は真っ直ぐには届かないのである。


NTRという小汚いフィルターを通してしまうのである。


これはもうアレだ……先生が傷心の僕を慰めてくれる真ヒロインポジについていない限りもうダメなケースだ。


僕は膝から崩れ落ち、涙混じりの声で叫んだ。




「NTRじゃねぇから!!!!!」

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