第4話 さて、行きましょう
セルドの家は村から少し離れた位置に立っており、私は遠目に見える村が楽しみでつい早足になります。
その後ろを荷物持ち、もといセルドが若干不満そうな顔でついてきています。
なぜそんなに不満そうなのか気になるところではありますが今は放置でいいでしょう。
「で、まずどこから行きたいんだ?」
「行きたいところといえば…そうですね、まずは私物の宝石などを買い取って貰いたいのですが」
旅のための資金を鞄には入れているのですが、ここがどこだか分からないので同じ通貨かどうかも怪しいですからね。
「ああ、それならいい値で買い取ってくれる店を知ってる」
「さすが騎士様ですね、頼りになります!」
「……」
なんでしょうか、まだ不満げな顔をしています、というか先ほどより更に不満そうな顔になっています。
「あの、そんなに私の買い物に付き合わされるのが不満なんですか?」
「そういうわけではない」
「じゃあなんなんですか?さっきから」
「いや、それはまぁ」とブツブツ小さな声で呟き始めました。
私は歩くのを一旦やめセルドの顔をじっと見ます。
「言いたいことがあるならどうぞ、言ってください」
私もこれから少しとはいえ共に旅をする相手とのいざこざはごめんです、今のうちに不満は言い合って直せるところは直さなければなりません。
「正直言うとだな、とても下らないことなんだが」
セルドは頭をガシガシと掻きながらボソッと呟きます。
「名前、まだ呼んでもらってない」
「はい?」
「お互い自己紹介したのに、あなたとか、騎士様だとかでまだ名前呼んでもらってない」
ああ、そういえばそうでした、よく考えてみれば私は彼の名前をまだ呼んでいなかったのです。
なるほどそれが不満だったわけですね。
「名前を知っているのに呼ばないというのも失礼でしたね、すみません」
「いや、謝られるような事じゃ…」
私が頭を下げるとセルドは慌てて止めようとしてきます、おそらく謝られるどころか笑われるとでも思っていたのでしょう。
その後は私が、俺が、というよくある展開になってしまいましたが、とりあえず今後不満があればすぐ相談と約束し村に向かって歩きます。
ーーーーーー
あれから少し歩き村につきましたが、大広場の中心には大樹が一本生えており、根っこは図太く大地にしっかりと根を張っていて、樹齢100年はいっていそうな感じです。
その大樹を囲うように家や店が立ち並んでいて、店から香る食べ物の匂いについお腹がぐーっと鳴ってしまいます。
楽しそうな笑い声や話し声が周囲から聞こえ、人々は活気に溢れて、まるでお祭りのような雰囲気でした。
「これはもう村というより街ですね、いつもこんなお祭り騒ぎなんですか?」
「いつもは賑わってはいるがここまでじゃないな、大樹に果実が宿ったんじゃないか?ほら、あれ」
セルドは大樹の方を指差しました、その指先を視線で辿ると黄金の果実が一つありました。
太陽光に反射し輝くその実はとても美しく、少しの間目を奪われてしまいました。
「精霊の果実といってな、何十年かに一度ああして実るんだ。噂ではあの果実を食べると、不思議な力を得られるとか」
「例えばどんな力なんですか?」
「不明、実を食べた人間は口を揃えて、言えない、果実を食べた物だけが知ることを許されると言っている」
果実を食べた物だけが知ることを許されるですか、それは気になりますね、あの果実はいくらするのでしょうか、ぜひ食べてみたい物です。
力に関しては教えるとその力が無くなるだとかの特殊条件下でのみ使えるという可能性もありますね。
「欲しいのか?」
私の顔によほど出ていたのか、または彼が鋭いのか直ぐに気づかれてしまいました。
「ぜひ欲しいところではありますが、よそ者の私には譲ってはくれないと思いますが」
そうだ、セルドの騎士としての立場を利用して貰うことはできないでしょうか?
でも彼はそういう事は苦手そうですし、頼むのも悪い気がします。
「可能性ならあるぞ、この後行われる収穫祭であの果実は持ち主を選ぶんだ」
「持ち主を選ぶなんて、まるで意思を持っているようですね」
あの果実は選ばれた物以外には触れることすらできないらしい、なので収穫は短時間のみ触れることのできる精霊が行うらしい、名前の由来はそこから来ているようです。
なんにせよ、可能性があるなら収穫祭とやらに参加することにしましょう。
「収穫祭が始まる前に用事を済ませましょうか、行きますよセルド」
さあ、はやくはやく、とセルドの手を引こうと掴みます。
手は思っていたより大きく、たくましい物でした、さすが何年も剣を振っているだけはあります。
セルドはというとなぜか私から顔を逸らし動こうとしません、なぜでしょうか?
「時間は有限なのですよ、はやく行きましょう」
「ああ…」
疑問に思った私はセルドの顔を覗き込もうとしますが、再びセルドは顔を逸らします。
そこでふとあることに気がつきました、セルドの耳です、よく見ると真っ赤になっていました。
「なんですか、照れてるんですか?」
「照れてない…!」
「ほらほら、照れてないで行きますよ」
手を繋ぐぐらいで照れるとは、これまで本当に女性と接する機会が少なかったようですね。
強化魔法を自分に使い、半端無理やりセルドを引っ張り歩きます。
「自分で歩くから!頼むから手を離してくれ!」
私はセルドの叫び声を無視してそのまま店に向かいました。
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