第3話 貧相ですか…
窓の外から差し込む光、チュンチュンと鳴く小鳥、子供たちの笑い声でふと目が覚めました。
上半身を起こし、ググーッと体を伸ばし、ベッドから出ます。
ここでもたもたしていては二度寝という悪魔に捕まってしまいますからね。
そういえばここは何処なんでしょうか?
セルドに精霊について更に詳しく説明を求め、4時間ほど話していた記憶があるのですが、途中で寝落ちでもしたのでしょうか?
という事は、このベットはセルドの物という事になる、まさかあの男……変なことしてませんよね?
一応、体の隅々まで調べますが特に悪戯されたような形跡はありませんでした。
「昨日の事もあってつい疑ってしまいましたが、心配する必要は無さそうですね」
宿を貸してくれている相手を疑ってしまうとは、なんだか申し訳ない気分です、やはり人を無闇に疑うのは良くないです、今後の教訓にする事にします。
それよりも今は昨日の情報を整理しましょう。
まず、精霊とは契約者の魂から生まれ、契約者と共に成長し、少しだけなら意思疎通も出来る、言わば半身だという事。
精霊は空気中に漂う魔素を取り込み、契約者の体に合った形に変質させる。
その変質した魔素を基に精霊術なるものを使用できるようになる。
契約の際、体に契約痕が刻まれ、同じ形の契約痕は存在しないらしく、指名手配など人探しにはちょうど良い目印だそうだ。
稀に特殊な技能を持って生まれる個体もいるそうだが、代わりにデメリットを持っているらしい。
とりあえず分かった事はこれだけ、王国の神殿に行けば更に詳しく教えてもらえるらしいのでそれまでの我慢です。
「とにかく着替えますか……」
私は私服に着替えるために服の裾に手をかけ、お腹辺りまで上げたその時、ガチャっと扉が開きました。
「そろそろ起きろよ、朝飯でき…てる…ぞ?」
セルドの目線が私のおへそで固定される、そしてみるみる顔が赤くなっていき、そしてサーっと血の気が引いたように青くなる。
あらあら、そんなに顔色を変えて忙しい人ですねまったく……
「あら、おはようございます変態さん」
「お、おはよう…ございます……」
「乙女の寝室に入る前にはノックは必須、そんな常識も分からないのですか、そうですか」
「いや…これはその……!」
そんなにジリジリと後ずさって、何を恐れるのです?私は怒ってなどいないのですよ?
ただちょっと、記憶を飛ばす程の衝撃を朝の目覚ましに叩き込みたいだけですとも。
「何か言い残す事は?」
「俺は悪くない……っ!」
その後、パンッ!という大きな音が家中に響いたとか。
ーーーーーーーー
机を挟んで2人の男女が向かい合い座っています、男は頬に赤い手形を付けて俯き、女は呆れたようにそっぽを向いています、まあ私なのですが。
きっと他人が見たらまさに修羅場、浮気を見つかった旦那と呆れ果てる妻のような光景でした。
「貴方は懲りませんね、まさか2日連続で私の肌を覗くなんて」
「本当にわざとじゃないんだ、信じてくれ!」
「2日連続ですよ、2日連続、流石に信用に欠けるというか…」
全くこの男は、寝込みを襲う勇気はないくせに着替えは堂々覗く、なんというか。
小心者なのだろうか、この図体で?
「昔からこうなんだ、何故か行く先々で先程のような場面に遭遇する」
「へ〜、それで?」
「俺はただ、精霊に誘われるまま歩いてるだけなのに!」
ふむ、確か精霊は契約者の半身、この男は少し一緒に居るだけでも分かるような真面目、つまり真面目さ故にそういう事を避けている、が精霊が良かれと誘導していると。
つまりは……
「貴方も年頃の男性ですし、そういう事に興味津々という事ですね、思春期男子め」
「ぐっ!」
「気持ちは分かりますよ、男の子ですもんね」
私はぽんぽんとセルドの肩を叩く、きっと昨日の泉で私の美しい体に魅了されたのでしょう、まったく…仕方ないですね本当に、美しいというのも大変です。
「ちがっ、これは精霊が……」
「仮に、精霊に誘導されているとしても、先程ノックしなかったのは貴方ですからね、本音を言いなさい本音を、実は見たかったんでしょう?」
「そ、そんな貧相な体見たいわけないだろ!」
私の心に貧相という言葉の槍がぶっ刺さる音が聞こえた。
あら、この男今貧相って言いました?貧相って言いました?いえいえきっと聴き間違えです、だってこの私が、貧相?
「私の体に欲情して、2回も覗いた男に貧相などと言われるとは思いもしませんでした…」
「なっ!欲情なんてしてない!」
セルドはバンッと机を叩き抗議しますが、そんな物は通じませんよ。
「貴方は先ほど言いましたね、昔からこうなんだ、と」
「それがどうしたんだ」
椅子から立ち上がり、ゆっくりとセルドの後ろに回り込み、肩を掴んで逃げ場を無くします。
「昔からそういう事が起こるなら、精霊について行くのをやめればいいじゃないですか?それをしないという事は……」
セルドの顔から汗が一滴流れ落ちる、そして私は耳に顔を近づけ、囁くように真実を告げます、そう!この事件の真相は!
「……精霊を言い訳に女の子の体を見たかった、ですよね?むっつりス、ケ、ベ、さ、ん」
「ぐはっ!」
真っ白な灰のようになり、セルドは椅子から崩れ落ち項垂れる。
この勝負、私の勝ちだ!
脳内に響き渡るゴング、歓声、なんと清々しい気分!
「さてさて、では敗者は大人しく勝者の言う事を聞きましょうね、乙女の裸を見た上に貧相とまで言ったんです、罪は重いですよ」
私はセルドの前にゆっくりと歩き手を差し出します。
そして飛びっきりの笑顔で願いを告げます。
「村の案内のついでに買い物、手伝ってください」
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