第2話 見ましたね…!

 一頻り叫び終わった私は荒れた呼吸を整え、泉の方に向かう。

 水面には私の顔が反射する、青みがかった銀髪が木々の隙間から漏れる光によって輝いている。

 しかし土で顔が少し汚れてしまっている、これでは台無しですね。


「とりあえず汚れてますし、水浴びでもしますか」


 魔法鞄の中からシートを取り出し地面に敷き、服を脱ぎ、真っ白な肌が露出する。

 胸と身長が小さいのが少し難点だがスラッとした手足には自信がある。

 服を畳み、タオルを出し終えて私は泉に入る、足を水に入れた瞬間、ヒヤッとしたがすぐに慣れてそのまま水の中に入っていく。

 足がつかなくなるくらいの所まで泳ぐ、とても気持ちが良く体が綺麗になっていく感覚が素晴らしい。

 背泳ぎのような態勢で水面に浮かび空を見上げる、風に揺れる木々、隙間から漏れる光に目を奪われる。


「綺麗……」


 幻想的な光景を目に焼き付け、心惜しいが泉から上がる。

 しっとりと濡れた長い髪が体に纏わり付き、タオルを取り出し頭を優しく拭いていく。


「すっきりした〜」


 上機嫌も上機嫌、さっぱりして私はとてもご機嫌ですよ!

 さて、風邪を引く前に体を拭きますか。


ガサガサ……


「あ!やばい!」


 茂みの向こうからした音を聞きバッと顔を向けるとそこには鎧を着た茶髪の青年が転んでいた。

 鎧を着た青年…青年…男……!?

 私の顔がカーッと熱くなり、タオルで体を隠す。

 見られた!男に!私の裸を!


「いや、これは違うんだ!」

「見ましたね、私の裸を!!」


 殺さなくては、この男を!

 私の裸を見た罪、地獄の底で後悔するがいい!

 片手を前に突き出し魔力を込める、手先に冷気が集まり人の頭ぐらいの大きさの氷を生成する。


「死になさい!」


 氷を風魔法で回転を加えつつ男に射出する。

 これで私の裸を見たこの男は終わる、さあさらばだ名前も知らない男よ!

 男は慌てて態勢を直し腰の剣を抜き、目で追うのがやっとな程の鋭い斬撃で氷を真っ二つに切り裂く。


「へっ?」


 あの速度の氷を真っ二つ、真っ二つ?


「落ち着いてくれ!覗いたことはすまない!だがとりあえず服を着てくれないか!」


 真っ二つに斬られたことに驚いていた私はハッと我に帰り、タオルをギュッと抱きながらしゃがみ込む。


「と、とりあえず向こうを向いてください!」

「すまない!」


ーーーーーーーー


 現在、服を着た私の前では男が頭を地面に擦り付けひざまづいている、かれこれ1時間ほど。


「なんですか、その格好は?」

「これは和国の友人から教えてもらった土下座と言われる謝罪の極意だ!」


 土下座、聞いたことありませんね、謝罪の極意というほどですから本人も反省しているでしょうし、そろそろ許しますか。


「そうですか、ですがもう充分ですよ、気を抜いていた私も悪かったので……」

「いや、乙女の肌を見たのだ、この程度で許されるはずがない」

「いえ、本当にもう大丈夫ですから、早くその土下座をやめてください」


 男はおずおずと立ち上がる、こうして近くで見るとデカい、身長180はあるな、なんと羨ましい、やっぱり許すのやめましょうか?


「悪いと思っているのなら、近くの街にでも案内してください」

「構わないが、そんなことでいいのか?」

「では思いついたら頼みます、それでいいですか?」

「ああ、任せてくれ!」


 男はドンッと胸を叩き微笑む、出ましたね、そこいらの乙女なら一発で落ちそうなイケメンスマイル、私は苦手です。

 男はセルド・マグダリアと言い、王国騎士団に所属しており、この近くにある村の警備を任されているらしい。

 今日も警備巡回中にこの場所に来ていたと言うわけだ、なんとタイミングの悪い。


「ところで、先ほどの氷はどうやったんだ?」

「どうやったって、ただの魔法ですよ、氷魔法と風魔法の合成です」

「魔法……?精霊術ではなく?」

「精霊術?なんですかそれは?」

「え?」

「へ?」


 お互い顔を見合わせる、なんだろう話が噛み合わない、精霊術とはなんのことでしょう?


「精霊と契約してるだろ?」

「してませんけど……」


 セルドは驚いた顔をして、私の肩をガッと掴む。


「してないのか!?」

「きゃっ!ちょっと、痛いですよ!」

「じゃあなぜ精霊術を使えたんだ!どう言うことだ……!?」


 なんなんだこの男は、さっきから精霊などと訳の分からないことを。

 ていうか痛い、肩強く掴みすぎ!

 私が痛そうに顔をしかめるとセルドは我に帰った。


「す、すまない」

「もういいですよ、それより精霊について説明してください」


 セルドの説明によると、精霊と呼ばれるものと契約すると精霊術を使えるようになる、なので精霊と契約していないと言う私はおかしいらしい。 


「でも確かに、君の体には契約痕が無かった」

「忘れなさい、変態」


 精霊術、興味はある、私の魔法の成長に役立つかもしれません。


「何処に行けばその精霊と契約できるんですか?」

「王国の神殿に行けば契約はできるが……ここからだと一月はかかるな」

「遠いですね」


 一月は遠い、保存食を買い貯めて馬を手に入れなければいけませんね。


「来週でいいなら王国から警備交代の騎士が来るから、その、良ければ帰るついでに王国まで護衛をしようか?」

「いいんですか?ありがとうございます!」


 これは幸運です、まさかの王国までの足をゲットしてしまいました。


「そういえば、名乗っていませんでしたね、私の名前はアルミット・テラスティアです、しばらくよろしくお願いしますね」


 私が手を差し出すとセルドは少し顔を赤くしながら恐る恐る手を握り握手を交わした。


ーーーーーーーー



《セルド視点》


 いつも通り警備の為、村の周辺にを巡回をしており、泉の近くを通りかかった時、わずかに水の音が聞こえた。

 何かあるかもしれないと、こっそり茂みから様子を伺う、するとそこには女神がいた。

 美しい青みがかった銀髪、水が滴り真っ白な肌に張り付いており、光でキラキラと輝き、キリッとした蒼い瞳、まだ少し幼そうな体だが、妖艶な雰囲気が漂っている。

 見てはいけないとは分かっていても目が離せない。

 思わず身を乗り出してしまい、態勢を崩し、女神に見つかってしまった。


「いや、これは違うんだ!」

「見ましたね、私の裸を!!」


 女神の手から放たれた氷の弾丸が迫り、慌てて切り落とす。

 ジーンと腕に衝撃が広がる、かなりの威力だった。

 それに精霊術の反応が全く無い事に違和感を覚えたが、そんな事よりも今は弁明しなくては!と視線を向けると彼女は未だに服を着ていなかった。


「落ち着いてくれ!覗いたことはすまない!だがとりあえず服を着てくれないか!」


 しゃがみ込んだ女神に「向こうを向いてください!」と言われ急いで後ろを向き、1時間ほどの土下座で許してもらえた。

 話を聞いていると精霊と契約していないと言う、確かに体に契約痕は無かったな、とつい彼女の裸を思い出してしまい、彼女に怒られる。

 それから名前を教えてもらい、護衛まだ任せてもらえた。

 もしかしたら俺は明日死ぬのではないか……?と思うほどの幸運だった。

 

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