05.12.新居

 「また貴方たちですか……」


 うんざりした表情で出迎えてくれたのは例の不動産屋の女性だ。

 近々ゆいが引っ越して来る事になり、ならばとAzusa来夢らむそらの所に引っ越してくると言い出し始めたのだ。特にAzusaが強く要望しているという。

 だが、そうなると今の住居では狭い。ロフトは琴乃ことのの仕事場となっている為、リビングと寝室を除けば6畳の部屋が空いているのみだ。


 「少し手狭になりまして……」


 「でしょうね」


 そらの後ろに控える嫁たちを見ればその理由は一目瞭然。琴乃ことのを筆頭に真耶まや絵梨菜えりなAzusa来夢らむがニコニコ顔で並んでいるのだから。


 「もう一人居る」


 と、琴乃ことのが付け加える。ゆいは嫁入りするに当たって色々と整理しなければならない事があるのだ。新居選びはそらに一任されているため、ここには来ていない。


 「それはそれは……。でもこの人数ですと車で案内するってわけにもいきませんね……。えーっと……、ここなんかどうですか? 今お住みの物件の隣ですので追加でご契約いただければ広々と使えるのではないかと」


 扱いが雑である。


 「角部屋で見晴らしもいいですし、お風呂の窓からも夜景が楽しめますよ」


 「お風呂で夜景……」


 そこに興味を示した琴乃ことの


 「あー、いいんじゃないですかね、そういうのも。間取りはと……、今のお住いと対称みたいですね。リビングの壁が接している感じです。あっ、今の所のようにロフトはついてませんけどね。でもその分家賃もお安くなってますから」


 興味を持ったのならと、投げやりな態度が一変し、積極的に物件の説明を始める。


 「なるほど、リビングの壁をぶち抜けば広々と使えそうだな」


 「いやいや、鉄筋コンクリートですから木造住宅みたいに簡単に言わないでくださいよ。それにそんなことしたら構造上不味い気がします」


 「だがそれでは一緒に暮らしているとは言えないだろが」


 確かに。隣同士とはいえ、これでは別世帯だ。


 「使い様」


 紹介された物件に否定的になる来夢らむに対し、そんな事もないと言いたげな琴乃ことの


 「どういう事だ」


 「ヤり部屋」


 「……なるほどな」


 住居として使わなければ何の解決にもならないのだが……


 「まあ壁をぶち抜くのは色々と問題ですが、ベランダの仕切り板を外すぐらいなら問題ないかと」


 「いいわね、それ。アンタがベランダに壁作っちゃえばいいのよ。廊下みたいなものよ」


 「Azusaに賛成。そしたら裸で移動しても平気」


 「いえ、ベランダは共有部分ですので勝手なことをされると……」


 「夜景を観ながらそらと二人きりで……、なかなか良さそうですね♪」


 真耶まやも気に入ったようだ。


 「……では鍵をお渡ししますので、勝手に内見しちゃってください。あと、くれぐれも……、いや、何でもないです」



    ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆



 そして訪れた、というか帰ってきた我が家の隣。早速鍵を開けて中に入ってみる。玄関を入って正面にリビングのドアが見えている。6畳の部屋、トイレ、風呂の位置は反対だが、それほど違いを感じない。

 真耶まやはすぐさま浴室を確認しに行った。


 「ほんとに窓がありますね。浴槽に浸かってしまうと見えませんが、こうして立すれば……、夜景も見えそうです♪ ここにしましょうよ、そら!」


 流石に型ガラスになっているのでそのままでは夜景は見えないが、上げ下げ窓にはなっているので覗かれる事を覚悟すれば夜景も見えなくはないだろう。

 琴乃ことのはリビングの隣、10畳の部屋が気になるようだ。


 「ここにも窓があるのか……」


 リビングの反対側の壁、今の家だと丁度ベッドの上にあたる部分に腰高の上げ下げ窓が三つ並んでいる。


 「ベッドでも夜景を観ながら……」


 体勢次第ではそれも可能だろう。


 「そういう事なら私は6畳の部屋を使わせてもらおう。クローゼットあるようだから丁度いい」


 来夢らむが6畳部屋の占有を宣言する。10畳の部屋から色々と聞こえてきそうな気もするのだが……


 「なに、あまり気になるようなら私も参加させてもらうから心配はいらない」


 そういう事のようだ。


 「えっ、じゃあ私は?」


 「Azusaはダーリンと一緒にいたいんだろ?」


 「それは……、そうだけど……。来夢らむさんはいいの? 一緒にいなくて」


 「30も目前になってくるとそう性欲も旺盛ってわけでもないのさ。そうだな、週に2回もしてくれればそれで充分だ。まあ、排卵日にはたっぷりしてもらうがな」


 「私の場所……、あるかな……」


 期待を込めてリビングに居るそらを見つめる。


 「琴乃ことのは右腕」


 「私は左腕ですし……」


 「あたいは足の間なんだけど……」


 「足の間……」


 「Azusaもそこが好き」


 「ううっ……」


 琴乃ことのの指摘に顔を真っ赤にして俯いてしまうAzusa。実際、初めて逢った日もそうだったし、実家に帰省した時もそこに居たのだ。


 「いいぜ、右と左どっちがいい?」


 「えっと……、じゃあ右を……」


 「決まりだな。目覚まし付きの特等席だ」


 「うん……」


 「じゃあゆいさんはここって事でいいのかな」


 そらが足元を指差す。足元で寝ろ、などというつもりはなく、今立っているこの場所、リビングを指している。


 「ベランダに廊下を作るならここも通り道になってしまうぞ?」


 「えっ、本当に作るの、廊下……」


 「重要。いちいち玄関から外に出るのは嫌。誰かに見られるかも」


 「見られても平気な格好してれば……」


 「いや」


 「……」


 「ゆいにはあっちの6畳部屋をあげる」


 「じゃあこっちのリビングは……」


 「子供が生まれたらどちらかをプレイルームにすればいいだろう。そうだな、こっちを大人のプレイルームにするのなら向こうを子供用にすればいい」


 「子供かあ……、いいね、それ。じゃあここ、契約しちゃおうか」


 子供が生まれ、遊べるようになるのは何年か先のことになるのだが、そんな理由でそらもここが気に入ったようだ。

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