04.07.試着

 この日、珍しく生理現象を伴わずに目を覚ましたそらはいつもよりも慎重にベッドから抜け出そうとしていた。生理現象を伴わない事自体が稀なのだが、その所為かいつもはそらよりも早く起きている絵梨菜えりながまだ眠っているのだ。こうなると、ベッドから抜け出すのは各段に難易度が上がる。日曜日だからこのままベッドにいてもいいようなものなのだが、そらは腹ペコだった。


    何か食べたい……


 だが両手両足を拘束され、下腹部には絵梨菜えりなの頭部がある。抜け出すのは至難の技だ。


 「んんん」


 なんとか抜け出そうとしたものの、結局、絵梨菜えりなを起こしてしまったようだ。


 「(おはよう、絵梨菜えりな。珍しいね、僕より遅いなんて)」


 「目覚ましが立たなかった」


 そういいながら、来ていた服を脱ぎ捨て、エプロンを身に着ける。


    目覚ましは立たないから……


 そらもベッドを抜け出し、キッチンへと向かう。


 「そろそろ寒くないか?」


 「そうだな。温めてくれるか、そら


    出かける予定もないし、このまま始めちゃってもいいかな


 そう思ったそらは後ろから絵梨菜えりなを抱きしめる。


 「おはようございますー、そらー、絵梨菜えりなー」


 「お、おはよう、真耶まや


 「これはだな、ちょっと寒かったから温めてもらっただけで……」


 「うーん、トイレ行ってから私も温めてもらいますー」


 寝起きで頭がぼーっとしているのか、特に気に留めることもなくトイレへと向かう真耶まや。そしてその直後、普段は決して起こらないことが起きたのだった。


 「取り込み中のところ悪いが……」


 琴乃ことのが自力で起きてきたのだ。一緒に暮らすようになってから初めてのことだ。


 「そのままで構わないから聞いてほしい」


    いいのかな……、このままで……


 「昨日言いそびれたけど、何とか間に合った。来週末はみんなであれを来て出かける」


 「「あれって?」」


 琴乃ことのが指さしたのはロフト。着れそうな物は一つも見当たらない。


 「実物を持ってくる」


 ロフトから布らしきものを持ち出してきた琴乃ことの


 「ん」


 ちょうどトイレから戻ってきた真耶まやに手渡したのは水色。


 「何ですかー、これ」


 絵梨菜えりなには薄紫。


 「ドレスっぽいな」


 そう、琴乃ことのが手渡したのは派手なドレスだった。ロフトに篭ってこれを作っていたのだ。

 そして、そらに手渡したのはおとぎ話の貴族が着ていそうな白い衣装で、金糸や銀糸で派手に刺繍が施されていた。最後に琴乃ことのの手元に残ったのは紺と黄色と赤の三色ドレスだ。

 こんな物を着てこの時期に出かけられる場所といえば、ハロウィンの期間だけ大人の仮装も許されるあの場所しかないだろう。


 「念の為試着を。合わなかったらすぐに直す」


 絵梨菜えりなも行為よりドレスに興味があるようで、エプロンを外すと直ぐに試着し始めた。


 「すげー、ぴったりだー」


 「こんなエロいラプンツェルでいいのかな……」


 色々と問題ありだ。フロント部分が編み上げになっているのだが、布と布の間がかなり離れていて乳輪が見えるすれすれの状態である。臍も丸出しで、透過率は低そうだがスカート部分はシースルーになっている。全裸のまま試着したため、大事なところが透け透け状態になってしまっているではないか。


    パンツ対策が必須だな……


 「これ……、すごいです……」


 鏡を見つめて嬉しそうな表情を浮かべる真耶まや


 「魔法が解けかけているシンデレラという設定」


 ところどころが円形にシースルーとなっていてドレスが消滅しかけている感じが出ているのだが、綺麗な足もパンツもほぼ丸見えだ。


    こっちもパンツ対策をしないと駄目だろうな……

    それにあの胸は……


 そこに在るはずのない胸の谷間、下乳。そんなものまでシースルー部分から透けて見えてしまっている。


 「やっぱり、大きい方がいいですよね……」


 「そういうわけじゃ……。どうなってるのかなって思って……」


    大きいのは他に有るから真耶まやのはそのままがいいかな……


 「樹脂製の偽乳。我ながら上手くできた」


    偽乳って……

    確かによく出来てるな……


 「なんで琴乃ことのだけ普通なんだ?」


 琴乃ことのは至って普通の白雪姫だった。強いて言うならロり巨乳白雪姫といったところか。


 「そら以外には肌を見せたくない」


 「私だって嫌ですよ」


 「心配ない。それは偽乳」


 「うぅっ」


 「あたいはそらが興奮するなら何でもするぜ。何ならもう少し開いて見せてやろうか? なあ、見たいか? そら


 「そんな事しても直す時間がない。お胸丸出しで行けるなら好きにして。真耶まやのも今更直すのは無理、慣れるしかない。それより、そらも早く試着して」


 「えっ、うん……」


    これって、タイツだよね……

    タイツで出歩けってこと?

    それどころか股間がシースルーになってたり……

    樹脂製の異物がついてたりとか……


 「早く」


 琴乃ことのに急かされて試着するそら。心配していたようなシースルー加工もなく、樹脂製の異物がついているという事も無かったのだが……


 「タイツだと余計に目立つな……」


 「そうですよね……。大丈夫でしょうか、これで……」


 「うん……、無理だよ、こんなの……。何でタイツなのっ!」


 「王子といったらタイツ。それに自信を持っていい。立派な勲章。皆んなに自慢したい」


    自慢どころか滅茶滅茶恥ずかしいんだけど、これ……


 「そうだな。周りの奴らに見せびらかしてやろうぜ!」


    変質者みたいじゃん!

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