04.05.野望

 浴室で向き合うそら琴乃ことの


 「琴乃ことの、怒ってる?」


 「ちょっとだけ。隠し事は嫌い」


 「隠し事って……」


 「四人目、見つけた?」


    四人目って、井川いかわさんの姪の事?


 「ないない、ないから」


 「真耶まやの態度がおかしい。ホテルに連れ込んでごまかしたつもりなら無駄。琴乃ことのにはわかる」


 「それは……、真耶まやが誤解してるだけで――」


 「全部話してスッキリしてから気持ちよくなるか、黙秘したまま後ろめたい気持ちで琴乃ことのを抱くか」


    黙秘してるわけじゃないからどっちも変わらないんだけど……


 「可愛い娘?」


 「……はい」


    そこは間違いないかな


 「歳は?」


 「16」


 「ギリギリ有り。黒髪?」


    有りなんだ……


 「金……、だったかな。プラチナブロンドって感じの」


 「不良娘は考えもの」


 「今時金髪だから不良ってわけでも無いんじゃないかな。綺麗な髪だったな〜、腰ぐらいまであってさ。そうそう、瞳も青かったから日本人じゃないのかも。でも、日本語は違和感なかったかな。井川いかわさんの姪って事は日本人の血も入ってるってことなのかな」


 いつしか訊かれてもないことまで話し始めてしまうそらだったが、今に始まったことでもない。


 「胸は? 大きい? 小さい?」


 「服の上から見た感じだと……、絵梨菜えりなぐらいかな」


 「服の上? エッチしてないの?」


 「してないよ。エッチどころか一切接触してないから」


    多分だけど……


 「第四条、浮気禁止」


 「そうだよ、それそれ。まあ、初対面でいきなりエッチとかしないと思うけどね」


    琴乃ことのはしようとしてたのかもしれないけど……


 「第五条、嫁を追加するには厳正な審査が必要。容姿、性格、性癖を考慮して琴乃ことのが判断。早く会わせる」


 「追加しないから」


 「二人足りない。そらが選ばないなら琴乃ことのが選ぶ」


 「何で?」


 「琴乃ことの好みの女の子を選ぶ。お胸は小さいほうが好き。真耶まやが理想」


    それって僕の嫁っていうんだろうか……


 「そもそも琴乃ことのは何で増やそうとするの? 真耶まやは嫌みたいだし、絵梨菜えりなだってゆいさんならなんて言ってるぐらいだからきっと嫌なんだと思う。無理に増やす必要なんて――」


 「ゆいは手に入れる」


 「なんで拘るの。僕が言うならまだしも、琴乃ことのゆいさんを望む理由な何なの?」


    琴乃ことのゆいさんに会ったのって一度だけじゃない

    あの短い時間でそこまでこだわる理由なんて……


 「そらの初めてをもらった女。他の男とイチャイチャされるのは嫌」


 「初めてって……」


    そんな事言い始めたら

    僕が一度でも関係持った女の子は全員嫁にしないといけないことになる

    勿論そんな事する気はないけど……


 「じゃあ琴乃ことのは? 琴乃ことのが初めてをあげた人が他の女の人とイチャイチャしてても琴乃ことのは平気なの?」


 「それは……、琴乃ことのにはそらがいる」


    なんだよ、それ……


 「僕にだって琴乃ことのがいるよ? 真耶まやだって、絵梨菜えりなだっている」


 「琴乃ことのそらにあげたかった……。馬鹿なことをしたと反省。留年してでも待ってればよかった……。初めてがよかった。真耶まやみたいに……」


 少し垂れ下がった大きな瞳に涙が溢れ出す。


 「琴乃ことの……、ごめん、そんなつもりじゃ……」


 「真耶まやそらしか知らない。琴乃ことのは……、琴乃ことのは……」


 「泣かないで琴乃ことの……、そんな事重要じゃないから」


 実際にはそらより一つ年上なのだが、幼い顔つきの少女が目の前で泣いている。泣いている姿に8歳離れた妹が重なって見えてしまう。まるで幼女を虐待しているような罪悪感に苛まれるそら


 「琴乃ことのは気にしてる。でも琴乃ことのそらが好き。そらがいてくれれば他に何も望まい」


    そんな……

    僕は琴乃ことのだけじゃなくて真耶まや絵梨菜えりなもいるのに

    琴乃ことのは僕だけいればって

    そんな風に思ってくれてるんだ……


 「琴乃ことの……」


 「そら……」



    ◆◆◆◆◆ ❤❤♂♀❤❤ ◆◆◆◆◆



 自分がいれば他に何もいらない。そんな事を言ってくれる琴乃ことのの愛をしっかりと受け止めたそらだったのだが、琴乃ことのの言葉に愕然とすることになる。


 「で、いつ会える?」


 「え?」


    他に何も望まないんじゃ……


 「いつ?」


    さっきの涙はなんだったの?


 「名前を聞いてなかった」


 「……あずさ ラインフェルト」


 「洋物か」


 「ほんとだ……」


 髪色に納得したそらであった。

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