03.09.嫁とセフレ

 とある田舎町のファミレス。


 「見ろよあれ。修羅場ってやつか?」


 「止めろよ、聞こえるって」


 「すげえな、四人とか」


 注目を集めてしまっている男女五人。

 琴乃ことのを中心に真耶まや絵梨菜えりなが両脇に並び、対面には引きつった笑みを浮かべるゆいと、その隣で小さく縮こまって座るそらだ。


 「これはどういうことなのかな、そら……」


    漸く会えるって思ってたのに……

    ファミレス? まあお腹も減るわよね……


    でもさぁ……

    食べ終わったらいっぱいエッチ出来るって思ってたのにー!

    何で女の子が三人もいるのよっ

    皆んな可愛いし、若いし……

    どういうことなのよっ、そら


 そんな心の叫びにそらは答えない。代わりに、嫁たちが自己紹介を始るのだった。


 「深川ふかがわ 琴乃ことのそらの嫁」


 「嫁って……」


    嘘でしょ?

    嘘だって言ってよそら

    結婚しちゃったの?


 「朝比奈あさひな 真耶まやです。私もそらのお嫁さんです」


 「もって……」


    そうよね、結婚したっていうなら他の二人が同席してる理由がわからないわ

    この流れだと三人目も……


 「久しぶり、斎藤さいとうさん。絵梨菜えりなだぜ。あたいもそらの嫁になったんだ♪」


 「絵梨菜えりなって、新井あらい 絵梨菜えりなさんなの?」


    言われてみれば面影あるかも……


 「ああ……、そら好みにイメチェンしたからな」


    そこまでしちゃうんだ、絵梨菜えりなさん……


 「そ、そう……。三人ともそらの彼女って事でいいのかなぁ」


 「嫁」


 「お嫁さんです」


 「嫁だって」


    嫁の定義がわからないわ……

    被せてくるって事は彼女以上だってアピールしたいんだろうけど……

    まさか重婚って事は無いわよね!


 「ちなみに入籍は……」


 「無理。小学生でも知ってる」


 「勿論したいですけど三人ではそういうわけにもいきませんから」


 「入籍って紙切れ出すだけなんだろ? 必要ないって、そんなの」


    よかった、取り敢えず入籍はまだのようね

    でも……


 「妊娠してるとか?」


 「まだ。でも大学卒業したらすぐに産むつもり」


    大学生なんだ

    そうよね、大学は卒業した方がいいわね


 「私も大学は卒業したいですので」


    こっちも大学生

    よし!

    絵梨菜えりなさんは短大生だったわね

    だったら……


 「あたいはいつでもいいぜ! 短大も中退でいいしな」


    えっ、中退……

    そんなにそらの事……


 「そうなんだ……」


    入籍はしてないけど、

    遅かれ早かれそらの子供を産みたくて……


 「一緒に暮らしてたりするのかなぁ、そら


 懇願するような目で隣のそらを見つめるゆい。しかし、その思いは打ち砕かれるのだった。


 「はい。琴乃ことの真耶まやとは9月に入って早々に、絵梨菜えりなとは台風の夜からですけど」


    そうなんだ……


 「ちなみに知り合ったのって夏休み開けなのよね。彼女いないって言ってたわよね、そら


 「そうです――」


 「琴乃ことのは6月の終わりに見つけた」


    見つけたって……

    大丈夫、6月も8月も大差ないわ


 「私は入試で隣の席になってからずっとそらのこと想ってました」


    入試ってことは半年ぐらい?

    でもまだ半年よ、まだ


 「あたいは中学の入学式で初めて見たときから気になってたぜ。初恋ってやつだ」


    何それ、何年越しなのよっ!

    しかも初恋の相手なの?

    でも、その間ずっとそらの事好きだったわけじゃないわよね

    そもそもそらは私が初めてなんだから!


 「そ、そらはどうなの? 彼女たちの事はいつから意識してたの?」


 「琴乃ことの真耶まやは夏休み開けまでは意識してなかったかな」


    よし、私の方が先だっ!

    っていうかそうよね、私と結婚したいって言ってたんだもん

    あ〜、さきに言われた通り捕まえとけばよかったなぁ……


 「でも今はとても大切な存在です。勿論、絵梨菜えりなも」


 「そう……」


 「ちなみにあたいとは両想いだったんだぜっ、中学んとき。 なっ、そら


 「両想いっていうか片想い同士だったんだけどね」


 「まあ、変な噂の所為でそらに初めてをやれなかったし、そらの初めても貰い損ねた。でもそらの初恋の相手はあたいなんだぜ♪」


 胸を張り、得意げな表情の絵梨菜えりな


 「へ、へえぇーー、そうなんだ。私は……」


 絵梨菜えりなに対抗するように胸を張り、何かを言いかけたゆい


    童貞は私が貰ったのよ

    ……なんて言えそうにないわね


 「これで三人」


 そんなゆいの目の前に琴乃ことのが三本の指を立てて突き出す。


 「琴乃ことの、その事はもう――」


 「あと二人。そしたら五人」


    まさか私がそらに言った……


 「五人集めてそらが嫁に貰いに行く」


 「琴乃ことのゆいさんにはその気が無いんだから、もう――」


 「それまではセフレ」


    確かにそう言ったけど……

    本当に彼女つくれって意味じゃないのに……

    それに、その気がなかったわけじゃないのよ

    怖かっただけ

    こんな風にそらが他の女の子のところにいっちゃうのが


 「だからエッチはしていい。コテージを予約してある」


 「エッチって……、何考えてるのよ」


    そらは貴女の彼氏なのよね……

    何で簡単にそんな事が言えるの?


 「そらが喜ぶ事。嫁として当然」


    当然って……

    その為なら他の女と寝ることも許容するっていうの?

    ありえないわ!

    独り占めしたいじゃない!


 「ほんとはやだけどな。でもあたいも後から入れてもらったみたいなもんだからそら次第だな。そらがどうしてもっていうなら受け入れる」


    そうよね、そう思うのが普通よ

    でも受け入れるちゃうのね、絵梨菜えりなさん……


 「みたいじゃなくて実際そうなんですけどね。本心を言えば私も独り占めしたいですよ。でもそらは頑張ってくれますから大丈夫なんです」


    頑張ってるって……


 「それに、ちゃんと二人きりになれる時間もつくってくれますし、みんなお嫁さんなので浮気されたって気がしないんです。皆んな仲良しですし。後はそうですね……。そらの初めてを奪った貴女にも興味があります。琴乃ことのさんがテクがどうこう言っていましたので」


    テク……


 「そらのテクはなかなか。多分セフレに鍛えられた」


    そうかもしれないけどっ!


 「とりあえず、セフレって呼び方はやめてもらえないかしら。周りの目もあるわけだし」


 実際、なんだ一人はセフレなのか、という会話も聞こえてきている。そのような扱いを受けるのは心外だ。


 「問題ない、場所を変える」


 立ち上がり、真耶まや絵梨菜えりなにも移動を促す琴乃ことの


 「後はそらに任せた」


 そう言い残し、店を出ていってしまった。

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