03.07.裸エプロン

 そらたちが愛情を確かめ合っているうちに台風も通り過ぎ、夜が明けるころには外の様子も穏やかになっていた。

 ベッドには疲れ果てて死んだように眠る三人。キッチンにはまだ日も昇る前だというのに絵梨菜えりなの姿があった。

 勿論、絵梨菜えりなも疲れていた。バス停まで走り、本来なら4時間強で到着するはずだったバスも大幅に遅れ、都内の交通機関の乱れから風雨の中を歩く羽目にもなったのだ、疲れていないはずもない。


    そらに抱かれたんだ……


 その喜びもあり、興奮して眠れなかったのだ。


    そらの匂いだ……

    借りていいかな


 昨夜そらが使ってそのままになっていたエプロンを身に着け、料理を始める。

 その音でそらも目覚めたようだ。後ろから優しく絵梨菜えりなを抱きしめる。


 「おはよう、絵梨菜えりな


 「そら、起こしちまったか」


 「いつもこの時間だよ。絵梨菜えりなこそ早いんだね。疲れてないの?」


 「なんか眠れなくてな。別に不安とかじゃないぞ、寧ろ逆だ……。そらとヤったのかと思ったら興奮しちまってな」


 「少し寝てくれば。後は僕がやるから」


 「平気だって。あっ、エプロン借りちまったぞ。流石に裸じゃな」


 「綺麗なお尻だね、絵梨菜えりな


 「お、おう、そうか……。ヤりたくなったらいつでも相手してやるからな」


 「そうさせて貰うよ」


 その言葉に、手を止めてお尻を突き出す絵梨菜えりな


 「でも今日はちょっと無理かな」


 「そ、そうか……」


    あんなにしたもんな、無理もないか……


 残念そうに尻を戻し、料理を続ける。


 「いつもそらが作ってるのか?」


 「そうだけど、何で?」


 「これからはあたいが作ってやる。こう見えても料理には自身があるんだ」


 「そしたら僕の仕事がなくなっちゃうから」


 「じゃあ……、一緒に作るか? い……イチャイチャしながらよ」


 「いいね、それ。じゃあ少し寄って」


 「ああ」


    余計な事言ったか……

    後ろから抱きしめててくれるだけでもよかったな……

    いや、寧ろそっちがいい!


 「やっぱあたいが作るからさっきみたいにぎゅーってしててくれ」


 「でも……」


 「いいから。……その方がいいんだって」


 そうまで言うならと、先程のように背後から抱きしめる。


 「うん、これがいいな」


 こうして暫くイチャイチャしていると、真耶まやが起きてきた。


 「おはよー、後で私もまぜてー」


 眠そうだ。


 「朝からしないからね」


 そんなそらの声も聞こえたのかどうか、そのままトイレへと消えていった。琴乃ことのは起きてこない。今日は午前中の講義がないようなので、昼まで寝ているつもりなのだろう。



    ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆



 「ただいまー」


 「おかえり、そら


 「新井あらいさん……」


 「絵梨菜えりなって呼んでくれっつっただろ?」


 「ああ、ただいま、絵梨菜えりな


 そらが玄関のドアを開けると、そこには初恋の人が立っていた。


    そういえば琴乃ことのが美容室連れ行くって……


 髪は黒く、ストレート。その姿は可憐だった初恋の人がそのまま成長した姿に間違いなく、思わず胸が高鳴ってしまう。


 「なんだよ、そんなに気に入ったのかよ……。まあ、いつでも来てくれていいんだけどさ……」


 そういって背中を見せたその姿は朝と変わらぬ裸エプロンだった。


    気に入ったのはそこじゃないんだけど……

    新井あらいさんのイメージが台無しだよ、絵梨菜えりな……


 「もう、なんて格好してるんですかっ!」


 「いやー、暇だから夕飯作ってたんだけどさ」


 「だからって何で裸なんですかっ!」


 「えー、こういうの好きだろう? そら


 「嫌いじゃないけどさぁ、折角あこがあれの新井あらいさんに逢えたと思ったのに……」


 「あー、これか……。似合ってるのか、これ。琴乃ことのが勝手に頼んじまっただけどよ。なんか違和感っていうか……、恥ずかしいよな、こんなの」


 「そんなことないよ。似合ってるよ、絵梨菜えりな新井あらいさんみたいでドキドキする」


 「まあ、新井あらいさんだからな、あたいは。でもそうか……、そらが気に入ったんならこういうのも……いいかもな」


 「おかえりー、そら


 絵梨菜えりなが照れ照れしていると、ロフトから琴乃ことのが顔を出した。


 「琴乃ことのの言った通りだった。ありがとな」


 「琴乃ことのに任せておけば安心。それより、お腹減った」


 「そうだ、料理の途中だったんだ」


 絵梨菜えりなは慌ててキッチンへと戻っていく。


 「何作ってるの?」


 「ポテサラだ。ミートローフももうすぐ焼きあがるぞ! あっ、冷蔵庫の食材を適当に使わせてもらったからな」


 「それは構わないけど。ミートローフか、楽しみだね」


 「そうか!」


 そらが料理すると洗い物が溜まる一方なのだが、キッチン周りは綺麗に片付いていた。並行して片づけもしているのだろう。


    見た目は見違えるほどだし、料理も得意、

    性格は……、明るい絵梨菜えりなも魅力的かな


 そう思うそらであった。

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