03.05.家訓

 「神月こうづき家の家訓」


 時々そらは思うことがある。琴乃ことのは頭がおかしいのではないかと。


    今度は家訓か……


 生まれてこの方、家訓など聞いたこともなかった。深川ふかがわ家の家訓だというならわからなくもないが、自分も知らない家訓を琴乃ことのが知っているはずがない。


 「家訓第一条、全員が嫁」


 そらの呆れ顔など気にも留めずに琴乃ことのが続ける。


    こんなところも含めて可愛いんだけどね、琴乃ことの


 「ちなみに法的な意味は伴わない。その場合は妻と呼ぶべき。オレの嫁ならぬ。他の嫁を出し抜いて入籍しようなどと考えないこと。皆んな平等」


    これ、僕が言ってるんじゃないからね

    でも実際誰かを選ぶなんてできないかも……


 「あたいも……嫁って事でいいのか?」


 「嫌なら無理にとは――」


 「嫌なわけあるかっ、嫁になる、あたいもそらの嫁になるっ! ……ふふっ、そらの嫁か、なんかいいな。あたいはそらの嫁、嫁なんだ……」


 ニヤニヤしながら体をくねらす絵梨菜えりな、上下左右に動く標的をそらの目が追いかけないわけがない。


 「家訓第二条、産むなら自己責任。妊娠を望むなら止めはしない。でもそらはまだ学生、収入も不安定だし育児をしている場合でもない。産んだら自力で育てる。ちなみに家訓制定前に妊娠してしまった可能性がある真耶まやだけは特別。琴乃ことのが手伝う」


    一条といい二条といい、僕って最低な奴じゃん……

    でも妊娠って……

    真耶まやが僕の子供を?


 「真耶まや……、ほんと?」


    僕の子供……

    生まれてくるんだ

    母さん、孫が生まれるんだよ!


 ゆいを妊娠させようなどと考えていたそらは妊娠を告げられる事に何の抵抗もなかった。寧ろ喜んでしまうぐらいだ。


 「陰性だったっていったじゃないですか。忘れちゃったんですか?」


    なんだ……


 新たな生命の誕生に期待してしまったそらだったのだが、真耶まやによってあっさりと否定されてしまう。


 「そうだった。そういうことなので条件は皆同じ。自己責任。ちなみに真耶まや琴乃ことのもまだ学生。ちゃんと卒業したいから準備は万端」


 そういって象のパッケージを取り出す琴乃ことの。開封済みのものだ。


 「買うならこのサイズ。今日は特別にあげてもいい」


 一つ取り出して絵梨菜えりなに差し出す。


 「いや、今日は安全日だ。生がいい」


 「そう。続いて第三条、夜伽はそら次第」


    僕の名前が出てきてる時点で神月こうづき家の家訓じゃないよね……


 などと思っても決して口にはださない。面倒臭いことになるだけだから。


 「誰と寝るかはそらが決める。昼夜を問わず努力が必要。ちなみに琴乃ことのは鉄板」


 自慢げに胸を突き出す琴乃ことの


 「さっきから思ってたんだが、顔に似合ってないな、それ」


 「脱いだらもっと凄い」


 「そうか……」


 絵梨菜えりなも大きい部類に入るのだが、琴乃ことのには敵わない。そして、同じ土俵に立つことすら許されない真耶まや


 「お、大きければいいってものじゃないですから……、そらだって気に入ってくれていますから」


 別の観点もあることを必死で主張する。


 「第四条、浮気禁止。変な病気をもらってこられても困る。そら意外とはエッチしないように」


 「そんなの言われなくても当然です」


 真耶まやも家訓の事は初めて聞いたのか琴乃ことのに言い返す。


 「あたいも文句はない。そらに抱いてもらえるんなら……」


 「そらも嫁以外とエッチしない事。ただし、過半数の嫁から賛同が得られた場合はこの限りではない」


    僕だけ甘いんだ……

    そんなことするつもりはないけどね


 「第五条、嫁を追加するには厳正な審査が必要。容姿、性格、性癖を考慮して琴乃ことのが判断」


    独断と偏見っていうんだよ、それ……


 「追加って、どこまで増やすつもりなのですか?」


 真耶まやが焦るのも当然だ。絵梨菜えりなが増えてこれで嫁は三人。二人も三人も同じとは言ったものの、増えたら増えただけそらの愛が分散してしまう。


 「取り合えず五人。そういう約束」


 「五人……、そういう事ですか……」


    約束……、それってゆいさんとの……


 「それならもういいんだよ。琴乃ことのがいて、真耶まやがいて、今こうして絵梨菜えりなまで来てくれたんだ、十分すぎるよ」


 「そうなの? でも気が変わるかもしれない。第五条は重要。ちなみにこの家訓は神月こうづき家第六代当主によって制定された」


    誰なんだよ……


 そう思ったそらだったが、そんな事は口にしない。どうせ適当に言っているだけなのだろうから。偶然の一致でしかないのだ。


 「それから、その髪型は絵梨菜えりなに似合っていない。琴乃ことのと美容室に行く。そしたらもっとそらに愛される」


 「そうか……、わかった、そら好みに変えてくれ」


 「任された。家訓は以上、はじめて」


 「四人でするのか……、経験ないけどまあいいやっ」


 「嵐にめげずにやってきた気持ちに敬意を。真耶まや琴乃ことのは一回休憩」


 「ずるいっ、私だって二人だけでしてみたいもん!」


 「だったら二回目は真耶まやだけ、三回目と四回目は琴乃ことのだけ」


 「何でですかっ!」


 「冗談、四回目は全員で。時間はたっぷりある」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る