03.04.新井絵梨菜

 絵梨菜えりなを中心に三人の女の子がソファーに並ぶ。ダイニングテーブルを挟んで反対側、丁度彼女たちの正面には床に正座するそらが。

 一見するとそらが尋問されているようなのだが、そうではない。尋問の対象は絵梨菜えりなだ。琴乃ことの真耶まやが両脇を固め、先程から質問を浴びせかけているのだ。


 「そらとはどういう関係なのですか?」


 「どういうって、神月こうづきも言ってただろ、中学ん時の同級生だよ」


 「その同級生が何でこんな嵐の夜に?」


 「それは……」


    告りに来た……、なんて言える雰囲気じゃねえよな……


 「セフレ」


 「それも神月こうづきが否定してただろ。神月こうづきとはまだヤってねえよ」


 「って事はそういうつもりで来たって事なんですか」


 「言葉の綾だ。神月こうづきとはそんなんじゃ……」


 「ただのセフレ」


 「違うっ」


 その後も尋問が続く。主に真耶まやによってだが。琴乃ことのはセフレ、セフレと絵梨菜えりなを煽り、あまりのしつこさに絵梨菜えりなも逆ギレ寸前である。


 「セフレ。そらとエッチなことするだけ。エッチしたくてやってきた」


 「あー、もう、違うって。神月こうづきはあたいの初恋の人なんだよ。斎藤さいとうさんはただのセフレだって聞いたからあたいにもワンチャンあるかもって来ちまったんだよ。……なのに」


 とうとうここに来た目的を吐露してしまったのだった。



    ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



 新井あらい 絵梨菜えりなそらと出会ったのは中学の入学式での事だった。

 そら絵梨菜えりなの学区では3つの小学校から同じ中学へと進学することになっていた。二人は元々別々の小学校で、会うのは入学式が初めて。だが、一目見るなり絵梨菜えりなは恋に落ちた。

 本人は覚えていないようだが、この時のそらはとても明るい性格だった。元気一杯で、同じ小学校は勿論他の小学校からの女子にも人気が会った。 絵梨菜えりなは自分とは正反対のそんな姿にどんどん惹かれていった。

 そう、当時の 絵梨菜えりなは大人しい性格だったのだ。 そらに声を掛けることもできず、ただ見ているだけだった。それだけで胸がキュンキュンしていたのだ。


  だが、そんな日々も長くは続かなかった。 そら静江しずえの噂が学校中に広まったのだ。


    彼女……、いるんだ……


 そう諦めた日の事を今でも覚えている。

 噂が広まって直ぐにそらは心を閉ざしてしまった。こうなると、本人に直接確認することは不可能だ。尤も、当時の絵梨菜えりなにはそもそも声を掛けるなどという事は出来なかったのだが。

 静江しずえとは同じ小学校の出身だったこともあり、それとなく聞いてみた事もある。だが静江しずえは何も答えなかった。否定しなかったのだ。絵梨菜えりなはそれが答えだと思い込んでしまった。そら静江しずえが付き合っているのだと。



    ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆



 気がつけば絵梨菜えりなの目には大粒の涙が溢れていた。


 「新井あらいさん」


 「そうだよ。今でも神月こうづきの事が好きだ。好きで好きでどうしようもなくて……。ごめん、迷惑かけちまった。でも今度こそ諦める。諦めるから……」


 涙が止まらない。

 徐に立ち上がった琴乃ことの絵梨菜えりなの背後へと回り、そっとTシャツの裾へと手を伸ばす。


 「覚悟はあるか」


 「だってしょうがねえだろ。二人もいるんだろ? 今更あたいが……」


 琴乃ことのが一気に裾をめくり上げた。琴乃ことの程大きくはないが、形の整った胸がプルンと震える。


 「えっ……」


 絶句する絵梨菜えりな


 「ちょっと、何してるんですか、琴乃ことのさん!」


 絶叫する真耶まや


 「これは……」


 絶賛するそら

 三者三葉の反応を示す中、琴乃ことのが言葉を続ける。


 「覚悟があるなら抱いてもらえ。そらへの想いはわかった。このまま帰したら神月こうづき家の恥」


 「いや、何で」


 すぐさまそらが突っ込むも、更に真耶まやが畳み掛ける。


 「そうですね。泣いてる女の子を放ってなんかおけないですよね」


 「神月こうづき……、いいのか? 抱いてくれるのか?」


 美乳を晒し、顔をグチャグチャにしてそらに乞う。


    いいのかって……

    こんなの断れるわけないよ……

    新井あらいさんなんだし……


 風雨に洗われ、ひと風呂浴びた絵梨菜えりなの顔には僅かながら当時の面影が戻っていた。


    それに、このおっぱいは……


 エロい。


 「もっと早くにこうなっていればあの頃のままでいてくれたのかな、新井あらいさんは。その顔の方が好きだな。うん、あの頃の新井あらいさんだ。僕も好きだったんだ、新井あらいさんの事。変な噂が広まっちゃってそれどころじゃ無くなっちゃったけど、僕も新井あらいさんが初めてだったんだよ、誰かを好きになったのは」


 この後の行為にもっともらしい理由を持たせるため、というわけではない。実際、そらの初恋の相手は絵梨菜えりなだったのだ。それが両想いだった上に美乳の持ち主だったとなれば下半身が疼いてしまうのは仕方のないこと。


 「両想いだったのかよ……」


 立ち上がり、Tシャツを脱ぎ捨てる絵梨菜えりな


    なんだよ……、言ってくれてば……

    あたいが告ってれば……

    しーちゃんさえ居なければ……


 静枝しずえにとってはとんだとばっちりであるが、それもまた事実。


 「仕方ないですよね、そういう事なら。二人も三人も変わらないでしょうし」


 基準がおかしくなってしまっているが、真耶まやは納得したようだ。


 「琴乃ことのも歓迎」


 「それって……」


 「ここに居ていい。一緒に暮らす。勿論、嫌じゃなければ」


 「嫌なわけあるかっ、いいんだな、ここに居ても。なあ神月こうづき、あたいも居ていいんだよな」


 「二人がいいって言ってくれるなら僕も歓迎するよ、絵梨菜えりな


 「絵梨菜えりな……」


 「ごめん、いきなり馴れ馴れしかったよね、やっぱ新井あらいさんって呼ぼうかな……」


 「絵梨菜えりなでいい、絵梨菜えりなって呼んで欲しい! あたいもそらって呼んでいいか?」


 「勿論だよ、絵梨菜えりな


 「そら……」


 ダイニングテーブルを乗り越え、そらに抱きつく絵梨菜えりな


 「その前に言っておきたい事がある」


 始めてしまいそうな二人を琴乃ことのが制した。

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