03.03.落胆

 必死でたどり着いたそらの家。『絵梨菜えりなだよ』、静枝しずえの言ったその一言に突き動かされて台風の中を進んできた。


    このドアの向こうに神月こうづきが……

    あたいの事気にしてくれてんなら、あたいから告ってやる

    告れなくてウジウジしてんなら、あたいから告ってやるよ

    だから、あたいと……


 「来てやったぞ、神月こうづき…………って、女……」


 ドアが開いた。だから絵梨菜えりなは思いっきり叫んでやった。思いっきり告白しようとした。

 しかし、そこに居たのはそらではなく、半裸の女。男物の白いシャツを羽織っただけの女。透け具合からして、おそらく下着も着けていないのだろう。


    部屋を間違えた?

    隣だったかな……


 そうであってほしかった。だが現実は厳しい。


 「やっぱりそらの知り合いだったじゃないですか」


 中から別の女の声がする。


    そら……

    神月こうづきの名前……

    神月こうづきの……、女……


 その女はそらと呼んだ。部屋は間違っていなかった。こんな嵐の夜に、こんな格好で同じ部屋に居る。そんな女が特別な関係でないはずがない。


    あれ……

    二人も?

    そんな事って……

    そうか、派遣型の風俗……

    なんだ、我慢できずに呼んじまったのか


 そう自分に言い聞かせる絵梨菜えりな。そうであってほしいと願いを込めて。


 「そらなら中に居る。そらが言っていたセフレか」


 目の前の女もそらと呼んだ。


    何か馴れ馴れしいな

    初めてじゃないんだろうか……

    それにセフレって……

    あたいは神月こうづきとそんな関係じゃないし、

    斎藤さいとうさんの事だよな……

    そんな事まで話しちまってるのかよ……


 「そうなんですか? そら。こんな日に態々来るなんて……」


    何か嫌そうだな

    金貰ってエロいことするだけじゃないのか?


 「違う……と思うんだけど」


    神月こうづきの声だ!

    神月こうづきはここに居る!!


 「取り敢えず風呂でも入るといい。話しはそれから」


 半裸の女に浴室へと案内され、わけも分からず湯に浸かる絵梨菜えりな。だが、冷え切った体にはありがたかった。見れば、女性用と思われるシャンプーやボディーソープの類、別にそらが使っても構わないのだがその数が多すぎる。


    三人分……


 そらの物と思われるそれは別にあった。何も気を使ってなさそうなのが。だとすると他のはあの二人のもの、一人はまだ姿も見ていないがそういう事なら納得も行く。


    一緒に住んでるってことだよな……


 風呂から出ると、さっきの女に男物のTシャツと下着を渡される。絵梨菜えりなが入浴している間に女も着替えて来たようだ。


    神月こうづきの……なんだよな、これ


 「セフレならそらのパンツも平気。ちゃんと洗濯もしてある」


    セフレじゃねえけど神月こうづきのなら……


 リビングに向かうと、そこにはそらが居た。だが隣にはスレンダーな女も座っている。


 「新井あらいさん?」


 「やはり例のセフレ。そらの初めての相手」


 「違うって、彼女は新井あらいさん。っていうか何で僕のパンツなの琴乃ことの


 「セフレ」


 セフレだからいいだろうと言いたいのだろう。


 「だから違うんだって。彼女は中学の同級生で別に何もないから」


 「何も……」


    そうだよな……

    あたいのことなんて……

    なんだよ、またしーちゃんにやられちまったぜ

    あたいに恨みでもあんのかよ……


 「落ち込んでる。嘘は良くない、そら


 「ごめんごめん、何か邪魔しちまったみたいだな。ちょっと顔見に来ただけだからもう帰るわ」


 そのまま出ていこうとする絵梨菜えりな。だが、真耶まやが引き止めた。


 「台風で電車も止まってしまっています、帰るなんて無理ですよ。それに……、態々そらに会いに来たのですよね? いいのですか、それで」


    いいわけねえよ……

    いいわけねえけど、どうにもできないよ……


 「真耶まやの言う通り。今日は泊まっていくのがいい」


 「そ、そうだね。空いてる部屋もあるし、そうしなよ新井あらいさん」


 「布団がない。一緒に寝るか?」


    一緒にって、なんだそれっ

    そんなの……


 「じゃあ……、お言葉に甘えて。でも隅っこで丸まって寝るから布団とかなくても平気だから。お楽しみの邪魔は……したくないし……」


    神月こうづきってこんな奴だったのか……

    二人も同時に……

    何?

    もう、どうなってんのかわかんねえよ……


 「ねえ、少し話しませんか?」

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