01.02.ネオンの色
「じゃあ、そこ右に曲がって」
「は……はい」
「そんなに緊張しなくても」
緊張するなっていわれても……
「ねえねえ、趣味は?」
そんな緊張を和らげる為か、
しかし、
趣味……
アニメ……とか、
ゲーム……とか……
プログラミングとか……
思い浮かぶのは話が盛り上がりそうもない趣味ばかり。
「女の子?」
えっ、女の子?
確かに二次元の女の子は好きだけど……
そんなのいきなり訊きますか?
「……」
そういえば、さっき女の子みたいって言われた……
女装? 僕に女装癖があるのかって訊いてるの?
「女装の趣味は……ありませんけど」
「そういう意味じゃないんだけどな」
そういう意味じゃないって……
まさか、風俗とかそっち系?
確かに彼女いないし、そう見えてるんでしょうけど、
話すのだって無理なのに初対面の人とそんな事……
「彼女いるのかなーって」
やっぱそうなんだ……
「いませんけど……」
だからって風俗には行ってませんから
行ってないけど、面と向かってそんなの否定できないし……
「そう、いないんだ」
先程までとは打って変わった落ち着いた声。そんな声で答えた
その変化に気付いたのか、
「こーら、運転中によそ見しないの!」
「はいっ、済みません……」
慌てて視線を前方へと戻す
ちゃんと前見ててくれないと、まだ二回目なんだから……
「ねえ、ほんとに彼女いないの? いそうに見えるけどなぁ」
「いませんって」
それは現在に限った事では無かった。小学校を卒業してからの7年間、彼女どころか女友達の一人もいたこともない。それどころか、こうして母親と妹以外の異性と会話するのも中1の1学期以来の事なのだ。
「ふ〜ん。じゃあ、お姉さん立候補しちゃおうかな?」
赤信号で停止したタイミングだった。思わず
「……」
立候補……
えっ、何に?
「年上じゃ興味ないかな?」
「そんなことは……」
年上っていっても26歳だし……
彼女いない……
立候補……
年上じゃ興味ない……
それって、僕の彼女に?
こんな綺麗なお姉さんが僕の彼女に?
……何か言わなきゃ
お願いします、でいいのかな……
「青よ、次の信号左ね」
「はい……」
車を発信しようと慌ててシフトレバーに手を伸ばす
「ごめんなさいっ!」
ストッキング越しとはいえ女性の柔肌の感触は
えっと、これはそういうごめんなさいじゃなくて……
じゃなくて、足、触っちゃってごめんなさいってことで……
ああああ、エンジン掛けなきゃ!
軽くパニックである。
「気にしなくていいから落ち着いて」
「はいっ、本当にごめんなさい……」
はぁ……、今日も駄目なのか……
暗い気持ちで教習車を走らす
「地元だったわよね、ネオンの色に惹かれちゃう?」
そう広くもない道路の両側には飲食店などが立ち並び、ネオンで装飾された看板が掲げられている。
「地元ですが、賭け事は嫌いなので」
だいぶ日も落ち、辺りも暗くなってきた中でひときわ目立つ存在、店全体がネオンで彩られ眩い光に包まれているパチンコ店だ。いくつかある選択肢の中から
ここは高校時代にこの先のゲームセンターへと通った道だ。そこには惹かれないわけでもないし、そっちを選んでいれば多少会話も繋がったのかもしれない。
「ふ〜ん。そこ右ね」
実際、
微妙な空気のまま、指示された通りに細い路地へと入っていく教習車。仮免許を取ったばかりの人間にこんな所を運転させるのかという狭さである。
狭っ……
大丈夫かな……
狭い路地を少し進むと、徐々に看板の数が減っていき、様相の異なる建物が姿を現す。
「じゃあ、こっちのネオンは?」
ここって……
「……」
そもそも条例により風俗店の営業は禁止されている上、地元ということもありこの辺りにそういう類の施設が在ることは知っていたのだ。
つまり、
「どうなの?」
返事を催促する
ホテル直行……
ホテル直行……
ホテル直行……
心臓が高鳴り、緊張から両手の感覚が無くなっていく。『犯罪だろ、それ』……、落ち着きを取り戻そうと否定的な言葉も思い起こす。
そうだ、犯罪だ
無理矢理連れ込むなんて……
でも、これって……誘われてるのかな……
態々こんな所通って、
こんなこと訊いてくるなんて……
誘われてるんだったら……
「
でもこの車には教習所の名前がでかでかと書かれてるんだ
誰かに見られたら変な噂が立って……
勤務中にそんなことしてた
そんあリスクを犯すんだろうか、
「ねえ、聞こえてる?」
……誘わないか
僕のことからかってるだけなんだ……
そんな風に思った瞬間、
そうだよ、こんな綺麗な人が僕なんかを誘うわけない……
僕なんて誘わなくても他にいくらだって……
最初からわかってたことなのに、
何期待してたんだろ……
結局、
そして車内は気まずい雰囲気で満たされ、美人教官からは淡々をコースの指示が告げられるだけとなった。
「はい、お疲れ様」
「ありがとうございました」
そこには『
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