教習所から始まるハーレム生活
六代目九郎右衛門
01.美人教官
01.01.美人教官
ここは都心から大分離れたとある田舎の自動車教習所のロビー。
今は本日最後の入れ替えの時間であり、そう広くもないロビーは夏休みを利用して合宿免許に訪れている首都圏の大学生たちでごった返していた。
「お前、
「いや、お前は?」
「俺もだ。だが俺は諦めない!」
「諦めなければ当たるってもんでもないだろうけどな。俺は御御足が拝めるだけでも幸せって事にしておくぜ」
「そうだな……、当たったらそのままホテル直行なのによー」
「犯罪だろ、それ。でもそん時は俺も呼んでくれ」
「俺も頼むわ。美人だよなー、
起こりもしない事に期待を寄せる男子学生三人組。
彼らだけではなく、気心の知れた者同士が集まり楽し気に語り合っている中、夕日の差し込む入り口付近、ちょうど観葉植物に隠れるようにぽつんと一人時が過ぎるのを待つ学生が居た。
彼も都内の大学に通う学生なのだが実家に帰省したついでに免許を取りに来ただけであり、ここに居る学生たちとは面識がない。勿論、知った顔が居ないわけでもない。中学の頃の同級生と思わしき者も彼と同じように実家からこの教習所へと通ってはいるのだが、抑々コミュニケーションが苦手な彼はそんな同級生たちともまともに話したことがなかったのだった。
何で僕に……
今、彼の頭の中を支配しているのはこの後の路上教習に対する不安。朝一番で路上教習の予約を入れ、学科教習後にロビーのボードに書き出された担当教官の名前を見たときからずっとこの調子だ。その担当というのが先程の三人組が噂していた美人教官、しかもこの日最終枠という日も傾き始める時間帯なのだ。
予約の時間まで大分空いていたため一旦実家に帰ったものの、その事で頭が一杯で何も手につかず、そのままこの場所に戻って来たのだった。
何話せばいいんだろう……
緊張して運転どころじゃないかも……
……ただの路上教習なんだから、会話なんて必要ない……かな。
別に黙って指示に従ってれば……
同性との会話もまともに出来ない彼にとって、異性と二人きりで過ごす小一時間をどう乗り切るかが最重要課題なのである。
「来たぞ、
三人組の一人の言葉がきっかけというわけではないが、男子学生たちが騒ぎ始めた。彼の緊張も一層高まる。
「
「ごめんねー、くじ引きみたいなものだから。次、当たるといいわね!」
路上教習を終えた彼女が
胸の辺りまでありそうな髪をポニーテールに束ね、いつも笑顔を振り撒いている素敵な女性だ。ストライプ柄のシャツに膝下までという微妙な長さのスカートは他の女性教官たちと同じここ制服なのだが、大きな胸と括れた腰が彼女たちとの次元の違いを主張している。
うわあああ、
どうしよう、僕から行かないとわからないよね……
でも、あんなに注目集まっちゃてるところには……
……もうこのまま欠席って事で
その場から一歩も動こうとしない彼。このままこうしていれば誰にも気付かれず、変な注目を浴びることもなかったのだが、彼女は迷うこと無くロビーの入り口へと向かったのだった。
こっちに来る……
僕の事なんて知らないはずなのに……
ロビーの学生たちも彼女の向かう先に居る存在に気付いたようだ。視線が突き刺さる。
「えっ、まさかあの影みたいなやつなんすか?」
どよめきが起こる。誰もが同じことを思ったに違いない。実際、彼は観葉植物の影と化していたし、観葉植物が無かったとしても彼が居る場所だけはどんよりと空気が重かったことだろう。
「影みたいって……、良くないよ、そういうの」
しかし、彼女は気にすることもなく、寧ろそんな学生たちを笑顔で諭しながら彼の元へと歩を進めていく。
「お待たせ。
貴方に敢えて嬉しい、とでも言わんばかり満面に喜色を湛え、そっと右手を差し出す。
「なんで……」
だが、
“なんで……”、彼がそう思うのも無理はない。ここに通い始めてから一週間程経っているが、彼女が担当になるのはこの日が初めてであり、こうしてロビーで話すのも初めてなのだ。名前と顔が一致しているなんて夢にも思わなかった事だろう。
「何で俺のこと知ってるんだ……、って感じかな? だって、いつもここに居るでしょ、君。あんな奴らとはつるんでられねえぜ、って感じかな?」
別にそういうわけじゃ……
「……」
思っている事が言葉にならない。
「冗談♪
「そ、
そんな呼び方をされたのは初めてだった。勿論、母親と妹以外の異性にはだが。
「だめ? じゃあ苗字で我慢しておこうかな。あっ、でも私の事は
駄目じゃ……ないけど……
「……」
思考が追いつかない。
僕なんかが……
「もう、冗談だってば。よろしくね、
徐に
「よ、宜しくお願いします……」
握られた手が引き寄せられ、後ずさった一歩分よりもなお
ち、近い……
同じ目線の高さで見つめ合う二人。
睫毛……長い……
視線が外せない。魅入られてしまったかのように
対象的に、握った手から伝わってくる
「それじゃあ、行こうか」
満足気に振り返ると、そのまま
当然だが、手を引かれて教習車まで案内される教習生など居ない。担当教官の後に着いて行くのが普通だ。担当が噂の美人教官だということもあり、男子学生たちの嫉妬混じりの呟きや女子学生の軽蔑の視線に晒され、只々顔を真っ赤に染めて後に続く
「あの……」
「なに?」
「いえ……」
手を引っ張られなくても……
その一言が言えない。
顔が熱い……
手汗、大丈夫かな……
「綺麗な手ね。女の子みたい」
女の子……
教習所のコースに照明が灯る中、一台の教習者へと乗り込む二人。エンジンを掛けると、夕闇の迫る街へと繰り出して行くのだった。
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