【声劇台本】危険な駆けっこ

でんでろ3

第1話

ト書き:このシナリオは、全編通してラスト近くまで、走りながら話している感じで読んで下さい。


男:お嬢さーん! お嬢さん!


女:あれ?


男:お嬢さーん! お嬢さんったら!


女:私ですか?


男:そう、あなた!


女:なんですか?


男:いや、お嬢さん、走ってないで、立ち止まってよ。


女:嫌です。


男:ええっ? いや、お嬢さん、これ、落としましたよ。


女:お、落としてません!


男:いーえ、落としました。


女:落としてませんったら!


男:いーえ、落としました。私、ハッキリ、見ましたから。


女:自信満々ですね。


男:はい、これは、間違いなくあなたが落したものです。


女:それ、要りません。


男:はぁ?


女:それ、要りませんから、あなたが捨てて下さい。


男:嫌です。自分で捨てて下さい。責任持って。


女:うるっさいなぁ! あんたが捨てろ!


男:嫌ですね。そういうの嫌いなんです。


女:ふんっ! それはね、爆弾なの! もうすぐ爆発するわ。早く捨てないとあなたも死ぬわよ。


男:ふーん。


女:あなた、なんでついてくるの? 早く爆弾捨てないと死ぬわよ。


男:こんな都会のど真ん中じゃ、どこに捨てても、たくさんの人が死ぬよ。


女:あなたは助かるでしょう!


男:自分かわいさに人ごみの中に爆弾捨てるってのもねぇ?


女:馬鹿なの? いえ、ごめんなさい。あなたが立派な人だってのは分かったから、私から、離れてくれる?


男:嫌だね。


女:なんでよ?


男:あんたなら、自分かわいさに、爆弾止めてくれるかもしれないから。


女:私は、ただ、爆弾を落とすだけのしたっぱよ。爆弾の止め方なんて知らないわ。


男:どうだか?


女:本当なの!


男:なんにしても、この辺に、爆弾を触ったことのある人間なんて、あんたくらいしか居ないだろう。俺は、あんたを頼るしかないんだ。


女:私は、テロリストなのよ!


男:だから、テロリストなら、爆弾の止め方くらい……。


女:知らないのよ!


男:しかし、爆弾はもうすぐ爆発するんだろう? 警察を呼んでも、とても間に合うとは思えない。


女:そこは、普通、警察を呼ぶでしょう?


男:あんたが言ったんだ。「もうすぐ爆発する」ってな。


女:それは、噓だと言ったら?


男:信じる馬鹿がいると思うか?


女:あなた、私を女だと思ってなめてるんでしょうけど、テロリストの体力をなめない方がいいわよ。


男:あんたこそ、俺をなめてるだろう? 俺は、昔、箱根駅伝で5区を任されていた男だ。日頃のトレーニングも欠かしちゃいない。振り切れると思うな。


女:それ、本当?


男:信じる、信じないは勝手だ。


女:とにかく、警察に任せるのが常識でしょう?


男:まさか、駆けっこしながら、テロリストに常識、かれる日が来るとはねぇ。


女:あんた、なんなの?


男:さぁ、なんでしょう?


女:チックショー!


男:お口が悪うございますわよ。


女:あなたは、なんで、そんなに余裕なの? あ、爆弾の話、信じてないの?


男:冗談でこんなに必死に走る女はいないね。


女:普通、自分かわいさに爆弾、捨てるでしょう?


男:普通なんざ、くそくらえだ。


女:なんでなの? なんで、あなたが爆弾拾うのよ? 私は、このミッションで英雄になるはずだったのに!


男:何十、何百という命を奪った英雄かい?


女:平和ボケしたあんたたちに言われたくない!


男:おいおい、しっかりしろよ。俺が何人に見えてるんだ? 「たち」ってなんだよ? 「たち」って?


女:違う! 私たちが戦っているのは……。


男:余裕だなぁ? 「私たち」と「あなたたち」なんて、忘れろよ。自分と今、目の前にいる、クソ憎ったらしい男との駆けっこに集中しろよ。でねぇと……、死ぬぜ。


ト書き:両者、立ち止まる。息を乱しながら、話す感じでお願いします。


女:「私」と「おまえ」の?


男:ああ、そうだ。


女:「私たち」ではなく、「私」?


男:そうだ。おまえは、生きるのか? 死ぬのか? 自分で選べ。


女:私は……、生きたい。


男:爆弾、止められるか?


女:止められる。貸せ。


男:はいよ。……警察、呼ぶぞ。


女:……おまえは、ひどい男だ。


男:今さら、だな。


女:ああ、そうだな。

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