第6話

娘は親に話すと、存外ぞんがいにあっさりと結婚が許され、祝言しゅうげんの日取りまでトントン拍子に決まりました。


島では数十年ぶりの人間の婿むこだと騒がれて何処へ行っても歓迎されました。


実は数十年前にも人間の男が遭難して島に流れ着いて島の住民に介抱されたことで、すっかり島が気に入って住み着くようになり、島の娘と結婚をしました。


ただその男はここが"鬼ヶ島"とは知らずにいて結婚後あることをきっかけに鬼たちの棲家すみかだと気づき、嫁を捨てて逃げてしまったそうです。


ただ、もう数十年も前のことで知らない若い鬼も増えたため、あまり問題にもならず、また、今回は鬼と知って島に残ると言った若者は昔の男とは違うとほとんどの鬼は受け入れてくれました。


祝言をあげるにあたり若者は一度家に帰りたいと申し出ました。


若者はすでに両親はいませんでしたが、家財の回収や長屋の家賃を溜めていたことも気になり精算したいと思い街に帰りました。


ほぼ毎日のように街に来てはいましたが、いつもはほとんど船で待っていたため、街中を歩くのは久方ぶりでした。


長屋に着くと必要な家財をまとめ荷車に積みました。


次いで大家に挨拶に行き、溜めていた家賃を売った宝石の金で全額払うと、これからどうするのかと訊ねる大家に地方に婿入りするとだけ告げ、島に行くことは話しませんでした。


船に戻ろうと荷車を引きながら歩いていると何やら人だかりがして歓声やら拍手が湧いていました。


近づいて見ると頭に桃の家紋を表した鉢巻をした侍が、家来三人を連れて鬼ヶ島に鬼退治に行くと壮行会が開かれていました。


話では、鬼たちは街で人を襲い喰って残された家財や財宝を奪っている。

だから退治をして、奪われた物を取り返すのだと意気込んでいる。


『間違ってる。この人たちは鬼を誤解している』


若者はその場で群衆を説得しようかと考えましたが、狂ったように鬼退治を叫ぶ連中に冷静な話し合いなどできないと感じ、この窮状をまずは鬼たちに知らせなければと一目散に鬼ヶ島に向けて出航しました。


しかし、いつも鬼たちを運んでいる船ではなく小さな手漕ぎ舟だったため、思うように速度が出ず、その間に侍たちが近づいていると思うと気ばかり焦りました。


やっとの思いで鬼ヶ島に着くと、家財を運び入れるのも忘れ

急いで嫁になる娘の家に向かいました。

  

「誰かいねぇか!」

大声で叫びました。

しかし、家の中から反応はなく、辺りを見回しても気配がありません。


「どこへいっちまったんだ?!」

焦りのために冷静な判断も出来ず、村中を走り回って誰かいないか探しました。


しかし、なぜか鬼たちは何処にもおらず思い当たるところは全て探しましたが誰一人いませんでした。


村に鬼がいないなら退治をされる心配がないと思い、若者は侍の到着を待ち『鬼はいない』と言って帰るよう説得をするために海岸に向かいました。


しばらくすると遠目に船が一艘近づいてくるのが見えました。


近づくに連れ侍と三人の家来が乗っているのが見えました。


「間違いない。桃の家紋の鉢巻をしたお侍さんだ。きっと事情を話せばわかってくれる」

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